15 ◇◇ 智菜:女子トーク! その2
夢佳が「そんなに意外だったかな?」と笑った。どうやら水澤くんの名前に反応した理由を勘違いされたみたい。
「まあ、カッコいいのは風間くんの方っていうのは間違いないんだけどね、」
胸の中がちょっぴりもやっとした。わたしは水澤くんが風間くんに負けてるなんて思っていない。声も素敵だし。
でも、わたしの思いを知らない彼女たちは、水澤くんを候補に挙げた理由を真剣に語ってくれる。
「風間くんの野球部頭がアイドルには向かない気がしてて」
「それに剣道部のね、あの紺色の道着と袴? あれ着てるとけっこういい感じじゃない? 水澤くん」
那絵ちゃんの分析に「そうなんだよ!」……と心の中で強力に同意したものの、口には出せない。ぎこちなくうなずきながら、自分が微妙な表情をしているのを自覚してる。ほかの子にカッコ良さを認められて嬉しいけれど、同時に反感もあって……。
(べつに独り占めしたいわけじゃないけど……)
「舞台であれを着てほしいっていうのもあってね。硬派っぽさが出るでしょ?」
「そうか。確かにインパクトはありそうだね」
隣でノエちゃんが同意している。わたしもうなずくけれど、複雑な心境は変わらない。
「だけど、そんな人がアイドルのオーディションなんか受けに来るかなあ? 設定が苦しくない?」
悪いと思いつつ、マイナス発言をしてしまう。
「うん、だからね、そこはスカウトにするの」
「スカウト?」
「そう。最初にあの姿で登場してもらって、それを社長がスカウトするの」
「ほら、途中で袴に着替えるのは大変そうでしょ? 着るのは最初だけにしないとね」
「ああ……」
なるほど、そこまで考えているのだ。もうシナリオを書いているというのだから、その程度のことは考えていて当然かも。
「それって……本人たちはOKしてくれるかな?」
ノエちゃんが可愛らしく首を傾げる。ノエちゃんは声だけじゃなくて、しぐさも可愛らしい。
「まだ分からない。でも、赤羽くんと小太郎くんは行けそうだと思ってる。いざとなったら莉々たちが推してくれるって言ってたし」
「ああ……」
それは心強い応援だ。そうじゃなくても赤羽くんは気軽にノリで引き受けてくれそう。小太郎くんも、クラスのみんなから頼まれれば、仕方なくでも笑って引き受けてくれるだろう。
「それから、風間くんにも秘策がある」
「秘策?」
「ふふ、内緒だよ。でも、それで引き受けてくれるのはかなり確実」
「へえ……」
そんなものがあるなんて、熱の入りようがすごい。
「で、水澤くんは不明」
「だよね……」
わたしも難しいだろうと思う。人前に出るようなことは嫌がりそうだし、その上、ダンスをしなくちゃならないとなると……。
「だから、もしものときには智菜、お願いね?」
「え? あたし? 何が?」
「水澤くんに決まったとき。一押しして?」
「え? どうしてあたし?」
話の流れが飲み込めない。
「だって、智菜が薦めたら引き受けてくれると思うよ?」
「なんで?! そんなことないよ!」
でも、4人は当然のような顔で「そんなことあるって」と反論してくる。
「水澤くんって女子とはほとんど話さないけど、智菜のことは認めてるもん」
「いや、あたしだってほとんど話してなんか――」
「話してるよ! ちゃんとあいさつしてるでしょ?」
「あいさつくらい誰でもするよ。…って言うか、あいさつだけだし」
思わずふて腐れた口調になってしまい、急いで表情を取り繕った。
「その程度の関係で劇に出てほしいなんて言ったって、OKなんかしないよ」
「そんなことないって。きっと大丈夫」
「そうそう」
「でもでも! なんて言えばいいの? どのタイミングで?」
「もちろん、話し合いのときだよ。『カッコいいと思うな〜』とかなんとか」
「無理だよ!」
みんなの前でそんなこと言えない! 恥ずかしすぎて倒れちゃうかも知れない!
「ねえ、智菜」
ノエちゃんが笑顔をわたしに向ける。
「嫌がったらの話だって言うから大丈夫だよ。話し合いの流れですんなり引き受けてくれるかも知れないよ?」
「ノエちゃん……」
自分じゃないからって、そんなに簡単に言うなんて!
「……み、水澤くんは、ミアの方が仲が良いし」
逃れたい気持ちといじけた気分が入り混じったつぶやき。でも。
「何言ってんの? 智菜だよ」
屈託なく夢佳が笑った。
「そんなことないよ。ミアの方がよく話してるでしょ?」
「でも、ミアじゃあ、水澤くんはOKしないよ」
「なんで?」
「だって、ミアだよ?」
(どうして、何が「ミアだよ?」なの?)
わたしにはわからない。なのに4人はそれで納得してる。ノエちゃんも。
「それに、ミアはそもそも頼んでくれないって」
「まあ、確かに……」
ミアなら「自分で言いなよ」って言いそう。
「智菜なら大丈夫だよ、ホントに」
明るいノエちゃんの声が無責任に楽しんでいるように思えて、うらめしい視線を向けてしまう。
「なんでそんなこと言い切れるの?」
水澤くんに話しかけるなんて、わたしには2メートルの高跳びを成功させろと言われているのと同じなのに……。
「水澤くん、智菜には少し遠慮してるって言うか、気を遣ってるって言うか……」
「気を遣ってる……?」
「やさしい感じなんだよねー」
(や、やさしい……?)
話の展開にうろたえてしまった。そんなわたしにみんなが意味ありげにうなずく。
(やさしい? やさしいって?)
「う、うそだよ。そんなことないよ。あたしだけの話じゃないでしょ?」
だって、水澤くんが女子に声を荒げたところなんて見たことない。わたしが特別だなんて、どうしてわかるの?
「まあ、そういうわけで、もしも水澤くんに決まったときはよろしくね!」
「そんな」
話を切られてしまった。これはもう決定ということ……?
「それよりもね、ノエにも出てほしいんだ、劇に」
「え?! あたし?!」
今度はノエちゃんが驚く番。わたしも思わず「おお!」と声が出た。
「主人公たちのマネージャーなんだけど。どう?」
「いや、無理だから」
あまりの即答で笑ってしまう。
「難しくないよ? 3人を励ます役。ちょっと年上の設定だけど」
「無理無理無理無理! 舞台に出るとか無理だから」
「その声がいいんだよねー。それで励まされたら本当にやる気が出そうでしょ?」
「でも絶対にダメ!」
「主役の中の一人がノエのことを好きになるの」
「わあ、すごい」
「余計無理だし!」
笑いながら思った。この役も主人公たちと同じように、もう決まっているのだ。なにしろ「ノエのことを好きになる」なんて、本人の名前で話しているのだから。
しかも、怒っていてもノエちゃんは可愛い。声だけじゃなく、動きも。こんな人がいつもそばで励ましてくれたら、男の子は何がなんでも頑張りたくなるに違いない。観客の男の子たちにも、きっと効果絶大だ!
「こんなに太ってるんだよ? 見てる人が怒るよ!」
「そのくらいの体型、太ってるなんて言わないよ? ノエはウエスト締まってるし、背も高めだし、すごく魅力的」
「おだててもダメ。そういうのは芽衣理たちに頼めばいいじゃん」
必死のノエちゃんが代替案を出した。でも、4人は余裕で受け流した。
「芽衣理たちにはほかの役を用意してるの。少女アイドルユニット。その中の一人と恋愛スキャンダルに巻き込まれるっていう設定でね」
「うわあ……」
さすがだ。その役なら芽衣理たちは喜んで引き受けそう。彼女たちを納得させてしまえば準備はスムーズに進むだろう。4人の計画にあらためて舌を巻く。
「ほかにはどんな役があるの?」
水澤くんのことは気になるものの、企画そのものは確かに面白い。とにかくわたしは出なくて済むようだし。
「あとはねえ、プロダクションの社長と振り付け師がまあまあ大きな役で、あとはファンの子とかスクープのカメラマンとかコンサートの司会者とかちょこちょこっと。掛け持ちでもいいかなってところ」
「なかなか凝ってるね」
「でしょ? でも、この企画、男子には絶対に内緒だからね?」
「知ったら反対するに決まってるから」
「ねえ、あたしはヤダってば〜」
ノエちゃんがごねているけど、聞く耳を持たないようだ。さっきのメインの3人も拒否の道は閉ざされているようだったし、もう変更はきかないのかもしれない。難関の風間くんにさえ秘策があると言うのだから、あとは風間くんに決まればわたしの役割は無くなるわけだ。でも。
(水澤くんは、あたしが言えばOKするの……?)
その意見はとても気になる。
(本当にそうなのかな? 本当に?)
そう思うと、ちょっとドキドキする。ミアよりもわたし……って本当かな? でも、何の気配も感じたことが無い。
そりゃあ「ちなちゃん」なんて呼ばれてはいるけど、それは単にチカちゃんが呼ぶのが伝染しただけ。それに、もう5月も後半なのに、まだ普通の会話は数えるほど。朝のあいさつはしてるけど、交わすのはほんの一言か二言で……。
(やっぱり違うんじゃないかな……)
特別だなんて思えない。
みんな、勝手に勘違いしてるんだ。どう考えても、水澤くんがわたしに興味があるようには思えない。
(あーあ)
こんなふうに自覚すると、女子の一人としては淋しいよね。まあ、彼氏は今はいなくてもいいけど。
(でも……)
水澤くんとはあいさつ以外にも話せたらいいのに。楽しいんじゃないかと思うんだけどな。
(あ、でも、これって贅沢な願望だよね)
だって、同じクラスになって近くで見られるようになったんだよ? あいさつだけだけど、毎日しゃべってるんだよ? 4月にはそれで十分だって思ってたはず。
(ううん。今だって十分だ)
わたしから話しかけるなんて、絶対に無理なんだから。