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十葉

「A子ちゃんは思い切って女の子の格好をしたらどうでしょう。」


以前、おじさんが言ったことを僕はなぜか実行してみようと思った。

そうだ。いままで、なんで気が付かなかったのだろう?

男の格好をしているから男子小学生なんかに間違えられるんだ。

女だと認識してもらえれば、いつかあいつは僕のことを見てもらえる・・・とは思わないけど、一応、坊主とは言わなくなるはずだ。小さいけど、僕にとっては大きな一歩だ。

告白する前に自分を磨く。きっと、外堀から埋めていくことが重要なんだ。

小さな努力をしていって、いつか自分に自信がついた時、僕はあいつに告白しよう。やっぱり、好きな人には自分の気持ちを知ってもらいたい。たぶん、振られるだろう。なんでそんなに弱気なんだと人には思われるかもしれない。でも、あいつは彼女を思い続けるだろう。そんな奴を僕は好きになったのだから仕方がない。

きっと、振られたときは僕は、ショックでぼろぼろになっているかもしれない。でも、多分、時を重ねるごとに僕は吹っ切るようにして立ち直れるだろう。

そのためにも僕は自分自身を見直す必要がある。

心を強くするのは難しい。でも、きっと些細なことで強くなると思う。僕の場合、自分に自信をつけることだと、僕自身はそう思う。間違っているかもしれない。失敗するかもしれない。でも、できることは何でもやろう。やらなくてはわからないのだ。だったら、やってみる価値はあるに違いない。



そこで、ある問題がでてきた。

僕自身女の子の格好をしたことがないのだ。まったくない。皆無だ。

学校で制服を着るが、それはあくまで義務的に着ているにしか過ぎない。

要するに自発的に、ひらひらのスカートやレースがついたブラウスなどといった女の子が好きそうな服を着ようとしてこなかったのだ。僕にとって私服といったら、ジーパンにTシャツだ。そして、ブルース2号の散歩の時はたいていジャージなのだ。

そう考えたら僕は恥ずかしくなってきた。女らしくないのに、いや、その前に女の子になろうともしてない僕がどうして、あいつに告白できるだろうか。

いやいや、今の時点で気づいてよかったのだ。今ならまだ間に合うはずだ。


でも、誰に服といったことを教えてもらえればいいのだろう。

正直、友人に今まで会ったことを一から十まで話すのは、気まずい。いや、恥ずかしい。

からかったりはしないだろう。でも、女の子はなんというか、時に余計なおせっかいをやく。誰々が好きだ、といったりでもした日には、ニヤニヤ笑いながら、その男の子とくっつけようとするだろう。

そういうのは、弱気なくせに男勝りな僕にはとても不愉快だと思う。

僕は的確なアドバイスとちょっとした勇気をくれればいいと思うが、残念ながら僕の友人はそうではないだろう。悲しいことに。

だから、友人は除外だ。

そうすると、誰がいいだろう。

親に相談するのも、なんだか小っ恥ずかしい。基本僕は親には秘密主義なんだ。だから、親も除外。

交友関係の狭い僕はこれ以上、相談する相手がいない。

どうしよう。いないと正直困るんですけど。

そのとき思いついた。


おじさんだ。

おじさんにはもう、それとなく相談をしたことがあるし、詳しく話さなくてもきっと僕の相談にはのってくれるに違いない。なにせ、冗談でも、私にべったり頼るのもありですよ、と言ったのだから。

この際、おじさんの気持ちを無視してでも相談しよう。べったりとはいかないにしろ、ほどほど頼ってしまおう。なにせ、向こうは大人だ。頼る人間が何人いようともそれなりに上手く対応してくれるだろう。

そうと決まったら僕の行動は早かった。



「で、私にファッションについて教えてもらいたいと、そういうことですね。」

「有り体に言えば、そうだね。女の子の服とかまったく分からない僕よりはおじさんの方が何か知っているんじゃないかと思って。」

そう。正直、おじさんにファッションセンスなんていうものが存在するか甚だ疑問だったのだ。でも、自分よりはと思い、思い切って聞いてみたのだが、おじさんはなぜか渋面。

やっぱり僕なんかが頼ったのがいけないのだろうか。冗談を本気にしやがってとでも思っているのだろうか。

「あっと、でも、おじさんも無理だよね。うん。いいよ。冗談だよ。ほんの軽い気持ちから言っただけだからおじさんは気にしなくていいよ。」

弱気な僕は不穏な空気を感じ取るとすぐ自分の意見を翻してしまう。

そういえば、僕はディベートとか好きじゃない。というか、嫌いだ。心を強くしたら、少しは好きになれるのかな・・・。

「いえ、いいんですが・・・はぁ、なんでもありません。私の気持ちの問題です。」

おじさんは少し顔を緩めていった。

おじさん自身の問題?それはなんだろう?

でも、おじさんが僕に服の指南をしてくれるなんてよかった。

「やるからには真面目にやります。ということで、私に服の用意をさせてはくれませんか?あなたが用意するよりも教えるという意味では、こちらで準備したほうが効率がいいと思うのです。」

「・・・言われてみれば、そうだけど・・・・、それじゃあ、僕が後でおじさんにあとでお金を払えばいいね。」

「そうですね。本当はただであげてもいいですが、あなたはそれじゃあ嫌でしょう?」

「うん。もちろん。お金の貸し借りは嫌いなんだ。」

「それでは、明日、この公園で待ち合わせしましょう。時間はいつも会う時でいいですね。」

「いいよ。ありがと。おじさん。僕の身勝手なお願いなのに。」

「あなたの笑顔が僕にとって、この上ないほどの活力になるんですよ。」

それでにこりと麗しい、あでやかな笑顔を見せられると僕は顔を赤くしてうつむくしかない。

おじさんは人を冗談でも喜ばすのが上手い。ただ、それだけだ。それなのに、

「・・・・ありがと。」

御世辞と分かっていても、僕はしばらくまともに返事することができなくて、それがとてももどかしかった。

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