6月某日
少女のタイムリミットまで残り ✕✕:✕✕
私は夢を見ました。
みんなに忘れられて、置いていかれる夢でした。私は直感的に、誰かの記憶かなぁと思いました。こんな最期も嫌だなぁと思いました。寝苦しくて目が覚めました。まだ、朝ではありませんでした。
梅雨独特の湿った空気が私の体を包み込んだ。背中に汗が滲んでいる。この時期はどうも寝苦しくて困る。
制服に着替えリビングに降りると、いつものように母の姿はなく、朝食とともにメモが置いてあった。
「おはよう朱李。今日も残業だから、夕飯宜しくね」
5年前に父が亡くなってから母は女手一つで私を育ててくれた。忙しいのは分かっている。分かっているんだけれど、「母の手料理が食べたい」冷凍食品だらけの朝食を見つめながら思った。そんな気持ちを潰すようにリモコンのスイッチを押す。
『最近、日本全国で奇妙な事件が発生しています。いきなり、知らない人物が家族同然の態度で家の中に寝ていたり、知らない人物が話しかけてきたりする事例が多いようです。全国の警察署は見回りを強化し、一刻も早く対策を練ると発表しています。』
「バカバカしい」
そんな一言を味噌汁とともに飲み干した。どうせ酔っ払いだろう。何をそんなに騒ぐことがあるんだ。なんて考えてたりしたら遅刻しそうになった。
始業5分前、ギリギリ駆け込みセーフ。そう思っていたら話しかけられた。
「おはよう朱李ー!ねぇねぇ朝のニュース見た!?怖くなーい?」
「おはよう、見たけど、あんなのただの酔っ払いだって...。そんな騒ぐことじゃないでしょ」
この子は噂話の類が大好物なのだ。今回も噂に踊らされてるだけ。
「それが騒ぐことなんだって!あたしの友達のおばあちゃん家でさ?朝起きたら、おばあちゃんの隣に、ぜんっぜん知らない男の人が寝てたんだって...!その人、ずーっと婆さん、婆さん、って騒ぐから怖くて警察に突き出したんだって!ね、これやばいでしょ???」
「いや、おばあちゃんの方がやばいでしょ...なんでおじいちゃんのこと忘れてるの??おばあちゃん認知症?おじいちゃんの方が可哀想でしょ...。」
「その子の家おじいちゃんはとっくの昔に死んじゃってて...あれ、生きてるんだっけ...?そもそもいたんだっけ...」
「何それ変なの」
「とにかく!これは大事件の予感だよ!全国でも似たようなことが起きてるみたいだし!朝起きたら私の隣に知らない人がいたらどうしよう!!」
「はいはい考えすぎ。ほら彼氏きたよ?続きは彼氏に話してこい」
「あ、本当だ!朱李も知らない人には気をつけてねー!!」
何が言いたかったんだろうか。単純に認知症のおばあちゃんの話ではないのか。そもそも認知症って身内を忘れるくらい酷いものなのかな。なんて考えてたら起立礼に乗り遅れて少し恥ずかしい目にあった。
今日1日は地味だけど嫌なことが積み重なっていた。例えば机の角に小指をぶつける。かと思えば転ぶ。友達に消しゴムを貸したら角がなくなって返ってきた。小テストが急に入る。その結果が散々だった。帰りの時刻が遅くなる。途中でセールスに絡まれる、包丁で指を切る...
些細なことと思われるかもしれないが、これだけの事が一度に起こると少しは憂鬱になるものだ。その気持ちが移ったのか夕飯が少ししょっぱくなってしまった。
母は濃い味付けの方が好きだけれど、私的には納得いかない。いつも出来ることが出来ないのは妙に気分が悪い。
梅雨のジメジメした空気は気分まで落ちるから嫌いだ。今日もまた、汗をぐっしょりかいて、それでも眠れないのだと思うと気分が悪い。
乃笑と書いてのわと読みます。初めまして。文才はないのですがこの妄想を形にしたいと思い筆を取りました(?)。まぁ、趣味の範疇なので適当です。お楽しみいただけると幸いです。