十四葉
ドン!
前を見ずに走っていたら、僕は何かに衝突した。
「いったっー!!」
何にぶつかったのだろう。
そう思って、前を見たらおじさんだった。
なんという偶然。いや、奇遇か。
「どうしたのです?」
おじさんは僕が思いっきりぶつかって、謝罪をせずに無遠慮におじさんを見ているというのにいつもの、なんと言うか、人をひきつけるような笑みを僕に向けた。
本来ならその笑顔で僕は安心して、いつもの僕でいられるはずなのに、この日の僕は情緒不安定なのかおじさんの顔を見たとたん、ぶつかった衝撃で霧散したどす黒い気持ちが湧き上がってきた。
一瞬、この気持ちを押し込め何とか冷静になろうという自分がいた。でも、とまらない。
「どうして・・・・どうして、どうして!」
走ってきたせいで感じていた息苦しさを吹っ切るように、僕は言葉をはきだした。
「何がです?」
いったいいきなり何を言っているんだ、こいつ、と思っているかもしれない、いつもふざけているおじさんが無表情で僕を見ているのが非常に癇に障った。僕はおじさんにつかみかかりおじさんの胸にこぶしをたたきつけた。
何度も、何度も。
おじさんはなにを思っているのか全く動かない。
「どうして、彼女は両思いで、僕は片思いなの!彼女だって、僕みたいに背が小さいし髪だって短い、それでしゃべり方だってけっして女らしくはないんだ!なのに、何で彼女だけあいつに好かれて、僕はどうでもいい存在なの!そりゃ出会い方は彼女とは違うかもしれないけど、あいつとかかわった時間は僕のほうが長いはずなんだ!それなのに・・・」
それなのに、どうしてあんなかかわり方しかできなかったのだろう。
僕がいけないんだろうか。
あいつに好かれないのは自業自得なんだろうか。
どうして、あんな出会い方だったのだろう。
会わなければ、結果は違ったのかな?
いつの間にか、僕はおじさんに向けていたこぶしをおろし、唇をかみ締めていた。思いっきりかみ締めているはずなのに全く痛くない。
答えの出ない疑問は僕の中で渦巻いているとき、ふんわり何か暖かいものを感じた。
何だろう。心が落ち着く。
いままでたまっていたどす黒いものが僕の心から流れ出ていく気がする。
あぁ、おじさんだ。おじさんが僕のことを抱きしめているんだ。
あったかい。このままでいたいなぁ。
おじさんは何もしゃべらず、ずっと僕が自分の現状に気づくまで、僕を抱きしめ頭をなで続けてくれた。




