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第10羽

 事務所が入ってあるビルの屋上に壮年の男は立っていた。灰色の雲が厚くなり、雨が降りだすのも時間の問題だろう。道行く人は、雨が降り出す前に帰ろうと足早に行き交っていた。だが、壮年の男は気にする様子もなく胸ポケットから葉巻を取り出し吸い始めた。曇天の空に煙が昇っていく。

「やっぱりあんただったのかよ」

ライにそう言われて壮年の男は振り返った。

壮年の男は、マナの姿を見つけ満足そうに微笑んだ。

「また会ったね。お嬢さん。改めて、紹介させてもらうとしようか。私は、お嬢さんの事務所を支援しているカンドという者だよ」

「マナ、こいつを知っているのか?」

「……この人がサシバを殺した」

「なんですって?あなたはサシバの親代わりをしていたのではないのですか?」

アオバが驚きを隠せない様子でカンドに訪ねると、カンドは吸っていた葉巻を投げ棄て靴の踵でもみ消すと、

「あいつには、お嬢さんを殺すように命じたが、言いつけも守れないような悪い子にはお仕置きが必要だからね」

と、何でもない事かの様に言った。

「だからって、殺す必要はなかったんじゃないんですか?」

「私が開発した幸せの青い鳥(ブルーバード)は、今よりももっと多くの若者に利用させようとしていて、その名の通り世界に羽ばたかせようと思っていた矢先にあの愚か者は潮時だと言ってね。お嬢さんを殺せるなら見逃そうかと思っていたが、それすら出来ないとは。心底、がっかりしたよ。利用するやつを見誤ったかな?」

そう言うとライをちらりと見た。

 ポツリと雨が降ってきた。その雨は次第に強くなってきたがマナとカンドは話を続けている。

「サシバの両親は幸せの青い鳥(ブルーバード)の人体実験の対象者だったんだが、ある程度データーが取れたからもういいかと思って死んでもらったんだよ。クロが訪れるタイミングに合わせるのには苦労したよ。ちょうど、助けられなかったところをサシバに目撃させて恨む様に仕向けたのも私だよ。本当にあいつは、面白いように騙されてくれた」

カンドは、くつくつと笑いながら言った。

「クロは、誰も辿ることが出来なかった幸せの青い鳥(ブルーバード)を辿られてしまったから死んでもらった。ただそれだけだよ」

先ほどまで黙って聞いていたマナが口を開いた。

「そんなことの為だけに兄さんを殺したの?そんなことの為に!私からみんなから奪ったというの?答えて!!」

 普段のマナは感情を表に出すことはあまりない。クロのように常に中立な立場を心掛けている。それはもう絶叫に近かった。

「お嬢さんたちは、この街のいさかいや住人の問題事を請け負っている。言わば正義の味方だ。正義があるから悪がいるんだよ。では、正義とはいったい何か?私は心に闇を抱えた人にあのドラッグを与えた。そいつらは瞬く間にハマっていき、救いを求めるようになっていった。そいつらにとって私は悪か?違うだろう?あのドラッグも必要ないやつは関わろうとしない。そいつらにとって私は正義の味方で、お嬢さんたちは悪だ。違うか?」

「だからと言って命を奪っていいわけじゃない」

そう言うマナにカンドは顎に手を当てて少し考える姿勢を取った。

「そうか。やはり、私は悪という事か」

ひざの高さくらいの柵に飛び乗りカンドはさらに続けてこう言う。

「潮時だったのは私の方みたいだな」

そう言うと、カンドは飛び降りた―――。

咄嗟にマナが駆け出し、カンドの手を取った。マナの身体では支えきれず持っていかれそうになりバランスを崩しそうになるところにライが手を取った。

「なにが正義でなにが悪かなんて私には判らない。自ら命を絶ったとしても他人が簡単に奪っていいものじゃないんだ。目の前で息子を亡くした母親も悲しんでいたし、救えた命だってあった。その人たちにとっても私は悪だというの?でも、あなたがやったことで私だけじゃない大勢の人が苦しみ悲しんだ」

ライの力を借りて、カンドを引き上げたマナは胸ぐらを掴んでそう言った。

「それだけは揺るぎない悪だ!そして、私は、どんなに悪人でも命を棄てさせるような真似はしない。それは、兄さんだってそうだ」

いつの間にか雨はやみ、雲の切れ間から光が差し込んでいる。

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