二葉
人はストレスがたまると、おもいっきり物に八つ当たりをしたくなる性癖がある。
この日の僕は無性にいらいらしていた。
常日頃の、自分にとっては嫌がらせに近い言動や、目線、そして、背の高い人の存在。
すべてがむかつく。
そんな思いを僕は、今手に持っているものにぶつけた。
それは遠くにとび、そのまま、どこかへ行ってしまうように思われたが、急に方向転換して僕の方に向かってとんできた。
要するに、それはフリスビーである。
そんなフリスビーを追いかける薄茶色の物体がいる。
結構大きい。
犬だ。
ただの犬ではない。
僕の愛犬、『青いブルース2号』だ。
もちろん、僕が名付け親。
ちなみに1号は存在しない。
僕はこの名を思いついた時、あまりのこの名のすばらしさに思わず感動して、小さな青いブルース2号を高々とかかげ、その場で踊りまくった。
後で、母親にうるさいと怒鳴られ、馬鹿にされたが。
そのブルース2号はとってもいい毛を持っている。
僕がすぐにでもバリカンで毛をそって、自分の部屋の絨毯にしたいぐらい、つやつや、さらさらの毛だ。僕は、彼の毛が羨ましくて、昔、ブルース2号の毛でかつらを作ろうとしたほどである。しかし、彼の抜け毛をためて込んでいたら、蛆虫がわいて母親にこっぴどく怒られた。
あれは一生忘れられない思い出である。
青いブルース2号がフリスビーをとった。
とてもすばらしいフォームだ!ぴか一だ!世界一だ!さすが僕の青いブルース2号!
僕はすでにイライラした気持ちがなくなっていた。
そう、僕にとって彼は心のオアシスなんだ。癒されるんだ。
僕はこっちにやってくる愛しのブルース2号を撫でることで、感嘆の意を伝えようと思ったとき、
「坊主、あれ、お前の犬?」
背後から声がした。




