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六葉

僕らの話すことは哲学的に思えて実はすごくくだらないことである。

今日、僕らは人生のロマンスについて議論、いや、あいつが一方的に話していた。


「いいかぁ、恋愛は若い奴らだけの特権だと思っているやつがいるが、俺はそうは思わない。じーさん、ばーさん同士が恋愛をし嫉妬し憎み殺しあう。それもありだと俺は思うんだ。」

「でも、ビジュアル的にどうかと思うよ。てか、最後の例え、何?殺しあうって。結構言っていること過激だと思うんだけど。」

「うむ、そんなこと言ったかな?」

「言ったよ!てか、頭いかれちゃってる?老化現象?うわー、やばいんじゃない?」

そう言いながら、僕は少しあいつから離れるふりをする。

こういうところが僕のかわいくないところだと自分では思う。好きな人に何か気のきくことをいえたらよかった。でも、僕はいつも思ったことをすぐ口に出してしまう。頭で何か考える前にもう、言葉が口から飛び出ている。以前、僕はこういう性格を直そうとしたが、その努力はすべて水と泡となった記憶がある。

でも、あいつは僕のそういうところを気にしていないようだった。何言われても、笑って許している。だから、僕はいつもそういうことを言って、あいつの気をひこうとしているんだ。

「事実、俺はお前より年寄りだからな。老化していて当たり前。ほれ、年寄りを敬え。崇め奉れ。仰ぎたまえ。」

「いやだよ。僕は男に傾倒する趣味はない。」

「お、傾倒なんていう難しい言葉よく知ってるな。」

「じ、常識だよ!近所の子供は誰でも知ってるよ!」

「そうかぁ、俺が小学生の時は知っている言葉で一番難しい言葉が・・・・卑猥だった。」

「っこの変態!エロ親父!一度その腐った脳みそを川にすべて洗い流して来い!」

僕は、思わず立ち上がって叫んだ。顔が赤くなったような気がする。しかし、僕が今にもつかみかかりそうなのにあいつは飄々としている。腹立たしい限りだ。

「そしたら、脳みそなくなるぞ。」

脳みそがすべて腐っている自覚はあるみたいだ。僕は全部腐っているとは言わなかったのに。

「大丈夫だ。きみならなくなっても死なない。エロでできている人間はエロを活力に生きていける。」

「お前言っていること、めちゃくちゃ・・・」

急にあいつの言葉が途切れ、笑っていたあいつがいきなり真顔になった。いつもはふざけているあいつだけど、真面目になったときは目つきからして違う。目で物事をすべて語れそうなほど、あいつの目はいつになく真剣になる。

「・・・どうしたの?」

「・・・いや・・・なんでもない。」

またいつものパターンだ。一体あいつは何に気をとらわれているのだろう。僕のことが気にならないほど何かに夢中なの?もう、僕はどうでもいい存在?

もはや僕らの間に会話が存在しなくなった。回りの音がうるさく聞こえ始める。暖かく心地よい風が、冷たく乾いたものに変わっていく。そして、僕から何かを根こそぎ奪っていくように強く、強く吹いた。


あぁ、いやだな。このままこの場にいたら、僕はもっと惨めな気分になりそうだ。いや、もう憂鬱な気分だ。好きな人に自分の存在を忘れられるなんて、最悪だ。気分が悪い。どうして僕がこんな気持ちにならなくちゃいけないんだ。さっさと立ち去ってしまおう。この気持ちを振り切るためにあいつから今すぐ離れるべきだ。さあ、行こう。・・・だめだ、できない。僕はこの場から去ることができない。それもそうだ。僕があいつの近くに無条件でいられる唯一の機会なんだから。学校ではあいつに僕は、近づくことだけでなく顔を見ることさえできない。だから、この機会にあいつを見れるだけ見ようと思っても仕方がないことだった。その結果、僕は立ち去ることなくあいつの横顔を見ていた。そして、僕はようやく気づいた。あいつがある一点をずっとみつめていることに。僕はゆっくりその視線の先をたどってみる。


一人の女性が歩いていた。いや、少女と呼ぶべきか。制服を着ているから帰宅途中だと思われる。僕は彼女を知っていた。なぜなら、彼女と学校が同じだから。そして、僕は彼女に正の感情を抱いている。

僕と彼女には共通点がある。二人とも人並みに外れたチビだということだ。もちろん彼女と僕を比べたら僕のほうが圧倒的に低い。それでも世間一般の平均と比べたら、どんぐりの背比べだ。


そんな彼女をあいつはなぜそんなにも真剣な目で見ているのだろう。どうして、僕の方は見ないで、彼女の方ばっかり見ているの?僕たちさっきまで楽しく会話していたんじゃなかったの?話し相手を忘れられるほど、君は薄情な人間だったの?ねえ、僕を見て。また、楽しく話そうよ。


「ねぇねぇ、お兄さん、彼女のことが好きなの?」

軽い気持ちで言った言葉だった。僕のことを思い出してもらえればと思って出た言葉だった。だから、そんな返事が返ってくるとは予想外だった。


「あぁ」


一瞬、世界が止まったかと思った。

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