91 Load Game
「――ッ」
「大人しく死ね!」
剣を受け止めるどころか躱すので精一杯。が、このままじゃジリ貧だ。先に俺の体力が尽きて普通に死ぬ。
「――遅延!」
「はっ、当たらんな!」
伸ばした腕を浅く切られる。痛ってえ。浅いには浅いが、服の上まで血が滲んでやがる。
「――繋檻!」
「っあ!」
地面から生えてきた黒い半球に足を取られた。顔面着地はギリギリ防いだが起き上がれない。腕に力が入ったせいで出血量が増える。
急いで抜け出さないと、いやその前に反撃? 次は何がくる?
――余裕の笑みで突っ込んでくるルファス。これは……むしろチャンスと取るべきか。
「――閉空!」
「何――!?」
直前で剣を引っ込めたようだがもう遅い。ルファスの剣は、歪んだ空間の中でねじ曲がって砕けた。
「チッ――具現化」
「――置換! おらおらおらおらぁ!」
降ってきてた瓦礫と場所を交換して繋檻から抜け出す。そして即無我夢中の切り込み。作りかけの剣では防ぎきることも困難らしく、ちょいちょい鎧を叩く手応えがある。
さすが聖剣、状況次第で聖騎士すら圧倒するその性能! そして勇者のステータス補正!
「くそっ、繋――」
「させるかよ! ――穿空!」
発動されたら終わりなので、中断せざるを得ないように攻撃を続ける。攻撃は最大の防御、叩けるときに叩いとけ。
「どうしたどうしたぁ! ――遅延!」
「な……」
具現化の途中に別の魔術を発動しようとしつつ、俺からの攻撃を躱す。そりゃ無理だ。欲張りは身を滅ぼすぜ。
気付けば足の震えも止まっていた。やれる。勝てる。
「食らいやがれ! 裂空剣!」
「――土壁」
――ガン、という衝撃とともに体が宙に投げ出される。辛うじて聖剣は握ったままだが、重要なのはそこじゃない。
ルファスに魔術発動の暇はなかった。つか暇あったのなんて一人しかいねえ。
「ユネ……!!」
「ごめんにゃ、アヤト。せめてぼくの手で殺してあげるにゃ――祓魔の陣」
「ぐ、ぁ」
橙色の光の爆発により、再び空中にふっ飛ばされる。一周回って痛みがない。下半身に至っては感覚がなくなってる。着地前には時遡で最低限動くようにしとかないとまずいな。
「――時遡……っ」
げえ、下手に治したせいで今度は痛みが出始めやがった。動かないよりはマシなのかこれ。動かしたら激痛、動かさなくても激痛だぞ。そんなん動かないで痛みもない方が楽だろ。やらかしたな。
だがこれ以上時遡してる時間はない。恐らく他の陣も置いてあるだろうし、受け身と遅延の準備をしておかないと――
「――滅魔の陣」
「遅――!?」
四方八方から飛んでくる紐状の光に遅延が間に合わない。拘束された。次なんだったっけ。俺はこの陣を見たことがある。大蜘蛛のときだ。そう、この後天を衝く勢いの光が立ち上がった。
とにかく逃げないと。どこか入れ替われそうな、何かないのか。何か。
「――討魔の陣!」
間に合わなかった。純白の光が柱を形成する。眩しいな。目でも閉じとくか。
――だが、俺はその光に呑まれることはなかった。いつまで経っても、柱は俺の目の前から動かない。
(何……してるにゃ。早く逃げるにゃ)
(な、ユネ!? どうして)
(ぼくは……ぼくは、やっぱりアヤトを殺したくないにゃ。アヤトはもう大事な友達だし、どうしても生きてほしいにゃ。さあ急ぐにゃ、ルファスに気付かれないうちに!)
(わ、悪い。恩に着る)
た、助かった……のか?
光の柱に陣を重ねがけするユネを後目に、城門へ向かって走り出す。まぁまだ絶体絶命を一度切り抜けただけだ。ルファス以上の敵がいないとも限らない。宮廷騎士みたいなのもいるって聞いたし。喜ぶのはあとだな。
「侵入者! 侵入者を発見した、東の噴水付近――」
「――穿空!」
「ぐぁっ!」
兵士は胸に穴を空けて絶命した。すまん、なりふり構ってられないんだ。こっちも割と命かかってるからな。一撃でやったから許してくれ。
っと、城門が見えてきた。兵士に減速かけて、その隙に穿空で破って突破する。
「いたぞ! 魔術班展開準備!」
「――時緩――」
「まずい、詠唱中止! 急ぎ解呪を――」
「――減速!」
突っ込んできた鎧の兵士も、後ろで杖握ってる魔術師軍団も、真ん中で焦りまくってる指揮官も、全員まとめてスローになった。時空魔術つええわ。
「――穿空!!」
門を縦に裂くイメージを飛ばす。が。
着弾場所にはかすり傷一つ付いていなかった。
「もう一回だ――穿空!」
今度はサイズ控えめに、その分魔力を込めての発動。
だがダメだった。同じように術は門の前で消失する。
「おーおー、やってんなぁ。線はいいな、うん」
後ろからの声に振り向く。白シャツにジーパン……THE・私服って感じの男がいた。こんな場所じゃなければ一般人にしか見えない。こんな場所じゃなければ。
「よっす勇者。力で押し切るならあとちょいだ、周りの素因を上手く感じてみろ」
「俺は勇者じゃない――圧空!」
「んっんー、解呪。アドバイスは聞いた方がいいぜ? んな幼稚な魔術じゃ俺には届かん」
閉空でも恐らく消されていた。両手をポケットに突っ込んでる状態で消されたんだからな。要するに舐めプだ。ヤバい。ルファスが羽虫に思えてくる。
「んまぁ最初はそんなもんだ。むしろよくできてる方だろ。剣も使うなら尚更な――おいお前ら! もう下がっていいぞ、ローレンツが相手してるっつっとけ」
「は、はい!」
減速が解けていた。全く気付いてなかった。いや、気付いたところで相手はできねーけど。
ローレンツとかいう男はどこからともなく剣を取り出す。待て待て俺は剣の方は初心者もいいとこだぞ。こいつは飾りだ。
「ほら、早く抜けよ。そういや片手剣は久しぶりだな。最近はずっと別の武器ばっか教えてた――」
おっと案外ワンチャンあるか、と思ったのも束の間、
「――だが安心しろよ? お前より余程上手く使える――そら!」
「っ!?」
俺が剣を構えたタイミングで斬撃。構えたままの姿勢で後ろに吹っ飛んだ。置換とか間に合うはずもなく、そのまま門に背中を強打。マジいってえ。息ができねえ。ユネ戦のダメージもまだ残ってる。
「おーい、大丈夫か? 構えも素人同然だし、さては剣使えねーだろお前。気持ちは分からんでもないが、魔術は悪くないしそっち伸ばした方がいいと思うぜ?」
俺もそう思う。が、ないよりはいい。サブウェポンだサブウェポン。
「んまぁ、ちっとだけ時間はあるんだよな。魔術の覚えが良けりゃ、剣術の方も教えてやろう。だから――」
斬撃が来る。こっから上体起こして回避するのは多分無理。魔術は間に合わせる。
「――今は寝とけよ」
「ッ――遅延!」
かかった、術に向かって一直線に進んでくるのが見えた。ははは侮ったな俺を! 俺はこれでも勇者だからな!
「遅えんだっつの」
「な」
に、と続ける間もなく横から殴られて吹っ飛ぶ。意識はまだある。状況は大体理解でき……ないでもない。いや確かに見たはずなんだ。残像? 相手も魔術を使ってたのか?
「拘束はなぁ、加減ミスると殺しちまうしな。かと言って起きてると暴れられて面倒だし。……ああ、骨でも折って動けなくすりゃいいか。決定」
冗談じゃねえ、こんなボッコボコにされて逃げられないとか最悪だぞ。だが身体は動かねえし魔力も尽き気味、遅延一発撃てるかどうかだが視界も霞む。
「……っとぉ、どういうこった。リフィスト様か? 城の破壊もこいつにゃ無理だと思ったが」
(マスター、お手を上に!)
(……?)
脳内に声が響いた気がする。手を上にって中々難しいこと言うね君。そんな元気ないぜ。
「おお? まさか勇者を攫うのか? この世界がどうなってもいいってか? 逃げ出しただけあるな、イカれてやがる――させねえよ」
(マスター、どうか!)
しゃーねえ、上げるだけ上げてみるか。よっこらせ。
途端、体が宙に浮いた。手を引っ張られた感じではなく、どちらかというと風船になった感じで。
「おっ」
城が、庭が、ローレンツがどんどん遠くなっていく。それなりの高度まで上昇は続いた。
そのままふわふわと宙を彷徨っていると、俺を助けたらしい子から手を握られる。柔らかい手だ。今気付いたが、さっきまでの疲れはないし、痛みもなくなってる。
とりあえず礼を言っとかないとな。なんで助けてくれたのかは分からんが。
「ありが――」
目が合う。めっちゃ可愛い子だなと思った。
――俺は、全てを思い出した。




