自殺
高校3年生になると、智子は殆んど学校には行かず、街をプラプラしていた。
精神的に塞ぎ込んでいた智子は、この頃にはもう既に死のうと心に決めていた。
ある日の夜、既に限界が来ていた智子は、自ら命を絶つ決意をして、香の家の裏にある裏山の木で、首を吊ろうとしていた。
智子が首に縄をかけ死のうとしたその時、突然香の声がした。
『智子ちゃん?何やってるの?こんな夜中に?』
香はびっくりしていた。
『か、香?』
智子も少し驚いていた。
『ご、ごめんね香、私、死のうと思ってるの。』
智子が泣きながら話した。
『ま、まあ、首に縄をかけてすることと言えばそれしか無いでしょうねぇ。』
香が以外に冷静だった。
『ごめんね、もうこうするしかないの、止めないで欲しいの、お願い。』
智子はわんわん泣きだした。
『いや、止めるわよ、私んちの山だもん。売るとき値が下がるじゃない!』
香は至って冷静である。
『お願い、この木で死なせて、この木で死にたいの!香と二人で良く遊んだ思い出の木なの!お願い。』
智子は大泣きしている。
『ちょっ、あんたがここで自殺したら、違う思い出が出来ちゃうじゃない。』
香は心底冷たかった。
『な、何よ香、元はと言えば香が苛められてるのを助けたときに買った恨みから、私が苛められ出したのよ!もっと優しくしてくれても良いじゃない!』
香のあまりの冷たさに智子は怒った。
『頼んでないわ。』
香が突っ返した。
『助けてなんて、誰も頼んでないわ。』
香は至極冷淡であった。
『な、何よ~。』
智子はべそを掻いている。
『まあいいわ、死にたけりゃ死になさい。ただし、私のせいにはしないでね。あんたのその、人としての弱さが原因なんだから!』
そう言って香はどしどしと山を降りていった。
智子は呆然としていた。
唯一信じていたものが壊れてしまったからだ。
しかし、逆に安心もしていた。
自分が死んだ後、一番気掛かりだった香が、実はあんなに逞しいのが分かったからだ。
香が無事に山を降りたか心配だったが、智子は1時間ほどぼっ~とした後、遂に首を吊る覚悟を決めた。
1時間ほどぼっ~としている間、智子は遠くの方に蛍が光っているのが見えていた。
どこかから(るるるる)と虫の鳴く声も聴こえていた。
山の中で一人寂しく死のうとしていた智子は、遠くに見える蛍の光が、最後の友だちのように思えていた。
まるで自分の最期を看取ってくれているようで、嬉しくなって涙が出てきた。
智子は遂に首を吊った。
首を吊って暫くすると、智子は白目をむき出し、目玉が飛び出し、涙が流れ、舌が飛び出し、鼻水と唾液をだらだら垂れ流し、失禁をして、ついにかくっと意識を失った。
(私、死んだな)
智子はそう思って、ハッと目を覚ました。
(あれ?生きてる?)
智子が目を開けると、そこには香の顔があった。
智子はびっくりした。
絶対死んだと思ったのに、まだ生きているからだ。
暫く放心状態だった智子だが、香の顔を見て、ようやく事態が見えてきた。
香が助けに戻ったのだ!
智子は急に嬉しくなり、香に抱きつこうとした。
するとそのとき、香が智子の頬を思いきりひっぱたいた。
『てめえ、死にやがったな!自分で命を捨てやがったな!』
香がまた智子の頬を思いきりひっぱたいた。
『智子!お前!生きることを、諦めやがったな!』
香はまた智子の頬をひっぱたいた。
香はぼろぼろ涙を流している。
『ちくしょう!見損なったよ!智子!』
香はわんわん泣いていた。
智子も頬が痛くて仕方がなかったが、香に申し訳なくて、一緒になってわんわん泣いた。
『香ごめんなさい。私高校でずっと苛められてたの、辛くて辛くて、でも、香には迷惑かけたくないし、ほんとにごめんなさい。』
智子はわんわん泣いていた。
『殺したな。』
香の声が急に低く冷たくなった。
『そいつら、智子を殺したなぁ。』
香はどこか遠くを見つめていた。
『絶対ゆるさない。』
香はそう呟いて、智子をぎゅっと抱きしめた。




