ともだち
怒涛の快進撃から一週間が過ぎた頃、今度は智子が香を喫茶店に誘った。
『香、今まで本当に有り難う。色々ごめんなさいね。』
智子は改まってお礼を言った。
『え?いいのよ、気にしないで。』
香は相変わらずカラッとしていた。
『そう言えば、家のパン屋が盛り返したの、あれも香のお陰だよね?』
智子が唐突に質問した。
『な、何?急に。』
香がビックリしている。
『あと、副担任がみっちりついたのも、香のお陰よね?』
智子が続けて話し出した。
『え?そんなの私知らないわよ。』
香は惚けている。
『ふーん。まあ、いいわ。』
智子はジュースを飲んでいる。
『ねえ香?ところで、あの四人はこれからどうなるの?』
智子が香に質問した。
『そりゃ、首を吊るまで追い込むだけよ。年内には4人とも間違いなく、この世から居なくなるわね。』
香が得意気に話し出した。
『ふーん、そうなんだ。みんな死ぬんだぁ。』
智子は下を向いていた。
『全部智子のためなんだから!』
予想に反して落ち込んでいる智子を見て、香が不思議そうに言った。
すると智子は急にパッと香の方を向いた。
『じゃあ、止めて。』
智子がキッと香を見た。
香はびっくりした。
『な、何で?みんな智子を殺した奴等なのよ?』
香が不思議そうにしている。
『私、生きてるわ。』
智子が言い返してきた。
『は?全部あんたのためにやったのに、何よ今さら!』
香も怒り出してきた。
『頼んでないわ。』
智子はあの日言われた台詞をそのまま返した。
『香なら、今からでも彼らを助けることが出来るでしょ。お願い、彼らを許して欲しいの。』
智子は目に涙を浮かべている。
『どうして今さら!悔しくないの?今度こそ幸せになりたくないの?』
香がかなり怒っている。
『私、誰かを犠牲にしてまで幸せになろうとは思わないわ。』
智子は一歩も譲らない。
『智子が何を言っても私は絶対やめたりしないわ!智子を追い込んだあいつらは、絶対許さないんだから!』
香が顔を真っ赤にしている。
『今回のことで、もし誰かが死ぬようなことがあれば、私も死ぬわ。』
智子が脅しかけてきた。
『え?何よ、その言い方!全部あんたのためにやって来たのに、私が悪いみたいじゃない!いいわよ、智子なんて!あの時みたいに何度でも見殺しにしてやるんだから!』
香が強気に攻めてきた。
『あの時?ああ、首吊りの時ね?』
智子は意外に冷静だった。
『あれからずっと気になっていたのよ。何であんな山の中に蛍がいたんだろうって。そしてある日ようやく気づいたの。あれは、蛍なんかじゃないわ、あんたのスマホの明かりだったのよ!』
智子は香をじっと見つめた。
『あんたは、衛星をハッキングさせて、スマホで私を見張っていたんだわ!
私が首を吊らないで、生きることを選んでくれることを、あのおまじないを小声で唱えながら、一時間ずっと私を見張っていたのよ!』
智子は目から涙をぽろぽろ流していた。
『そんなあんたが私を見殺しにする?出来るもんならやってみなさいよ!』
智子は香を責め続けた。
『な、何よ~。』
今度は香がベソをかいた。
『香!私はね、あんたと友だちならそれでいいの!あんたに罪悪感を背負って生きて欲しくないのよ!』
智子が香を叱り出した。
『ざ、罪悪感なんて、私には無いわよ!』
香が半泣きで答えた。
『香、あんたの方こそ何も分かっていない!何も分かっていないわ!
人間なんてね、醜い生き物なの!いい人なんていないの!それは私も含めてなのよ!』
智子が捲し立てている。
『ただあんたは違うわ!優しすぎるのよ!どんなに頭が良くたって、そんなに優しい心を持って生きていけるほど、世の中は甘くはないわ!
ましてや、心根の優しいあんたが、誰かを殺して罪悪感を背負ったまま、生きていけるわけ無いでしょう!』
智子は香をキッと睨み付けた。
香はしくしく泣いている。
『香、もういいの、もういいのよ。私は香と二人またこうやって、ともだちで居られればそれでいいのよ。だからねっ、もうお願いだから、こんなことやめよ?』
智子は香の肩をぎゅっと掴んだ。
香はコクっと頷いて涙を拭いた。
一方、いつも珈琲一杯で熱く物議を噛まし合う二人を見て、喫茶店の店長は、今日も追加オーダーを心待ちにしていたのであった。




