15
――――依頼終了まで残り7日。
偶然は四国までを電車で乗り継ぎ――――そこからパラ島と呼ばれる孤島まで行くのに、船で移動していた。
そしてその間、偶然は――――
「ヴッ・・・・!」
――――盛大に、船酔いしていた。
「おい坊主!船は汚すなよ!」
そう呼ぶのは、船を操縦してくれている漁師――――獅子神学園とのつながりで協力をしてくれている、無精ひげを生やしたいかつい男だ。
「だから、僕のことは偶然くんと・・・・ヴッ・・・・ッ!」
偶然は口元を手で抑えながら、海に向かって「おえっ」と声を漏らす。
そんな偶然を、漁師は「はぁ・・・・」とため息を吐きながら見守る。
「ったく、いつから獅子神学園の生徒はこんなに頼りなくなったんだ?」
「おいおい、僕を他の人達と同じにしないでくれよ!頼りないのは僕だけさ!」
「威張るようなことでもないし、否定するところも違ぇな!?」
顔を真っ青にしながらそう言う偶然に、漁師は思わずツッコミを入れる。
しかし、偶然にはそれを返す余裕もなく、ひたすら海に胃の中の物を吐き出していた。
「・・・・って、お前星無しか・・・・?どおりで・・・・」
「?どおりでってどういうことだい?」
漁師は嫌なものでも見るような目で偶然をチラリと見やる。
そして「はぁ・・・・」と再び大きなため息を吐くと、わしゃわしゃと自分の頭をかきむしる。
「獅子神学園に置いての星ってのは、いわゆる経歴みたいなものなんだ。最初は才能だけがものを言う星の数だが、忠実に依頼をこなせば、その功績が認められてその星――――功績点が増える」
漁師はそう語ると、「だが――――」と続ける。
「逆を言ってしまえば、依頼をまったくこなさず・・・・もしくは失敗を続ければ、その功績点は取り上げられ、星が減ってしまう・・・・だが、基本的にその星は無くならないようになっているんだ。頑張ればギリギリ成功できるような依頼を学園が支給してくれるからな。だから、星がないって言うのは・・・・まあ何もしてこなかった不良か、ただの無能ってこった」
それがお前だ――――そう言って、漁師は話を締めくくる。
「とんでもない!僕はこの依頼が初めてなんだ!それに、僕みたいなやつが不良なわけないだろう?人を信用できないなんて最低だ!」
それに対して偶然は、立ち上がって漁師を指さし、そう言いきると・・・・再び海の方向に向き直って「おえぇ・・・・」と情けない声を上げ始める。
「はぁ・・・・この依頼が初めてだぁ?バカ言っちゃいけねぇ、能力さえ持ってりゃあ誰だって1つは星を貰える。まさか、能力無しなんてあるはずがねぇ」
「あるはずがない?とんでもない、僕は無能力者だ。むしろ、持っているやつらが異常なんだ。僕は普通だ」
「無能力者・・・・?!お前が・・・・?」
漁師は、まるでスリを目撃したかのような驚きを魅せると、すぐさま「ガハハハハ」と笑いだす。
「無能力者ねぇ・・・・そんなやつがいたら、あの学園は能力者すら生み出せない無能学園になるわけだ!」
そういうと、漁師はさらに笑い声をあげる。
その声は海全体に広がり、さらには海の底まで響き・・・・。
ただ偶然は、吐き気に襲われるだけだった。