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俺とちなちゃん  作者: 虹色
第一章 4月
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05 ◇◇ 智菜:新しい友達?


(なんか、すごい……)


みんなを黙らせる迫力。言いたいことを主張する強さ。


(カッコいい……)


仲里美亜さん。憧れる。もっと話をしてみたい。


(仲良くなりたい)


ついさっきまではこんなこと思ってもみかったけど……。


わたしは仲良しが多い方じゃない。もともと人見知りなうえに、いろいろ考え過ぎて、大勢の中ではちゃんと話ができないから。中学のとき、急激に変わっていく友人たちに驚いているうちに、みんなに置いて行かれたような気がして、声を出すのが怖くなってしまったのだ。


特に気の強い女の子たちは苦手だ。中でも仲里さんは誰ともつるまないくらい我が道を行く人で……。


(でも、お礼を言った方がいいような気がするし……)


さっきの風紀委員。


芽衣理たちがわたしにやらせようとしていたのは間違いない。視線を感じたし、忍び笑いやこそこそした声も聞こえた。だけど、わたしはやりたくなかった。


だって、この見た目で生徒会役員。それだけで真面目っぽいイメージがあるのに、その上、風紀委員までやったら、ますます「お堅い優等生」と言われてしまう。本当は何の取り柄も無くて弱気なのを必死で隠しているのに。


「優等生」なんて、褒めているふりをして差別されているのとおんなじだ。「自分たちとは違う」って切り捨てられることだもの。みんなが嫌なことでも率先して引き受けるべきだ、みたいに言われたり、反感を持つ人もいる。


その筆頭が芽衣理たちだ。今の関係だと、わたしが風紀委員の仕事で協力を求めても無視するに決まってる。


でも、名指しされたら断る勇気も無いし、きっと引き受けるしかなかったはず。仲里さんはそれを分かっていたんじゃないかと……。


(あ)


仲里さんが立ち上がった。ホームルームが終わって、教室が一気に騒がしくなっている。


(ど、どうしよう? 今を逃したら終わりかも)


せめて一言。お礼を言うなんて変かも知れないけど。わたしの気持ちを。


(伝えたい!)


焦って立ち上がる。金色の髪はもう狭い出口に向かう男子たちの間に見え隠れしてる。


(待って!)


声に出して呼べば簡単なのに、そんなことさえ怖じ気づいている自分が情けない。でも、できないものは仕方ない。だから頑張って追いかけて……いた!


「あの、あの、仲里さん」


追い付けてほっとした。でも、そっと腕に触れながらドキドキしてもいる。


「ん? ああ……」


わたしだと分かるとニヤリと笑った。まるで言いたいことが分かっているみたいに。……いや、「みたい」じゃない。やっぱり彼女は分かってる。睨まれなかったし、これなら素直に言える。


「さっきはありがとう」

「べつに。いいよ」


とぼけたりせずに受け入れてくれた。そんな率直なところも素敵だ。


毛先をゆるく巻いた金髪のミディアムヘア。近くで見るとはっきりわかるアイラインとマスカラ、そして赤い口紅。それらが白い肌の小さな顔にくっきりと映えてお人形のようだ。


黒に近い紺のセーラー服は、彼女のほっそりした首と華奢な体つきに合わさるとまるでゴスの衣装みたい。背の高さはわたしと同じくらいだけど、顔の小ささと長い脚に「八頭身美人」という言葉が浮かんでくる。自分の大福もちみたいな顔と寸胴のスタイルを思い出してちょっと悲しくなった。


「あたし、ああいうの大っ嫌い」


鼻に皺をよせるようにして仲里さんが言った。そんな様子もキュートで見惚れる。


「小さい声でこそこそなんてさあ。ちょっと可愛いからって、自分は何しても許されると思ってるんだよね」


でも、舌鋒は鋭い。そして誰のことを言っているのかも分かる。


「そうなの…かな……?」


同じように感じていても、はっきりそう言えないわたしは臆病者だ。だから仲里さんに憧れる。


「そうだよ。分かんないの?」

「まあ……、でも、仕方ない…の、かな……」


学校って、そういう場所だもの。


世の中にどうしようもなく存在する格差。その中で少しでも楽に生きていくための技を身に着ける準備の場、それが学校だとわたしは思っている。


―――「鎧をまとうんだよ」


そう。


だから生徒会役員になった。「生徒会役員」もわたしの一つの鎧だ。いろんな鎧をまとうことで、いろいろなことを乗り越えてきた。


「あ、でも……大丈夫?」

「ん?」

「風紀委員……」


こんなことを言うのは少し後ろめたい。みんなと同じように、彼女の見た目で決めつけているように思われそうで。


「あはっ、大丈夫。自分で決めたんだから。いくら何でも、やりたくないことは引き受けないよ。まあ、積極的にやりたいわけじゃないけど」


明快な論理。「やりたくないことは引き受けない」。あまりにも簡単に言われて、またドキッとした。


「だから、あんたは引き受けなくて正解。やりたくなかったんでしょ?」

「う、うん。そうなの」

「じゃあ、それでオッケー。ね?」

「うん……」


彼女の論理は分かった。でも。


(本当にそれで正解?)


気持ちは割り切れない。


わたしが拒否したいことを感じて仲里さんが引き受けたんじゃないかと。自分の我が儘に巻き込んじゃったんじゃないかと。そのせいでトラブルになったら申し訳ない。


やろうと思えばできなかったわけじゃない。その罪悪感がどうしても消えない……。


「ああ、この髪とメイク、気になる?」


一瞬迷ったけど、正直に言うことにした。


「うん。あのね、そのことで何か言われたりしたらって……」

「あはは、だよねー。でも大丈夫。ちょうどこの髪にも飽きたところだったから」

「そうなの……?」

「うん。次はどうしようかと思ってたんだ。だから気にしなくていいよ」

「そうなんだ……?」


だとしても、急に普通に戻れるものなのかな……。


「見てなさいよ。あたし、すっぴんだって芽衣理たちに負けない自信あるんだから」

「え、すっぴん?」


驚くわたしに、仲里さんが不敵に笑う。


「そだよ? あたしがノーメイクで来たら、みんなびっくりするよね。あたし、周りを驚かせるの大好き♪」

「そうなんだ……」


本当にノーメイクで来るつもりなの? この仲里さんが……?


「それに、相方が水澤だしね」

「水澤くん……?」

「同じ中学だったんだ。変なヤツじゃないって知ってるから」

「ああ……、そう……」


少し気が楽になった。仲里さんが安心してるなら。それに、水澤くんのことを信じてくれてるのも嬉しい。


「智菜ちゃん!」

「あ」


廊下の向こうからチカちゃんが急ぎ足で近付いてくる。2、3年生は解散だけど、わたしは次の予定があったんだった。


1年生に向けて、生徒会主催のイベント。生徒組織――生徒会本部や各委員会など――の説明と、それぞれの部活による部活紹介。生徒会本部役員のわたしは春休み前から計画と準備にたずさわってきた。


「あ、彼氏? 見たことあるけど……」


小声で尋ねられて思わず笑ってしまう。チカちゃんがわたしを名前で呼ぶのを聞くと、ほとんど全員が同じ質問をするのだ。


「違うよ。小学校からずっと一緒なだけ。今は一緒に生徒会やってるの。副会長の野上くん」

「ああ」

「智菜ちゃん、急いで行かないと」


チカちゃんが急かす。それを見上げながら、この一年でまた背が伸びたなあ、としみじみ感じた。


「うん、カバン取って来る。仲里さん、引き留めてごめんね。じゃあね」


急いで教室に戻り、荷物を持って廊下に出ると、チカちゃんと仲里さんがまだ話をしていた。秀才っぽいチカちゃんと外国のお人形のような仲里さんの組み合わせが意外としっくり来て、ちょっと驚いた。


「ああ、智菜、あたしも行くことにした」

「え、説明会に? 手伝ってくれるの?」


それは助かる。助っ人は常に募集しているけれど、ちっとも来ないのだ。でも、それよりも。


(「智菜」って呼んでくれた)


もしかして、仲良くなれる? 彼女もわたしを気に入ってくれた?


「うん。部活紹介って、去年、面白かったし。副会長が、手伝ったらお菓子出るって言うから」


チカちゃんがにこやかに「あはは、反省会でね」とうなずいて歩き出す。仲里さんとわたしが並んでその後に続く。仲良くなれそうな予感にまたドキドキしてきた。


「ねえ、あたしのことは『ミア』って呼んで。名字はなんだか背中がかゆい」


半分走るみたいにチカちゃんを追いかけながら、仲里さんが言った。


「分かった。ミアちゃん?」

「違う、ミ、ア。『ちゃん』は要らない」

「あ、ごめん。ミア、ね? ミア……、うん、大丈夫」


本当に友だちになれるの? わたしと全然違う女の子と? なんだかすごい!


「ねえ、智菜ってさあ」

「う、うん」


当たり前のように名前で呼ばれていることがとても嬉しい。


「生徒会にしちゃあ、地味だよね?」

「う、まあ、それは……」


反論のしようが無くて残念だけど、嫌味な言い方じゃないから気にならない。自覚もあるし。


確かに生徒会役員になるような人にはどこかしら花と言うか、オーラがある。チカちゃんだってそうだ。ところがわたしは丸顔にメガネだし、性格もきっぱりしていない……。


「見た目の話じゃないよ? 雰囲気が違うって言うの? みんなの前で話すときあるじゃん? 選挙とか生徒会の行事とか」

「ああ、うん」

「あれだとさあ、智菜って堂々としててカッコいいんだよね」

「え、そう? 始めて言われたよ」


驚いた! 中学から生徒会役員をやってるけど、一度も褒められたことなんか無い。


「そうなの? でも、ホントだよ」

「うーん、そうなのかー……」


そう言えば、もともと音読だけは得意だった。そのせいか、原稿や決まっていることを読み上げるのはそれほど苦にならない。


「だけどさあ、教室では存在感ゼロ……ってかマイナス? 地味すぎて逆に気になるわ」

「そんなに……?」


それはもう「地味」を通り越しちゃってる気がする。だから芽衣理たちにいつまでもターゲットにされるのかも……。


「普通になりたいなあ……」


ため息をつくとミアが笑った。


「あははは、あたしは目立ちたいな。誰かと同じなんてイヤ」

「カッコいいね」

「でしょ?」


個性を強調したいお友だちなんて初めて。


これから学校に来るのが楽しくなりそうな気がする!







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