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剣士グラムと時空ダンジョン  作者: 二コラ-VV
魔剣製造編
45/133

42.襲撃する男

人を殺す場面があります。

 その夜、ロンバルドに在るフランベル家の別荘の居間では、貴族の邸宅には余り相応しくないメンツが十人ほど集まっていた。

 堅気ではない、裏社会にも関わっていそうな、そんな男達だ。

 その彼らが一仕事終えた自分への御褒美とばかりに酒を酌み交わしていると、遠くから何か重い物が倒れたようなドーンという物音が聞こえてきた。


「ああ‥‥? 何だ今のは? おい新入り、行って確かめて来い」


 酒瓶を手にした頬に向こう傷のある男が、近くにいる若者に命令する。

 若者は如何にも面倒臭そうに腰を上げると、フラフラと千鳥足で扉の方へと歩いていったが、


 ──ドバーンッ!


 外開きの筈の大扉が何故か内側へと吹き飛び、若者も一緒に吹き飛ばされた。

 一斉に色めき立つ男達。

 絨毯から舞い上がった埃が大量に煙る中、大柄の影が進んで来る。

 幅広のバスタードソードを軽々と片手に持ち、厳しい視線で辺りを睨み付けて、その威容を誇るのは勿論我らが主人公のグラムである。


「お、お前はッ! どうしてココが分かった?!」


 向こう傷の男が叫んだが、グラムは一顧だにしない。

 周囲をグルリと見回して、


「──マリアベルは何処だ?」


「誰が貴様なんぞに話すか! れッ。全員で囲んでなぶり殺しにしろッ」


 その号令で、他の男たちが素早く動いた。

 半素人かと思いきや、グレイウルフ宜しく中々の連携である。隠蔽工作はお粗末だったが、対人戦闘にはかなり慣れているようだ。傭兵かも知れない。


 決して動きを止めず、剣の間合いのギリギリを摺り足で弧を描く男達。


「──ほぉ‥‥」


 グラムの口元から軽く感嘆の息が洩れた。

 だが、ソチラにかけては彼の方がエキスパート。対人戦闘に特化した久遠流剣術を修めたグラムには、相手の動きが完全に見えていた。

 だから、息と足音を殺して背後から近付く男の気配も、当然分かり、


「──ふッ!」


「あ‥‥、ごぁッ」


 グラムの振り向きざまの一閃で、男は上下真っ二つになって床に転がった。


 彼は決して殺人を“是”としている訳ではない。だが、忌避もしていない。

 『殺るべき時に殺れない者は、いずれ殺られる』──それは彼の剣の師であるノーラの言葉だが、その考え方は彼の信条とも一致していた。


 そして、ノーラから教えられた別の事柄も思い出す。


(この手の小集団を相手取るには──先ず、頭を潰す!)


 人の死が恐らくは日常茶飯事の彼らからしても、グラムの剣技は予想外の威力だったのだろう。殺された男の後に続いて、一斉に切り掛かろうとしていた他の者の出足が一瞬しり込みして止まる。

 けれど、ソレは最悪の行動──前回の時のような、お目こぼしはなかった。


 ──ズパンッ!


 再びバスタードソードが鈍い光を伴って瞬動した刹那、頬に向こう傷の男の頭蓋が輪切りにされた。

 まるでスローモーションを見ているかのように、頭皮を纏った頭骨と脳と脳漿がバラバラに分離しながら飛んでいき、その様子を誰もが唖然と見送った。


「た、隊長が‥‥ッ!?」


 これでもまだ抵抗するつもりなら、グラムは彼らを皆殺しにする腹だった──が、しかし男達は最後だけは賢明な選択をした。


「──こ、降参する。全員武器を置け。副長命令だ」


 どうやら彼らは元軍属の、やはり傭兵らしい。副長を名乗った彼の言で他の男達は素直に武器を床に落とし、両手を上げた。

 数の優位はまだあるが、それで勝てる相手ではないと全員が踏んだようだ。


「頼む。命だけは助けてくれ。こちらもビジネスだったんだ」


「──よかろう。それでマリアベルは何処に居る?」


「それは‥‥」


 副長が応えかけたその時、グラムは背中にチリッとした違和感を覚えた。

 リリーシアが彼に施してくれた“聖印”が反応していた。周囲の魔素濃度が高まって、集束していくのを感じる。


(これは‥‥間接攻撃魔法か!?)


 ファイアボールやウォーターランスなどの直接攻撃ではなく、どうやら毒、麻痺、盲目などのバッドステータスを付加する魔法を何者かがグラムに向けて発動しようとしていた。

 けれど聖印が、その術者の位置を正確に教えてくれる。


 彼は、手近にあった居間の椅子の背を鷲掴むと、「うおりゃあッ!」と、気合一閃でソレを右斜め後方に思い切り投擲した。

 例えゲローニが座っても大丈夫そうな重厚な椅子が、その重さを感じさせぬスピードで真っ直ぐに飛んでいき、二階の廊下の柱の陰からグラムに向けて杖を翳していた男の顔面を、狙い違わず見事に直撃する。

 椅子はバラバラに砕け散り、魔法使いの男の顔も目鼻が潰れて飛び散った。


 グラムは、ゆっくりと振り返る。鬼のような顔をして。


「ち、違うッ! アイツは俺達の仲間じゃない。雇い主の貴族女が囲ってた奴隷魔法士だッ」


 副長が額にタップリ冷や汗を掻き、慌てて弁明した。

 他の男達もコクコクと懸命に頷く。


「──うむ。‥‥で?」


「き、貴族女は二階の奥の部屋に居る。お付はさっきの男だけだから、今は一人だ」


「分かった。お前達はそこで正座してろ。勝手に逃げようなどと思うなよ」


 全員が即座にその場で正座したのを確認し、彼は二階へ続く階段を昇っていった。

 無残に血みどろとなった魔法士の遺体を跨ぎながら、グラムは思う。


(──やはり、リリーシアを置いてきて正解だった)と‥‥。

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