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8 街へ

前半レルア視点・後半三人称視点です。

 まさか部屋をいただけるとは。天使に――口に出すのも(はばか)られるような仕打ちをする勇者もいると「勇者補佐の心得」にあったので、部屋がいただけるなどとは思っていなかった。マスターはかなり良い勇者なのかもしれない。

 ……天使をお遣いに行かせるというのはかなりイレギュラーだと思うが。これも補佐の一環と考えればおかしなことではないのだろうか。天使たるもの常に勇者の傍にいるべし、ともあった気がするが……。

 

 とにかく、街へ行くならまず場所を知る必要がある。精霊でも呼び出すとしよう。

 

「――精霊よ、我が呼び掛けに応えよ。汝が力を以て我に尽くせ」

 

 風が鳴いた。高位精霊召喚術を使ったにもかかわらず、小さな竜巻。このような辺境には下位精霊しかいないらしい。

 風が止み、渦の中から拳大の精霊が顔を出す。

 

「はいー。なんの用……て、天使様!? 申し訳ございません、只今精霊王を呼んで参りますので――」

「いえ、構いません。それより、近くの街の場所を教えてください」

「あわわ、えと、一番近いのはシレンシア王都ですね。活気のある城下町で、南に30キルト行ったあたりの場所です。と、言っても遠いし分かりにくいですね……近くまでご案内いたしましょうか?」

「ええ、お願いします」

 

 思えば、地図も何も持っていない。天界と違って、この世界では私は万能ではないのだということを改めて自覚する。

 

「かしこまりました。近くまで着きましたら私は消えます。天使様は翼を隠しておいてください。ご存知かもしれませんが、人族の宗教は基本的にリフィスト教ですので、天使様は崇拝対象なのです」

 

 ふむ、確かにこちらへ来る前にそんな事を読んだ気もする。翼を有す少女が、村を災厄から救ったという伝説。人族と交流があった、大昔の下級天使(サイティミック)の仕業だという話だが……それが宗教になったとか。

 勝手に特定の種族や個人などを救うのは重大な違反行為であるので、大罪を犯した(・・・・・・)として下級天使(サイティミック)「リフィスト」は存在を抹消されたらしいが、それは言わぬが花だろう。

 

 で、翼を隠せば良いのだったか。

 

「真実を覆い隠せ――隠蔽(バルド)

 

 みるみるうちに翼は見えなくなった。意識して見ない限り私ですら見ることはできない。

 土鎖(グライド)などとは違って力が制限されている様子もない、か。


「略式詠唱でそれほどの効果とは……驚きました」

「いえ、コツさえ掴めばそう難しい事でもありません。下級精霊でも努力次第では可能でしょう――私の準備は整いました」

「はい! では、付いてきてください!」

 

 精霊は羽を震わせると、空へ飛び上がった。私もそれに続く。

 

 

 

* * *

 

 

 

「号外、号外です! 北に大規模な魔力反応が発生しました!」

 

 羊皮紙の束を抱えた青年が、慌てた様子で酒場――冒険者ギルドに駆け込んでくる。

 

「どうしたヴィル。またヴォルフの大量発生か?」

 

 両手剣を背負った屈強な男が、酒の入ったジョッキをテーブルに置きながら聞いた。

 

「アレンさん、それが今回はそう簡単なものでも無さそうなんです。突然反応があったと思えば、それが加速度的に大きくなっていって……小型観測計では観測し切れない量にまで膨れ上がりました。現在王城にAランク冒険者の派遣許可を交渉中です」

 

 青年――ヴィルの言葉を聞いて、周囲の冒険者がざわつき始める。それもそのはず。Aランク冒険者はこの世界に数えるほどしかいない、プロの中のプロ。滅多なことでは前線に出て来ないようなのが殆どだ。

 アレンと呼ばれた大男は、先程よりも少し切羽詰まった声で聞く。

 

「するてーと、少なくともワイバーン級のがウロウロいる可能性があるってことか? それにしてもえらく急な話だな」

「たまたま、管理下に置かれていない神獣が空から降りてきたとかじゃない? 単純に計測器の故障かもしれないし」

 

 そう聞いた軽装の女に、ヴィルは答える。

 

「そうである可能性も十二分にあります。ですが、Aランク冒険者に調査してもらうに越したことはないので……」

「勇者様の召喚と同時に妙な魔物でも召喚してしまったのではないかね……私は心配だ」

 

 冒険者達は、口々に魔力反応についての予想を述べ始める。ギルドの話題の中心は、一瞬にして魔力反応のことに移り変わった。


 

 ――ちなみに、この"魔力反応"が迷宮だと知られるのは……まだ少し先の話である。

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