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俺とちなちゃん  作者: 虹色
第二章 5月
14/59

14 ◇◇ 智菜:女子トーク! その1


5月半ばから夏服での登校が認められている。正式な衣替えは6月1日だけど、気温に応じて柔軟な対応になっているのだ。


女子の夏用セーラー服は白で、襟と半袖の折り返しとスカーフが紺。男子はワイシャツで来るようになる。すると、教室や朝の登校風景が一気に明るくなってハッとする。日差しもだんだん強くなってきて、体育のときに日焼け止めを塗る子もちらほら現れる。


それと時を同じくして生徒会役員の選挙が始まった。選挙期間は2週間。今年も信任投票なので、立候補者はそのまま決まると思う。


新しい体制は会長にチカちゃん、副会長がわたしと1年の後藤勇也くん、会計に2年の佐久間光成くんと1年の古河初乃(ふるかわはつの)さん、書記が2年の志堂梨杏(りあん)さんと1年の林冬馬くん。2年生の志堂さんと1年生全員が新しいメンバーだ。


志堂さんは去年、チカちゃんと同じクラスだった女の子。パソコンが得意だと言っていたので、わたしよりもずっと優秀な書記になるだろうと期待している。


信任投票でも、一応、選挙運動はする。朝の中庭で名前を宣伝する程度のことだけど。選挙当日には立会演説会もある。それと同時並行で、生徒総会の準備も進めなくちゃならない。次の役員への引き継ぎの準備もあり、ものすごく忙しい。毎日があっという間に過ぎて行く……。


そんなを話したら、ミアが何度か手伝いに来てくれて助かっている。


ただ……。


最近、気になっていることがある。少しだけ。それは、ミアと水澤くんのこと。


ここのところ、二人が急に仲良くなった気がする。ほんのちょっとしたとき……例えばミアの席のそばを水澤くんが通りかかったときや、廊下でふと気付いたとき、水澤くんがミアに声をかけたり合図したりする。で、それにミアが簡単に返して。


席が近いという理由もあると思う。同じ中学出身で気心が知れているということもあると思う。一緒に風紀委員をやっているから、というのも分かる。だけど……、チカちゃんも気が付いたみたいだから……。


この前、「水澤とミアちゃんって教室ではどんな感じ?」って訊かれた。「普通にお友だちだよ」って答えたら、ただ「ふうん」って言って、それで終わりだったけど。それって何か、そう訊きたくなることがあったってことだよね?


前に気になる人がいるようなことを言っていたミアはあの後も全然変わらなくて、水澤くんを男の子として意識している様子はない。だから、相手は水澤くんじゃないのかな、とも思うけど、そういうことって隠せるものだし、水澤くんの方は……?


それを考えると、やっぱりミアをうらやましく思ってしまう。


ほかの人に気にされるくらい仲良しだなんて。それに、仲良しのお友だちから恋人同士になるって憧れる。


だったら自分も行動を起こせばいいんだけど、それをしないでいじけてるだけ。情けない。弱気過ぎて落ち込む。


だから、できない自分に言い聞かせてる。「水澤くんには憧れてるだけ。彼女になりたいなんて大それたことは考えてないでしょ」って。それに、ミアのことはわたしも好きだし、水澤くんがミアを選ぶなら何も文句は無い。


だけど……。


あいさつよりもう少しちゃんとした接点があったらいいな。……なんて、考えてしまう。





「ねえ、智菜、ノエ、ちょっとちょっと」


ある日のお昼休み、コンちゃんと夢佳に声をかけられた。


球技大会以来、女子同士の距離が近くなった気がしている。バレーで頑張ったことでわたしのイメージも少し変わったみたいで。あんなふうになりふり構わず張り切るのはわたしにはなかなか難しいことだけど、誰かに「頑張ったじゃん」とか「意外と根性あるよね」なんて言ってもらえるとすごく嬉しい。


深見さんともあれ以来、あいさつは交わしてる。彼女はそっけない顔しかしないけど、芽衣理と秋恵ちゃんの知らんぷりとは全然違う。莉々たちも深見さんのことは認めているみたい。


でも、彼女のいるグループはクラスにとけ込んでいるとは言えない。芽衣理と秋恵ちゃんは、相変わらずお気に入りの男子としか話さないから。そして、やっぱりわたしたちを見下したような態度を取る……。


「こっち来て」


コンちゃんと夢佳に導かれた先には那絵ちゃんと美雪が待ち構えている。


「え? 何?」

「何か面白いこと?」


4人の楽し気な表情に、わたしとノエちゃんもわくわくした気分で仲間入り。


この4人―――一緒にバレーに出たコンちゃんと夢佳、そして今西那絵(なえ)、丘美雪――はいつも楽しげにアニメや声優さんの話題で盛り上がっているメンバーだ。みんな親切で明るい性格で、アニメ以外にも楽しい情報をいろいろ教えてくれる。そんなところがクラスでも好意的に受け止められていてる。


「あのね、九重祭の文化部門のことなんだけど」

「ああ」


目をキラキラさせた夢佳の言葉に納得してうなずいた。彼女たちが何か楽しいクラス企画を持っているのだと分かったから。


9月の終わりに開催される九重祭は、文化部門が土日の2日間、体育部門が一日置いた火曜日となっている。体育部門は各学年8クラスを四つの色に分け、1年生から3年生まで混合の色別チームで競うから、クラスごとの話し合いは無い。クラスで企画するのは文化部門の出し物だ。


「美雪がね、劇のシナリオを作ってるの」

「え? もう?」

「うん……」


4人の中では比較的おとなしい美雪が頬を染めてうなずいた。


うちの学校では、九重祭の文化部門で2年生が劇を上演するという伝統がある。強制ではないけれど、去年も、見学に来た中学のときも、2年生は全部のクラスが劇をやっていた。


ノエちゃんが可愛らしい声で「早いね」と感心すると、夢佳が、自分と美雪は1年のころから企画を練っていたのだと教えてくれた。


「そうだったんだ……」


生徒会の先輩から、劇をやりたくてこの学校を受験する生徒もいると聞いたことがある。夢佳と美雪もそんな一人だったのかも。それにしても、1年のころから考えているなんて。


「どんなお話なの?」


尋ねると、夢佳と美雪が嬉々として説明を始めた。


「主人公は男の子のアイドルユニットなの。オーディションから始まって、下積みとデビューがあって、トップに上り詰めるまでを描いてるの」

「その間にね、仲間割れとかスキャンダルとか恋とか、いろんな事件を乗り越えていくの。青春ものって感じかな」

「歌は口パクでもいいんだけど、ダンスは本気で踊ってもらおうと思って」

「ね? ね? 男の子のアイドルの話だったらお客さんが入ると思わない?」

「う、うん、確かに……」

「そうだね」


勢いに押され気味にノエちゃんと一緒にうなずく。確かに良い企画だという気がする。


文化部門は投票で順位がつけられる。そこで高得点を目指すためには、まずはたくさんのお客さんに来てもらうことが重要だ。ということは、企画そのものが興味を引くものである必要がある。去年の先輩たちは、ヒットした映画をアレンジしたり、人気のある生徒を主人公にしたりしていた。そういう点で、「カッコいい男の子たちが歌って踊る」という企画はかなりの集客力がありそうだ。


「そんな企画、よく思い付いたね」

「ホントに。お客さん、たくさん来そうだよ」


ノエちゃんとわたしの言葉に4人が嬉しそうにうなずき合う。


「莉々たちにはもう話したんだ。『いいね!』って言ってくれたの」

「じゃあ、もう決まりだね」


莉々とその仲良しの女子たちが賛成しているなら問題無く決まるだろう。彼女たちの信頼度は高いから。


「ねえ? でも、その役は誰がやるの? もう決まってるの?」


ノエちゃんが訊いた。わたしもそれは気になるところだ。


夢佳たちはそっと視線を交わしてから小さく手招きをした。輪を縮めて頭を寄せ合うと、夢佳が小声で話し出した。


「あのね、作品の性質上、ある程度は見た目を重視したいのよね」


確かにこれは男子の前で堂々とは話せない。秘密会議の趣の中、みんなが目をきらめかせてうなずく。


「で、ユニットは3人なの。舞台の上での賑やかさの点で、それくらいは欲しいのよね」

「確かに」


つまり、カッコいい男の子を3人選ぶということか。そうすると……?


「でね、3人は違うタイプで揃えたいなって考えてて」

「なるほど」

「明るい元気なタイプが1人、可愛い感じが1人、クールな人が1人」

「ああ〜、そうだねぇ」

「うん、いいね」

「元気なタイプがメインで真ん中で」

「うんうん」

「まだここだけの話にして欲しいんだけど」

「わかった」

「これは赤羽くんに頼みたいんだよね」

「ああ……、なるほどね」


感心して深くうなずいた。隣でノエちゃんもうなずいている。


赤羽隼人くんはサッカー部のゴールキーパーで、笑顔の爽やかな男子だ。性格も良いらしく、いつも友だちに囲まれているし、女子にも人気がある。背が高くて声が大きいから、舞台の上でも映えるだろう。


「莉々たちは賛成してくれてる」

「あたしも適任だと思うよ」

「でしょ? で、可愛いタイプは小太郎くん」

「なるほど」

「わかる〜」


ハンドボール部の石川小太郎くん。確かに童顔で可愛い雰囲気で、笑うとえくぼができる。そのせいで女子にも「小太郎くん」と呼ばれて親しまれている。


「で、クールなタイプは風間くん」

「ああ、確かに」

「そうだね」


隣の席の風間くん。1年から一緒だけど、確かに余分なおしゃべりをしなくて、真面目な雰囲気がある。日に焼けた顔にきりりとした眉と目元が印象的だ。


「……か、水澤くんで迷ってる」

「え? 水澤くん?」


思わず今までと違う反応をしてしまって焦った。べつに特別な関係なんかじゃ無いのに。


でも、なんだか複雑な気持ちで。


だってそれは、水澤くんを「いいな」って思ってた人がわたし以外にもいたってことだから。そして、そんな役をやったら、注目を浴びて遠い人になってしまうんじゃないかと思うから……。







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