表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣士グラムと時空ダンジョン  作者: 二コラ-VV
妹、救出編
16/133

14.希望を見出す男

評価いただきました。ありがとうございます。

〈ちょっとアンタ、いるー?〉


 その問い掛けに、ガランとしたグラム邸の居間からは応える声はなかった。

 

〈──ったく、またダンジョンに篭ってるのね。ホント無茶ばっかりして、いい加減にしないとマジで死んじゃうから〉

 

 エルマは腕組みをして口をへの字に曲げる。


 グラムが帰って来て十日、彼は殆どの時間をエルマ・ダンジョンの中で過ごしていた。それこそ寝食を忘れ、何かに取り憑かれたみたいに魔物狩りに猛進し、偶にフラリと戻って来ては今度は大剣の研ぎに精を出す。

 一心不乱に刀身を磨き、所々欠けている刃を強引に研ぎ出して、それが終わるとまたダンジョンへと潜っていく──その繰り返しの日々だった。


〈何を聞いても全然話してくれないし、ちっとはこのお姉さんに相談しろッ〉


 まぁ確かに二十才のグラムよりはエルマの方が年上だ。ゴーストになってからの期間も合わせれば年の差は‥‥言わずが花である。


〈傷心男子の一人くらい、私が慰めてやるっつーの。何ならスケスケの下着姿でも拝ませてやろうかしら?〉


 そう言って、エルマは自分なりに精一杯の悩殺ポーズを鏡の前で決めてみたが、


〈‥‥やっぱムリか。確かにスケスケだけど意味違うし。いや、でも別の方法で慰めるのは? 例えば時空魔法の応用で物を動かす時みたいに、アレをアレすれば‥‥〉


 その顔が見る見る赤らんでいき、エルマは突然絶叫した。


〈できるかぁーーッッ!〉


 死んでいるのに肩で大きく息を吐き、彼女はグッタリと疲れていた。


〈‥‥もう帰って寝よ〉


 ──と、その時、テーブルの上に乱雑に置かれていた数枚の紙片に目が留まる。


〈あん‥‥? なになに、“リリーシア・グラハムの消息に関する報告書”?〉


 エルマはそのレポートに目を落とし、中身を精査するように読み始める。

 そして一枚目を読み切ると、


〈──十才って事は流石に恋人じゃないわよねぇ。あ、でも貴族や金持ちとかだと許婚って可能性もあるのか。ああクソ、重なってて下が見えないじゃないの。‥‥しゃーない、久々にやってみるか〉


 彼女は紙の束の少し上に掌をかざして置き、何やらモゴモゴと唱え始める。

 すると、掌にうっすらとだが光が纏い、そのまま手を動かすと一番上の紙も一緒にスーッと横へスライドした。


〈おぉ、やったじゃん私! 本来の力は見る影もないけど、紙程度なら余裕だわ〉


 思わずガッツポーズをするエルマ。けれど二枚目、三枚目と同じ調子で読み進める内に、その表情が次第に険しくなっていく。

 そして全部のレポートを読み終えた後、彼女は腕組みをして何やら思案を始めた。

 

 タップリ熟考する事、一時間余り。遂に結論が出たようだ。


〈‥‥何とか、なるか──ううん、何とかするべきだわ!〉


 そう呟いた彼女の瞳には、ゴーストとは思えぬ強い意志が宿っていた。

 

〈えっと彼女が襲われた日付は‥‥。えぇッ!? 一年後まで二週間しかないじゃん。間に合わなくなるッ。アイツ、何やってんのよ。早く戻ってきなさいよぉッ〉


 イライラとした口調で、エルマは地団駄踏み鳴らす。勿論、足音はしないが。

 

〈あのバカ、大バカ、バカ、バカ、バカ、バカグラムぅッ。早く帰って来い、バカ、バカ、バカぁ、大バカグラムぅッ! このクソバカぁッ!!〉


「‥‥さすがに『クソ』は言いすぎだと思うぞ」


〈うひゃうッ?!〉


 突然背後から声を掛けられて、エルマは文字通りの意味で飛び上がった。


〈心臓が停まると思った〉


「ゴーストの癖にそんなに驚くな。第一、心臓なんてもう停まってるだろ」


〈そこはお約束のアンデッド・ジョークってやつで──って、そんなの言ってる場合じゃないわよッ。アンタ、今すぐダンジョンに行きなさい!〉


「いや、今帰ってきたトコなんだが‥‥」


〈リリーシア・グラハムって子、助けたくないの‥‥?〉


 その途端、グラムは目を見開き、けれどすぐに顔を横に逸らせて視線を泳がせた。


「──アイツは‥‥妹は、もうこの世にはいない。助けたくても、俺にはもう、どうにも出来ないんだ‥‥」


〈そんな事ない。手はあるわよ。確実ではないけど〉


 その言葉を聞き、グラムは顔を正面へと戻す。


「ほんとう‥‥なのか?」


〈ええ、ホントよ。私の話、聞く?〉


 彼は頷き、今度こそしっかりとエルマの目を見詰め返したのだった‥‥。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ