飯島 陽子
飯島陽子は綺麗な女だった。
モデルのようにスラッとして、常にブランドを身に付けていた。
父は日本のルイヴィトン本店の部長であり、飯島陽子も東京の有名私立大学を卒業した後、父の息のかかった銀座のルイヴィトン専門店の副店長を任され、行く行くはその店の店長を任されることになっていた。
そこへ、香は智子を連れてズケズケと遊びに行った。
『いらっしゃいま…』
店長が、普段着の小娘二人が入店してきたため、一瞬ぎょっとした。
『香、私たち絶対場違いだよ!』
智子は泣きそうだった。
『いいの、いいの。あのぉ、こちらに飯島陽子さんは居ますか?私たち高校の同級生で、遊びに来たんです。』
香はニコニコしている。
それにいち早く気づいた飯島陽子が急いで駆け寄ってきた。
『ちょっと!智子じゃない?何しに来たのよ!』
飯島陽子はかなり怒っている。
『ここはあんた達が来るような所じゃないのよ!そんなことも分からないの?』
飯島陽子がカンカンに怒っている。
店長もキツく睨んでいる。
『おい、お前ら、バカなのか?早く出ていけ!』
店長が怒鳴った。
智子は怖くなり香の袖を引っ張った。
『あれれ?せっかく智子が買い物に来たのに、唯一優しかった飯島陽子さんのお出迎えときたら。』
香がふざけている。
『ほらっ!ブスども!出てけっ出てけっ。気持ち悪い。』
店長が小突き出した。
すると突然、香が流暢なフランス語で、
《この間出た、限定モデル2つ下さい。》
と叫んだ。
店内が一瞬ぎょっとした。
みんな何を言っているのか分からなかった。
《あれれ、フランス語分かる人はいないのかな?ヴィトンと言えばフランス語って、田舎者の考えそうなことだわね、やだっ恥ずかしい。恥ずかしくて南プロヴァンスに行きたい気分》
香が何かフランス語でボケている。
すると、中国人らしい店員を香は見つけて、
『あら?あなた中国人?じゃあ中国語なら分かるかしら?』
と日本語で話した。
《この間ニュースで話題になっていた、ヴィトンの限定モデル、私は要らないんだけど、この子に2つ頂戴。》
と、今度は中国語で流暢に話し出した。
店内全員ぎょぎょっとしている。
《す、すいませんお客様、店内にはそちらの限定モデルはおいてありません。》
中国人の店員が中国語で返した。
『嘘でしょ?置いてないの店長?』
今度は日本語で店長に話しかけた。
店長がキョトンとしている。
『おんや?あんた、もしかして銀座の本店にいるくせに、フランス語も中国語も話せないの?嘘でしょ?』
香がキョトンとしている。
《ふぅー、じゃあ世界共通語の英語くらいは分かるわよね。》
香が英語を話し出した。
店長も、香がただ者でないことに気付いたらしく。
《先程は、た、大変申し訳ありませんでした。》
と英語で返した。
《この間ニュースでやってた、ヴィトンの限定モデルが欲しいんだけど?ここ、ないんでしょ?》
香が英語でペラペラ話し出した。
店内全員が香を見ていた。
《大変申し訳ありません。フランスからのお取り寄せになります。》
店長がペコペコし出した。
《じゃあ、本当は要らないんだけど2つちょうだい。》
香は何か取引をしている。
《あのう、大変恐れ入りますが、そちら一つ200万ほどされるんですが、お支払の方は?》
店長がニタニタしだした。
『ああ、安心して。これでお願い。』
急に日本語に戻った香は、財布から真っ黒なカードを取り出した。
『あのう、こちらは?』
店長が見たときもないオモチャみたいなカードを出したので、(こいつやっぱり金なんか無いんだな)という顔つきで香の方を見た。
『う、うそん?漆黒カード知らないの?まさか、使えないわけじゃないわよね?』
香が泣きそうになっている。
『私現金なんか無いわよ?』
香がうるうるしている。
『すいませんお客さま?そちら何かのポイントカードではないでしょうか?』
店長が強気に出た。
すると香は左のポケットから国際電話を取りだし、どこかに電話をし始めた。
すると香は暫く誰かと、またフランス語で話をし出した。
そして、防犯カメラの一つに向かって、先程の漆黒カードを、カメラに映るように差し出し、
『はい、支払い完了。ごめんなさい。フランスの本店で直接買ったわ。色々ありがとう。』
そう言って、香は電話を切った。
すると、香が電話を切るや否や、店長にどこかから電話がかかってきた。
店長は大慌てで電話に出て、電話に出ている間ひたすらペコペコとしていた。
『すいません、すいません、すいません、大変申し訳ありません、いえいえそんな、はい、はい、大変申し訳ありません。それだけは、それだけはご勘弁を。』
店長が無様に流暢な日本語でペコペコしている間、香は飯島陽子の目をずっと睨んでいた。
『帰ろう智子。もう、だから私たちこんなところ場違いだって言ったじゃない。私いつもニューヨークで買い物してるのに、智子が飛行機恐いって言うから。
ニューヨークなら私、友達沢山いるのに。
こんなホームセンターの隅にあるブランドショップに連れてきて!
こんなに恥をかいたのは生まれて初めてザマス!』
そう言って二人は店を出た。
店長はまだ電話越しにペコペコしていた。
銀座の本店を出た帰り道、智子は考え事をしていた。
確かに香の快進撃は凄かった。
見事に4人とも成敗してくれた。
胸がスッとしなかったかと言えば嘘になる。
でも智子は、自分がそんなことを望んでいないことに気付いていた。
智子は何かモヤモヤした部分を残したまま家に帰った。




