説教
智子が意識を取り戻して一時間ほどが経った。
智子も香も落ち着きを取り戻し冷静になっていた。
すると智子が、沈黙を破るように香に質問した。
『香、あの時帰ったふりをして、木陰でずっと見張っててくれたの?』
智子が嬉しそうに質問した。
『まさか、写メを撮りに戻っただけよ。』
香は冷静に答えた。
『うそ!私が首を吊ったとき、相当焦ったでしょ。』
智子が言い返した。
『え?別に。あんたの顔が面白いことになっていたから、写メ撮ってたのよ、そしたら智子がしがみついてきて、ほら!』
そう言って香は智子にスマホの写メを見せた。
智子の顔は白目を剥いて、ベロを出し、涙と涎をだらだらと流していた。
『や、やだっ、グロい!ちょっ、ちょっとやめてよ。』
智子は焦っていた。
『後はネットに流すだけね。』
香は淡々としている。
『そんなことよりあんたはあれから一時間も何を考えていたの?
私の本性を見て、世の中が憎くは無かったの?
悔しいって思わなかったの?
自分は悪くない、正しいことをしてきたんだって思わなかったの?』
香は怒っていた。
『えー、別に。香が無事に山を降りたかなぁ?くらいかなぁ?』
智子がぽけっと答えた。
『はぁ。』
香は深くため息をついた。
香は智子に心底呆れていた。
『智子はバカなの?いい、智子!世の中にいい人なんていないの!あんたが一番信じていた私でさえこうなのよ!人間はね、醜い生き物なの!もっと世の中を憎みなさいよ!自分だけ生き残ろうって気になりなさいよ。』
香はかなり怒っていた。
『私は香が今みたいに元気なら、それで良いわ。』
智子がしくしく泣き出した。
香は呆れ返っていた。
『まあいいわ、あんたのアホは小さい頃からだもんね。それよりあんた、来週の月曜日から学校行きなさいよ。』
香が怒っている。
『えー、いいよもう。もう学校なんて興味ないから。』
智子は膨れていた。
『いいから行きなさい!月曜日だけでもいいから!』
香はそう言って帰ろうとした。
『そうだ!香!この木覚えてる?家のパン屋が潰れそうになったときに、二人でこの木にお願いしたでしょ?』
智子は少し元気になっている。
『は、はぁ?』
香はかなり引いている。
『また二人でお願いしようよ。あのおまじないでお願いしたら、そしたら私また学校に通える気がするの!』
智子は香の手をパッと取った。
『ちょっ、やめてよ智子!変な宗教に誘うの!』
香は困っていた。
智子は続けて話し出した。
『香、お願い、一緒におまじない唱えよ?あのときだって家のパン屋が盛り返したんだから!』
そう言って智子は香の手をとり、おまじないを唱えた。
『智子に香、るるるるる~!』
智子は元気に唱えている。
『ちょっ、変な呪文に私の名前入れないでよ!』
香は最後まで冷たかった。
『ごめん、香ちゃん。』
智子はぺこりと謝り、そのまま手を繋いで山を降りた。
そして月曜日、香のしつこい説得で、智子はそれこそ死ぬ覚悟で学校に行った。
どうせ死ぬんだったら、後一年みんなに好きなようにやられても、まあ良いかなぁと、吹っ切れた気持ちだった。
しかし教室に入ると、意外にも様子が一変していた。
怖そうな副担任が一人、常に教室に張り付いていたのだ。
(やだっ、怖そう。)
智子は少し怖かったが、そのお陰で、学校にいる間は誰からも苛められなくなっていた。
あとから分かったのだが、何でも高校三年生になると、受験に力を入れるクラスに、ポツポツ副担任を配置するそうで、そのお陰で、教室の規律はピシッとなり、学校にいる間は、智子にちょっかいを出す生徒は居なくなっていた。
偶然にも、副担任が智子のボディーガードの役目を果たしていたのだ。
(あのおまじないのお陰だ。)
智子は効き目バッチシのおまじないに、一人でクスクス笑っていた。
それからはあっという間に高校生活は過ぎ、智子は無事に高校を卒業した。
高校を卒業してからは、料理の専門学校に行き、そして今では無事に父のパン屋を継いでいた。
パン屋を継いで2、3年が過ぎた頃、智子は突然香に呼び出され、近所の喫茶店で、久しぶりに香と会うことになった。
『香、久しぶり!元気だった?』
智子はとても嬉しそうにしている。
『元気よ、とっても。』
香は相変わらず無愛想だった。
『今日はどうしたの?急に呼び出したりして。』
智子が不思議そうに聞いた。
『あ、うん。そろそろかなって。』
香はパンをムシャムシャ食べている。
『そろそろ?』
智子は意味が分からなかった。
『復讐よ。』
香は智子をキッと睨んだ。
『復讐って、あの高校の時の?』
智子は不思議そうに聞いた。
『そうよ、私、許さないって言ったら絶対許さないの。』
香はかなり怒っている。
『香、良いのよ別に、私はもう気にしていないんだから。それに気持ちは解るんだけど、あの人たちにはとても勝てる気はしないわ。それこそ転生でもしないと私たちじゃ無理よ。』
智子はタジタジしていた。
『転生するまでもないわ!』
香はそう言って喫茶店を出ていった。




