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面白おかしく生きたいと思った経緯 その1

 面白おかしく生きたい。


 俺の頭を占めている考え事だ。

 もはや、病的なまでに衝動的に頭の中に流れている、その思考が止まらない。


 別に仕事をしたくない訳ではない。

 サボりたい訳でもない。


 ただ、面白おかしく生きていたい。


 暇さえあれば常々、面白おかしく生きていく方法を探している。


 だが、現実ってのはままらないもので、うまくはいかないもので。


「おい新入り! サボってんじゃねーぞ?!」


「すんません!」


「代わりはいくらでもいるんだからな!?」


「すんません!」


 また出たよ、その脅し文句。

 耳にタコどころか膿が沸くほど聞いとるわ。

 最初の一ヶ月は辛抱していたが、さすがにうざったくなってきて。


 いくらでもいるんだったら、とっとと俺をクビにして、代わりのやつを連れてくればいいんじゃないっすか。


 って、前に言ったら。


「く、口応えすんのか!? おお?!」


 逆ギレされて口応えされたから、それ以来何を言われても、すんませんって元気一杯返すようにしている。

 ただ、比例して仕事へのやる気は落ちていってるし、それでも仕事していかなきゃ食っていけないし。


 面白おかしく生きていくにはどうすればいいんだろうなーって、考えながら生きてる。


「おい新入り! そっち行ったぞ!!」


 そんなことをいつも通り考えていたら、獲物が向かってきていた。


「すんません!」


「おいこら、何でこっちに向かってきてんだ!?」


「すんません!」


「何でそんな笑ってんだ?!」


「すんません!」


「それ言えば済むと思ってんじゃねーぞ!?」


 うるせー。

 いくら俺が何もないような田舎から出てきたばっかりの新入りだからって、いつも狩りを押し付けやがって。

 これじゃ田舎にいたときと一緒じゃねーか。


 俺は面白おかしく生きたいだけなのにな。

 結局俺が出来るのは、モンスター狩りだけか。


「お前、誰のお陰で食っていけてると思ってんだ!? 俺がキセオン様に紹介したからだぞ?!」


 突然ではあるが、俺は恩義を重んじる性格をしている。

 だから、田舎から出てきて、道中で狩ったキラーボアを片手に、途方に暮れていた俺を雇ってくれた雇い主。

 ひいてはその雇い主を紹介してくれた、今も叫んでいるこの男に非常に感謝していた。

 そう、感謝していた、のだ。


 何故、過去形か。


 それは、彼らが俺を安く使い叩いているからだ。


 またまた突然ではあるが、俺は自他共に認める馬鹿だった。

 それはもう、俺が狩った獲物を相場の何十分の一の値段で買い叩かれていることに、一ヶ月気づかなかったくらいには馬鹿だった。


 そう、一ヶ月。

 田舎から出てきて一ヶ月。


 今を起点にすると、二ヶ月前だ。


 自他共に認める馬鹿だったはずの俺の頭が、その日を境に少し良くなったのは。

 マイナス地点からゼロになっただけだから、良くなったというと語弊がありそうだが。


 そして、面白おかしく生きたいと強く思い始めた、いや、自覚したのは。


 というのも、どうやら俺は田舎にいた時から、面白おかしく生きたいというか、この場所は何となくつまらないというのを馬鹿なりに考えていて、本能的に田舎から飛び出したらしい。


 馬鹿だから、そこから飛び出せば何かが変わると思って、充てもなく駆け出したのだ。


 しかし、やはり馬鹿だからどうすればいいのか分からなくなって。

 馬鹿でも、モンスターを狩る強さはまあまあ持っていて。


 そこを、俺にモンスターを押し付けられて現在進行系で逃げ回っている男につけこまれた。

 そういうわけだ。


 ところがどっこい、一ヶ月経ったある日。

 つまり俺の頭が、馬鹿ではなく能天気程度にまでマシになった日だ。


 とある出来事が起きた。


 何が起きたか。

 俺の頭に雷が落ちたのだ。


 人間、意外と丈夫に出来ているもんで、少しビリビリっと来たくらいで、あとは何ともなかった。


 周りの地面が黒こげになっていたことや、俺を診察した医者が普通は死んでるって口をヒクつかせながら言っていたことは、何かの冗談だったと思いたい。


 とにもかくにも、その日から俺は変わった。

 何となくつまらないと日々朧気ながら抱いていた想いは、面白おかしく生きていきたいという考えに変わり、彼らに感じていた恩義は、そろそろここから離れようという意思に変わった。


 ただ、ここから離れてもどうやって食べていくかという問題は付きまとう。

 馬鹿なままの俺であれば、何とはなしにつまらないと思いつつも、ここでの日々を享受していくんだろうと。


 しかし、今の俺は一味も一癖も違う。


 つまり、情報だ。

 俺に、日々面白おかしく生きていきたい、という自我とでも言うべきもの芽生えてから、苦節二ヶ月。


 何が言いたいかというと、日々上司に罵られながらも情報収集に努めていたのだ。


 と言っても、前にいた場所ほどではないが、俺が今いる場所も田舎っちゃあ田舎。

 どれほど田舎かと言うと、冒険者ギルドの支部もないほどに田舎である。


 そう、冒険者ギルド。

 俺が今まで生きてきた中で、これほどまでに心引かれたワードはない。

 あれ、そう言えば、なんで俺はこの言葉に魅了されたのか。


 ………。

 忘れた。

 そう、俺は過去を振り返らない主義なのだ。

 過去を振り返らないと言いつつ、田舎にいた時の話だったり、上司に口応えされた時の話を、割りと持ち出している気がするが、まあ細かいことはどうでもいいのだ。


 多分、面白おかしく生きていくには、冒険者という職業が最適だと。


 それはもう、俺の頭の上に雷が落ちてきたときのように、ピカーっと何かが轟き閃いたのだ。


 そう、俺は冒険者になる。


 ……それで、何の話をしていたか。

 あ、そうそう情報だ、情報の話だ。


 ここで情報なのだが、田舎なのであまり集まらない。


 そこで、たまにこの田舎に来る商隊に、モンスターの素材を掴ませて色々、こつこつと教えてもらったのだ。


 曰く、イッカクセンキン。

 曰く、命懸け。


 曰く……。

 面白おかしくばか騒ぎ。


 冒険者というのは、そのようなものらしい。

 まさに俺にピッタリな職業という訳だ。


 じゃあ、その次は何を知るべきか。


 そう。

 どうやって冒険者になるのか、だ。


 違う商隊に聞いた話によると、冒険者になるには二つの方法があるらしい。


 一つは、冒険者養成の学校に通うこと。


 しかし、これは非常に高い。

 何が高いって学費が高い。


 ばかなりに計算してみたところ、俺が月で稼ぐ金が大体ざっと一万ジェル。


 学費は月で百万ジェル。


 ぶっ飛んでる。

 正直言って頭がおかしいとしか思えない。

 話を聞いての第一印象。


 だがしかし、だ。

 冒険者学校に通うには、それだけの価値があるらしい。


 なぜなら、そこには貴族のお偉いさんどもが、わんさかと働いており、貴族の子息がわんさかと通っているからだ。

 そこで上手いこと顔つなぎして、良いところに就職が出来れば、学費など余裕綽々でペイ出来るというわけだ。

 バカって難しい言葉使いたがりがち。


 まあそれは置いといて、最悪、顔つなぎが上手くいかなくとも、そのまま本来の目的である冒険者になれば、安定はしないが稼ぐことは出来る。


 また、学校ではきっちり勉強も教えるため、選ばなければ働き口は確保出来るというわけだ。


 確かに、そう聞くと高い学費を払うだけの価値はありそうだ。

 ただ、そんなに高い学費を払えるのは貴族だけなのでは、と疑問に思ったそこの君。

 おめでとう。

 俺と同レベルの頭の出来をしているよ。


 ……。

 この国には、その冒険者学校が七つあり、毎年各学校の威信を掛けたバトル的な何かが行われるそうだ。


 つまり、優秀な人材であれば喉から手が出るほど欲しい。

 だから、貧乏人でも才能があれば奨学金が出るらしい。

 しかも、才能の度合いによっては、返済不要の実質贈与。

 さらにさらに、住まいや生活費まで出してくれるというのだから驚きです。


 そのため、領地を持っている貴族たちは、血眼になって自領を探す。

 才能あるごはいねがー、つってな。

 あれ、どこかで聞き覚えのある台詞。

 まあいいや。


 んで、才能ある子を見つけたら、自分の養子にするもよし。

 手下にして冒険者学校に送るも良しだそうだ。


 ま、こんな田舎だったら流石の貴族も探しに来ないだろうねー、ハッハッハッ。

 と、飯を食べている時に話を聞かせてくれた商隊の人が言っていたので、ちょっとイラついた。

 奴が余所見している隙に、鼻をホジホジと。

 あの時はデカイのが取れて気持ち良かった。


 おー、面白い食感だなー。

 良いアクセントだ。

 流石、女将の作る料理。


 そう言って、彼は喜んでいたので、僕も良いことをしたと、その日はよく眠れた。


 これが冒険者になる一つ目の方法。

 こっちは学校を卒業すれば、冒険者証を自動で貰えるので、冒険者になる方法。


 俺はこっちは狙わない。

 と言うより狙えない。


 もう、子供っていう年齢ではないし、何より金がない。

 おまけに奨学金を貰えるほどの才能もない。

 モンスターはまあまあ狩れるが。


 では、そんな俺がどうやって冒険者になるか。

 それが二つ目の方法なのである。


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