平光 由憲
平光由憲は、あれから千葉の国立大学を卒業し、地元の群馬銀行に勤めていた。
智子の高校は群馬の指折りの進学校だけあって、どいつもこいつもエリート揃いだった。
智子は平光由憲にもかなりのひどい目に会わされている。
休み時間には、智子の鼻を吊り上げて、顔を動画で撮影し、ネットに流して晒しものにしていた。
再生回数が思いの外伸びなかったのも智子は悔しかった。
ある日、香は智子を連れて、群馬銀行の本店に向かった。
『か、香、流石にこれはヤバイでしょ?絶対怒られるわよ!』
智子はもう泣いていた。
『うっさいわね!』
香はいつも智子に怒っている。
香は本店に入るや否や、スマホで電話を掛け出した。
『もしもし、部長?香だけど、今本店のフロントにいるから迎えに来て欲しいの。』
そう言ってスマホをブチっと切った。
すると、ものの15分もしない内に、偉そうな社員たちが2、3人、香の方へ飛んできた。
『真鍋様、お久しぶりです。いやはや、ご連絡頂ければ、私、直ぐにでも飛んで参りましたのに!』
偉そうな親父が香にペコペコしている。
『そう云うの、いいから!』
香はツンツンしている。
『た、大変申し訳ございません~。』
親父は何故かペコペコしている。
既に香に飼い慣らされている様子だ。
『ささっ。こちらでごさいます。』
そう言って私たちは部長室まで案内された。
部長室に入るや否や、偉そうな親父は香の機嫌を一生懸命取り出した。
『真鍋様、何を飲まれますか?いつもの最高級ジャスミン茶でしたら、私、直ぐにでもご用意させますが。』
親父は必死だった。
『じゃあ、それでお願い。』
『お連れの方は何になさいますか?』
今度は私に聞いてきた。
『この子はミルクで。』
香が勝手に決めた。
『畏まりました。』
そう言って、親父は直ぐに両脇の男達に小声で手配させた。
『ああ、女に生まれて良かった。』
香は艶かしくこちらを見ていた。
『ところで今日はどのようなご用件でしたでしょう?』
部長がニコニコしている。
『実は貯金を全部下ろそうかと思って。』
香が真顔で答えた。
『ま、またまたまた、ご、ご冗談を!』
部長は一瞬気を失いかけた。
『ウ、ソ、』
香がニコッとした。
『もっ、もっ、もっ、も~う、真鍋様~、私、心臓が止まりましたよ~。』
部長は汗をだらだら流している。
たぶん本当に止まったんだと思う。
部長はもう完全に香に手懐けられていた。
『実はいじめて欲しい社員がいるの。』
香がジャスミン茶を飲みながら本題に入った。
『ここの社員の平光由憲って言うんだけど、高校の時にこの子に酷い苛めをしたの、私それが絶対許せないの。
しかも、ただ苛めただけじゃないの、この子を自殺へ追い込んだのよ、ほら!』
そう言って香は、私の白目を剥いて、舌をベロンと出している顔の写メを部長へ見せた。
『うぷっ』
部長はハンカチで口を覆った。
『だから平光由憲を、ただいじめて欲しい訳ではないの。35歳くらいまでは辞めない程度にいじめて欲しいの。
そして35歳の再就職が厳しい辺りに退職に追い込んで欲しいの。出来ればその前に住宅ローンも組ませて欲しいわ。』
香は淡々と話している。
『でも、お礼はするわ。前みたいに回収の難しい債権があったら、何件かやってあげても良いわ。もろちん、部長さんの実績でね!焦げ付き出されるとかなりまずい、大きなのに限るけどね。』
香は淡々とお願いしている。
『それに、あの事も黙っといて、あ、げ、る。』
香の頭に角がにょきっと生えた。
『も、も~う、香さま~ん。』
親父が気持ち悪くじゃれてきた。
すると突然香は真顔で部長を睨み付け、
『本当だったら、この銀行ごと潰してやっても良かったんだけど、部長さんの可愛い顔が急に頭に浮かんじゃってね。』
香は部長にテヘッとした。
『香さま~ん。』
部長は完全に萌えっとしている。
『じゃ、宜しくね。』
そう言って、香と智子は本店を後にした。




