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剣士グラムと時空ダンジョン  作者: 二コラ-VV
スケスケ同居人編
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5.突き進む男

「──ふうぅぅぅ‥‥」

(毎度の事ながら心臓に悪い。魔物と戦ってる方がよっぽどマシだな‥‥)


 グレイアム──もとい冒険者グラムはギルドから出た途端、うな垂れて大息を吐いた。

 冒険者家業を始めて、早一年。なのに未だ受付嬢の対応に慣れない。

 コミュ症の自覚があった彼だったが、ここまで酷いとは当人も思っていなかった。


(相手が武器を手に立ち向かってくるなら、何ら緊張せずに済むのだがな‥‥)


 何故だか分からないが、冒険者ギルドの受付は皆魅力的な女性ばかりであった。

 しかも、その制服も何故か胸元が大きく開いた独特の形で、女性と言えば首や腕まで隠した伝統的な衣装の貴族子女かメイドの姿しか知らないグラムにとって、その巨大な白い二つの塊は甚だ刺激が強すぎた。

 なので他と較べて胸部装甲がかなり薄目のリタの窓口を毎回選んでいるのだが、それでもこのザマである。


 自分よりも一回り以上大きいオーガや鋭い爪と牙を持つグレートタイガーにも全く臆しない久遠流剣術免許皆伝の彼であったが、若く愛らしい女性に抗する術を今もって会得していなかった。


(まぁ、いい‥‥。ウサ晴らしにまたダンジョンにでも潜るか)


 ようやく立ち直ったグラムが歩き出すと、自然と前を歩く人波が左右に割れた。

 それはそうだろう。眼を血走らせた厳つい顔の大男、しかも背中には巨大な剥き身の剣を背負ったソレがのっしのっしと迫ってきたら、誰だって避ける。


 グラムが背負っているのは所謂バスタードソードと呼ばれる両刃の剣だが、その大きさは桁違いで彼の身長と同じ位もあった。

 しかし、その刃の部分には鋭さは無く、所々欠けていて切れ味は今一である。

 恐らくは押し切るよりも、刀身の頑強さを利用して力によって相手を粉砕する鈍器のような扱いをしているのだろうと思われ、それだけでもこの男の豪腕ぶりを窺わせ、周囲を威圧するに充分だった。


 あたかも無人の野を行くように真っ直ぐに突き進むグラム。

 だが、その足が向かうのはダンジョンの入り口がある街の中央部ではない。


 迷宮都市アリカ、それはダンジョンと共に生まれた新興の都。


 元々は小さな寒村でしかなかったアリカの近郊にダンジョンが見付かったのは、今から十六年前。一人の農夫が畑の開墾中に偶然に発見したのだった。

 当初はそれほど注目されていなかったが、とある冒険者がごく浅い階層で神の至宝とも呼ばれる聖遺物──アーティファクトを回収した事で事態が一変する。

 人口五十人にも満たない小村にその十倍以上の冒険者、商人などが犇めき集まり、村は時を待たずに町となり、やがて街となって最後は都市となった。

 

 迷宮都市、アリカの誕生である。


 今現在、回収されたアーティファクトは九つ。

 踏破された階層は六十七。

 未だ最下層が何階なのか判明していないが、六十七階で聖遺物が九というのは、他の地域のダンジョンと比較してかなり多い数である。

 加えて、浅層は簡易で安全で深く潜っていく内に徐々に踏破が困難になっていくというオーソドックスタイプを見事に体現していたアリカのダンジョンは、初心者からベテランまで楽しめる(?)理想的なダンジョンであり、至極人気が高かった。

 そのお陰で都市は今も外へ外へと拡張を続けており、芸術と文化の国ノーグリスタ宜しく劇場や博物館などの施設が次々と建築中であった。


 そんな毎日がお祭りのような賑わいを見せる大通りを通り過ぎ、グラムはやがて都市部と郊外とを分ける関所に辿り着く。

 いつもの様に強固な石造りの門を抜けながら、フルプレートの鎧に身を包んだ二人の門番に目礼して進むと、眼前一面に緑の草の海が広がった。


 ここからは“人”の領域ではない。獣と“魔物”の領域だ。


 獣と魔物の違いは端的に言えば、体内に魔石を有しているか否かである。

 魔石というのは文字通り、魔素を呼ばれる自然のエネルギーを溜め込んだ石で、その魔素を糧として魔法は顕現する。魔素を励起させ特定の指向性を持たせたモノが魔法だと考えていい。

 まぁ、とにかくこの世界において必要不可欠の物質が魔石だった。


 そして、その魔石を回収し、ついでに魔獣──魔物と獣の脅威から戦う術を知らない一般市民を守るのが、グラムが務めている冒険者という職業である。ダンジョン探索もその一環。非常に危険で命を落とす者も少なくないが、一攫千金を狙える側面も併せ持つギャンブル性の高い仕事でもあった。

 尤も、グラムが冒険者になったのは、そこに魅力を感じたからではない。

 彼には、それしか出来なかったからだ。


 唯一の取り柄である剣技を生かすには兵士か都市警邏官になるか、それでなければ道場でも開くしかない。

 ないのだが、先二つになるにはコネが要る。貴族位を剥奪されたグラムに頼るツテなどある筈がなく、また後者は単純に人気がなかった。

 対人戦闘に特化している正統派剣術は主に魔物相手に戦う冒険者たちには軽んじられていて、礼儀作法に厳しい面も受けが悪かったのだ。

 実際には、かなり有効であったのだが‥‥。


(まぁ仮に道場を開いた所で、俺が人に教えられるとも思えぬしな)


 言葉に出さなくとも心を読めるような人間がもし居たら、自分も弟子を迎えられるのにな──そんなバカな事をツラツラと考えている内に彼は目的地に着いた。


 林とも呼べない十数本の木立に囲まれた一軒の二階家、そこはグラムの自宅だった‥‥。

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