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剣士グラムと時空ダンジョン  作者: 二コラ-VV
魔剣製造編
41/133

38.思いつく男

評価いただきました。ありがとうございます。


〈よっしゃ、今度は私の番ね。いっくわよー!! グラム、さっき言った通りにお願いするわ!〉


「おうッ!」


 何故だか妙に張り切った声が、グラム邸の庭に響いた。

 魔高炉の中でドロドロに融かされた灼熱の剛鉄の鉱石に、グラムは耐熱仕様の特別製の柄杓を突っ込む。

 それと同時に、エルマが緑の光を放つ小型魔法陣を四つ展開して、ジュエルゴーレムとの戦闘でも使用した重力結界の三角錐を形成した。


〈いいわよ、グラム。タップリと中に注いで〉


 そんなヤバ目のセリフを彼女が吐くと、グラムは長い棒の先端から熱いモノをブチ撒けた──勿論、融かした鉱石の事である。決して誤解なきよう。

 柄杓からドロドロと落ちていくソレは、途中で三角錐の結界の力場に捉われて落下を止め、空中で固まりとなり球状に溜まっていく。

 まるで超特大のオレンジ色の宝石のようだ。


〈さぁ、やるわよぉ。──高圧縮(改)ッッ!!〉


 エルマが叫んだ途端、彼女の足元にあったボス魔石の一つがパンッと割れて、三角錐の各辺が一際輝く。

 すると、オレンジの宝玉の滑らかだった表面が、ボコボコと金平糖のように角勃って何度も変形を繰り返し、徐々に融解物は大きさを縮めているようだった。


〈もういっちょ、高圧縮(改)ッ!〉


 再びのエルマの掛け声に足元のボス魔石が更に破裂して、その内部に溜め込まれていた大量の魔素が解放され、魔法陣へと吸収されていく。

 そして即座に励起されて圧縮魔法の糧となった。


 階層ボスから回収される特大の魔石は、ザコ魔物の体内のモノの最低でも数百倍もの魔素を内包する、と言われている。

 当然ながらその価値も高く、市場価格で買うならば一つで凡そ大金貨二から三枚──四人家族が充分二ヶ月は暮らせる金額である。

 それが、今も──


 ──バシンッ、バシッ、バシンッ!


 ──と、連続で何個も弾けていく。吝嗇家が見たら卒倒しそうな光景だった。

 そうして圧縮魔法の重ねがけというチョー贅沢な工程を二度ほど経た結果──。


〈おお、出来たじゃん。やっぱ私ってば天才よね〉


 そんな自我自賛するゴーストの前に在ったのは、最初の宝石のようだった姿とは似ても似つかないスチールウールの塊みたいなスカスカの妙ちくりんな物体。


「──出来たのか?」


〈まぁ、ね。ちょっと割ってみ〉


 地面に落ちているソレを拾い上げ、グラムがほんの少し力を入れる。

 すると、それだけでスカスカの表面がポロポロと簡単に剥がれていき、まるで卵の殻と白身を一緒に剥いているような感覚で、やがて黄身に当たる部分が現れた。


「こ、これは‥‥ッ!?」


 途端に、グラムの目が驚愕に見開かれる。

 こんなモノを見るのは初めて──いや、“見ない”のは初めてだった。

 見えているのに、何故だか見えない。

 夜の闇さえ敵わない、黒の中の真の黒──全ての光を拒絶するような暗黒の金属がソコに存在していたのだった‥‥。




「──んで、そいつがコレって訳、か‥‥」


 再び二十一年前のロンバルドのエド工房。そこで主の刀匠エドは低く唸った。


 彼の前の作業台の上には、ハンドボールの球から野球の硬式球くらいまで大きさの大小入り混じった漆黒の地金がズラリと三十個ほど並んでいる。


「俺も相当イカれてると思ってたが、アンタは俺以上だな。ダンジョンボスの魔石を湯水のように使って金属を精錬するなんざ、前代未聞の大バカ野郎だぜ。ククク‥‥ガッハッハハハ!」


 エドは遂に堪えられなくなって、大声で笑いながら、


「純度ほぼ百パーの剛鉄の塊とはな。こりゃ、もう剛鉄とは呼べねぇ。剛神鉄だッ」


 彼が興奮して膝をバシンと叩くと、横に居たグラムは満足気に頷いた。


「うむ、剛神鉄か‥‥。良い名だ。それでだが‥‥」


「ああ、勿論打ってやるよ。こんな超極上の材料を用意してくれたんだ。仮にも刀匠の端くれとしちゃ打たずにはいられねぇッ。この俺様が全知を注いで魂を込め、魔王だろうが神だろうがブッた切れる最強の一振りを鍛えてやるぜぇ!」


 そこまでノリノリに言うと、エドは表情を急に引き締め、


「只な、コイツは今まで扱った事のない未知の金属だ。特質も何も全く分からん。だから、それを調べる為の時間が欲しい。焦って失敗したくねぇんだ」


「──それには、どれ程かかる?」


「悪いが一年待ってくれ。一年後には必ず完成させるから」


 グラムが見込んだ刀匠が一年掛かると言うのだ。ソレを待つしかない。

 それに彼には裏技がある。

 グラムは肩に掛けていたマジックバッグから白金貨を三十枚取り出し、無言で作業台の上に置いた。


「──では一年後に‥‥」


「おお、一年後に。またな!」


 グラムが上機嫌でエド工房の外に出て行くと、犬小屋の前で柴犬モドキと遊んでいたリリーシアが走ってきた。


「兄さま、ご用は無事済んだのですか?」


「うむ、一年後だ」


「そうですか。では帰りますか」


 二人はすっかり冬の装いに変わったラオリ湖の湖畔をのんびりと歩きながらロンバルドを目指す。所々、薄っすらと氷が張った湖面にリリーシアは目を向けながら、


「今回はエルマ先生に、すっかりお世話になってしまいましたね」


「うむ‥‥」


「出来れば、何かお礼をした方がいいと思うのですが‥‥」


「うむ‥‥」


 確かに、それはそうだ。今回の骨折りはグラムにとっては自分の事なので苦労するのも当然だけれど、本来エルマには無関係の事である。

 とは言え、お土産を買っていくにしたって、ゴーストは何も食べられないし、アクセサリー等を身に付ける事も不可能だ。

 では、どうすれば?


「──おお、そうだ。“アレ”があった」


 グラムはマジックバッグに手を入れて中身をかき回し始め、そして奥の方から長方形の銀色の箱のようなモノを取り出した。

 それは、キラーオーガを最初に倒した時に十階層の宝箱から入手した“思い出の小箱”──つまりビデオカメラだった‥‥。

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