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面白おかしく生きたいと思った経緯 その2

 冒険者になる二つ目の方法。

 それは、直接ギルドで登録する方法だ。


 字で書くと簡単そうに見えるが、実際のところ一つ目の方法より面倒くさい。

 なぜなら、一つ目の方法は金か小さい頃からの才能があればなれるのに対し、二つ目の方法は小難しい試験があるからだ。


 金があるということは、それだけ多くの英才教育を受けられるということであり、能力的にも高い人物になる可能性が高い。

 それは単純に確率の問題であり、才能がある者については言わずもがな。


 つまるところ、冒険者学校に入ることの出来る者というのは、一般人より優秀なのだ。

 卒業出来た全ての者に対し、冒険者証を渡すというのは案外、理にかなっているということである。


 では、そこから漏れてしまった者、貧乏人か才能が大してない者がギルドで冒険者証を手に入れるためには、どうするか。


 そこで、小難しい試験が登場するわけだ。


 試験の内容は毎年違う。

 知に重きを置く年があれば、武に重きを置く年もある。

 また、その中身も規則性がなく、何をやるか分からない。

 噂では、その年に不足している人材を補充するための試験となっており、それぞれの時期で求められる能力が違うということらしい。

 あくまで噂レベルでしかないが。

 何が言いたいかというと、対策をしづらいことこの上ないのだ。


 そんな小難しい試験ではあるが、しかし。

 面白おかしく生きるためには、冒険者という職が最適だというのは紛れもない事実であり、俺は今年、その小難しい試験を受けるのだ。


 ちなみに試験料は一回につき十五万ジェルである。

 今の俺にとっては中々の大金で、貯めるのにコツコツとやっていた。

 雇い主たちには内緒で、上手いこと獲物を取って、売りさばいたのだ。


 その期間、約二ヶ月。

 俺は今日。

 この地を羽ばたきます!


「おいコラ?! 早く助けろこの役立たず!!」


 今も、俺に獲物を押し付けられた元恩人の男が喚いている。

 奴はフットワークだけは軽い。

 俺が獲物を押し付けてから、何だかんだ結構時間が経っている。

 華麗な身のこなしで逃げ回る様は実にお見事。

 頭にある三本の飾りも、どこか凛々しく風に靡いている。

 しかしその時、モンスターの爪が男の頭を掠める。


 あっ!「あぁ?!」

 俺の内心の驚きと、男の悲鳴が木霊した。

 と同時にヒラヒラと、男の頭から飾りという名の毛が軽やかに舞っていった。

 ……。


 じ、実にお見事!

 きれいさっぱりすっきりとした頭に、太陽光が反射して光り輝いている。

 獲物も眩しいのか先程より幾分か攻撃しづらそうにしている。

 俺も思わず腹を抱えてしまった。

 くぅ、俺をここまで参らせるとは実に見事である。

 見事ついでにそろそろ助けてやろうか。

 男の顔が今にも死にそうになっている。

 果たしてそれが、疲れたからなのかは分からないが、流石に死なれるのは少しだけ目覚めが悪い。

 あっ、こけた。

 ……。


「グゥァガァ!!」


「ヒィ!?!?!」


 モンスターが嘶き、その凶悪な爪を振り上げる。

 男は悲鳴を上げ、反射的に目を閉じ顔の前に手を持ってきた。


 まず間違いなく死んでしまう状況。

 俺じゃなきゃ間に合わないね。


「どっせい!!」


「グゥァギャァ?!」


 俺は強靭な瞬発力を活かし、横から跳び蹴りを入れた。

 熊型のモンスターは、突然の乱入者に反応できず、為す術もなく吹っ飛ばされる。

 見た目ほど簡単ではないので、良い子は真似しないように!


「……テ、テメェ、この役立たずが?! もっと早く助けにこいや、このボケェ!!! テメェは減給だ!! 後は、キセオン様に、この事を報告してやる!!」


 俺が助けに来た途端、威勢を取り戻した男は、息をきらしながら喚いてきた。

 俺はチラリとそちらを見るが、すぐにモンスターに目線を向ける。

 なぜって、眩しいのだ。

 ピカッと光って、まともに見ることもできない。


 はっ、も、もしかして!

 こ、これが、恋ってやつなのか?!


 まあ、冗談はそれくらいにしておいて、俺に蹴り飛ばされた熊型のモンスターであるキラーベアは、俺に怒りの視線を向けてくる。

 そんな目で見られても、全然こわくはない。

 むしろ、俺の目はさぞかし、ジェルマークに輝いていることだろう。

 こいつは良い金になるのだ。

 試験料を随分と稼がせてもらった。

 お前に恨みはないが、俺の前に出てきたんだ。


「覚悟しろや」


「グゥァガァ!!」


 俺の小声な呟きを、かき消すかのような勢いでキラーベアは襲いかかってきた。


 俺はキラーベアが降り下ろしてきた爪を避け、半身になる。

 爪はそのまま地面に衝突。

 地面が砕け、石つぶてが舞う。

 流石に強力。

 だが、当たらなければ意味が無い。


「どっせい!!」


「ギャァ?!」


 キラーベアの腕を掴んだ俺は腰を降ろし、そのままヤツに背中を向けた。

 爪を降り下ろしたことで前に体重が乗っていたキラーベアは、俺の動きを防ぐことができない。

 キラーベアの巨体が浮いた。


 投げる。


「ギャァ?!」


 キラーベアの背中を地面に叩きつけた。

 その鳴き声は、悲鳴へと変わっている。

 

 投げられた経験がないのだろう。

 キラーベアは驚いたのか、動きを止めている。

 まぁ、こんな巨体を投げる馬鹿など、普通はいないだろう。


 あっ、俺がいた。

 ……。


「ゲギャァ?!」


 キラーベアから遠回しに馬鹿と言われた気がした俺は、腹いせにその顔面を殴った。

 何ゆえ?! とでも言いたげな声をあげたキラーベア。

 まあ、うん、俺も理不尽だと思う。

 逆の立場だったら、俺もそんな声を出すはずだ。

 だがな。


「じゃあな。クリエイト『ブレード』」


 俺は武器を創り出し、キラーベアの首を切る。

 ヤツは断末魔をあげることもできずに死んでいった。

 主のいなくなった首からは、止めどなく血が流れ出てくる。


 弱肉強食。

 弱いヤツは死んでいくか、搾取されるしかないんだよな。

 俺も頭が弱かったので、安く働かされていたのだ。


 ……世知辛い。


「よ、ようやく倒しやがったか! なら、とっとと解体しろ!!」


「……うるせえよ」


「は、早くしやがれ!」


 俺の呟きは耳に入らなかったのか、男は続けて催促してきた。


 はあ……。


「うるせえ!」


「なっ?!」


 突然声を荒げた俺に驚いた男は、目を見開いて動きを止めた。

 そんな男を尻目に、俺はキラーベアの前に立つ。


「クリエイト『ポケット』」


 俺はポケットを創り、獲物を中に入れた。

 相変わらず、便利な魔法だ。

 MPの燃費が悪いのが珠に傷ではあるが。

 何せ、二ヶ月前の俺だったら、一回魔法を使っただけで二~三日は身体を動かせなくなっていたくらいだ。

 魔法を使い過ぎると、身体ごと動かせなくなるのは、なぜなんでしょうかね。

 それに、俺の頭が馬鹿過ぎて、何をクリエイトすればいいのか皆目検討がつかず、使いこなすことができていなかったのだ。

 

 しかし、やはりと言うべきか、なぜかと言うべきか、二ヶ月前のあの日。

 俺の頭が避雷針のごとく、雷を集めたあの日。

 俺の頭がものすごく馬鹿という訳ではなくなったあの日。


 俺のMPは急激に増えた。

 それはもう、クリエイトを一日に十回使っても、全く無問題なくらいに。

 これも商隊の人に聞いた話なのだが、MPは生まれ持った量が決められており、年を取っても増えたりはしないらしい。

 そのため、MPの多寡も才能の一つとなっている。

 だから、今回俺に起きたことは、ものすごい幸運なのだ。

 雷に撃たれているので、その幸運を打ち消されているような気がしないでもないが。


 後は、武器を創ったりポッケを創ったり、活用法も思い付くようになった。

 本当に雷様々である。

 とは言っても、出来れば、もう俺の頭には落ちてこないでくれると、大変にありがたい。

 次は生き残れるか分からないし。


「さて、と」


「な、何をしている!? あと、今の魔法は何だ!? 今まで、そんな魔法を使っているのを見たことがないぞ?! 黙っていたのか!?」


 ……はぁ。

 どうやら、現実を分かっていないようなので教えてやろう。


「すんませんが、俺は今日、この地を卒業します! 羽ばたきます! 一応、礼だけは言っておきます! あざした!!」


「なっ?!」


「オンキセ様にもよろしく伝えてください!! それじゃあ!」


 俺は片手をシュバと上げ、爽やかな笑顔を浮かべながら、男におざなりな挨拶をするが。


「まっ、待て?! そんな勝手が許されると思っているのか!?」


 男は引き留めてきた。

 何をそんなに必死になっているのか。

 ま、何となく予想はつくが。


「俺で金儲けが出来なくなると、オンキセ様に怒られるか?」


「なっ?! そ、そんなことはないぞ?! 俺はこの地から出ていくと言ったお前を、悪い奴に騙されやしないかと、心配しただけだ!」


「ふーん」


 男はそう言うと、媚びた笑顔を浮かべながら、こちらに近づいてくる。

 頭の中では、俺をどう言いくるめようかと、計算していることだろう。


「そ、そうだ! 今回は不幸な行き違いがあっただけだ?! な!? お前も勢いで、出ていくなんて言って引っ込みがつかなくなっている、そうだろう!? 俺も大事にはしたくない! キセオン様に言うのはやめておく! だから戻るぞ!?」


 身振り手振りで説明してくる男へ向かって、良い笑顔を浮かべて。


「すんません! 俺がいなくなった後は、モンスター狩りが大変になったり、収入も少なくなったり散々だと思いますが、精々頑張ってください! 陰ながら応援しときます!!」


 俺から言われた言葉で、俺がいなくなった後に起こるであろう状況への想像がついたのか。


「ま、待て?!」


 走り出そうと構えた俺を、男は焦った様子で引き留めようとしてくる。

 残念ながら、もう遅いんだよな。


「すんません!」


 俺は形だけの謝罪をすると、その場から駆け出した。

 男は呆然とした表情を浮かべ、その場で立ち尽くすのだった。

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