エピローグ
あれから、数ヶ月経過した。
僕とおじさんの関係は相変わらずで、ただのときどきおしゃべりする友達のままで、その時間はとても穏やかに過ぎていった。
「おじさん、どう?うまくコーディネートできてる?」
「えぇ、とってもお似合いです。合格ですかね。」
「やった!」
あの日、僕はおじさんのファッション講義を断ろうかと思っていたが、おじさんはなぜがあつくファッションは全ての基本なんですと、とくとくと語り僕に続行することを主張し、その主張のあまりの煩さにおれた僕は、いまだ、おじさんにファッションについて教わっていた。
長くかかったが、それも今日でおしまいだ。おじさんに合格点をもらったから。
あの日以来、おじさんの講義のおかげか僕が少しずつだけど、女の子らしい格好を意図的にしはじめたら、あいつと話す機会がなくなった。どうやら、僕のことは男だという先入観が強かったせいか、女の子の格好をした僕とブルース2号の飼い主の僕とでイコールでつながらないみたいで、たとえ道端ですれ違ったとしても僕に気がつかないのだ。
もちろん、最初のころは傷ついたし、こっちのほうから話しかけようかとっても迷った時期もあったけど、幸せそうなあいつを見て、別に話しかけなくてもいいかと思うようになってきた。
あいつはあの後彼女に思い切って告白をしたようだ。その告白に彼女はなんて返事したのかはわからないけど、校内で二人で歩いているのを見るとけっして悪い返事ではなかったのだろう。
たまに、胸がうずくような気がするけど、もうなれた。
それもきっとおじさんのおかげだと思う。
おじさんがいなかったら僕はどうなっていたのだろうか。
「あのね、おじさん・・・・いつもありがとね。」
「うん?どうしました?いきなり。」
「ううん。なんか急に思っただけ。」
なんか僕はおじさんの前だけは少しは素直でいるようだ。ほかの人なら絶対こんなこと言わない。
「大変だったでしょ。僕のお世話。というかファッション講義。物分り悪いし、口は悪いし、かわいくないしさ。」
「いえいえ。全く大変じゃありませんでしたよ。それにあなたはとてもかわいらしいですし。」
「か、か、かわいいなんて見え透いた嘘言わないでよ。おじさんなんて本命の女の子しかかわいいって思っていないんでしょ。だいたい、おじさんったら誰にでも親切にしすぎなんだよ。」
やばい顔が真っ赤だ。
おじさんはそんな僕を見て、にっこり笑っている。
「いえいえ。私は誰にでも優しいというわけではありません。・・・・・あなただけです。あなただけですよ。北条真央さん。」
「嘘。」
「嘘じゃありません。・・・・・初めてみたときからあなたのことが好きでした。えーと今だから言いますが、初めてあなたを見た後、私はあなたのことが気になって、あなたのことを尾行したり、興信所に頼んであなたのことを調べてもらったりしました。今思えばやりすぎました、反省しています。」
そのままおじさんは笑いながら頭をたれるから、本当のことに思えない。いつものように嘘ついているはずだ。
「信じらんない。」
「本当。」
そのまま、おじさんは僕に近づいてくる。
ちょ、ちょ、ちょっと近すぎないか。どこまで近づいてくるんだ。
そう思っているうちに、唇に暖かくやわらかい感触。
僕の目の前には、おじさんの優しい瞳。
「お、おおお、お、おじさん!いま!」
「おじさんはさすがにもうやめてもらいたいです。」
どこかすねたようにおじさんは言う。
「あなたを愛しています。付き合ってもらえませんか?それとも、おじさんは嫌いですか?」
「あ、あ、あの、少し待って。・・・・・・・まだわからないから。」
そう、まだ残っている。
あいつへの想いが。残りかすが。
たしかに僕はおじさんのことが気になりはじめている。
でも、こんな中途半端な気持ちでおじさんとは付き合えない。どうせなら、おじさんを本気で好きになったら付き合いたいと思う。それまでは、気持ち的にどうしても無理だ。
「そんな、あなたが好きですよ。」
そんなことをおじさんに正直に伝えたら、おじさんはますますにっこりと笑う。
あぁ、やばい。
臆面もなく言って、僕におじさんの麗しい笑顔を向けるもんだから、僕は頭に血が上りすぎて倒れてしまった。
それから、数ヶ月たって僕がおじさんの名前を呼び始めたけど、おじさんはその理由に気づくかな。
僕から言うのは恥ずかしいから、気づいてもらえるとうれしいな。
完結しました。
なんというか、登場人物の名前が主人公と犬以外ないというのが話を書いていくにしたがって、結構大変でした。
主人公以外名無しだとどうなるだろうというところからはじまり、面白半分で書いた作品ですが、楽しんでいただけたら幸いです。
最後になりましたが、最後までこのような拙い文章を読んでくださった方、心から感謝します。
どうも、ありがとうございました。




