6 ゴースト一家
ふと後ろを振り返ると、迷宮入り口であろう、地下に続く階段があった。いくら見渡す限り草原しかないといっても、流石に無防備すぎる。いつ誰に攻められるか分からんしな。
そして、この魔法陣も便利であると同時にかなり危険だ。やっぱ地上にも魔物を配置したい。
『地上配置型魔物一覧です。ゴースト、グール、リッチなどがオススメです』
ふむふむ、高僧でもないと一般人と見分けが付かないのか。迷宮を離れて少し探索してきたりもしてほしいな。
『魔力タンクを与えれば可能です。一般人並みのものがオススメです』
よし、じゃあ魔物でありながら一般人と同量の魔力だけを持たせよう。どうせ魔力量も変わらないし一番安いゴーストでいいか。
せっかく人っぽいゴーストを選ぶんだし家族っぽくしたい。一軒家を建てて常時ここに住まわせるってのもいいな。
『一軒家・地上は10万DPです。実行しますか?』
今気付いたが、レルアの邪竜狩りでDPが桁違いに増えていた。実行。
『実行します』
突然目の前に丸太で組まれた壁が現れた。しかもこの家二階建てかよ。豪華。
リビングに入ると適度に使い込まれた感じが滲み出ている食器棚や机などがあった。薄く染みのあるカーペットまで敷いてあるとは驚いた。
『続いてゴースト(オプション:魔力タンク・一般人並み)を配置しますか?』
勿論。さぁゴーストってのはどんな感じなんだろう。
『実行します』
【地上:ゴースト4/4】
「マスター、よろしくお願いします」
「おお、よろしく!」
俺の前に現れたのは、男女二人ずつ、大人二人子供二人。茶色がかった髪といい青い瞳といい雰囲気は日本人離れしてるな。こっちの世界ではこれが普通なのか?
それより、親子の顔付きが似ているあたり凝ってるなぁ。
『過去に実在した人物からデータを取っています』
なるほど。ということは――
「名前とかあったりする?」
「ええ、一応。しかし、マスターが新たに決めてくださるというのならそれでも構いません」
「いや、あるならいい。教えてくれ」
父親然としたゴーストは言う。
「はい。私がゼーヴェ、妻がリリア、息子がレイ、娘がノナという名です」
それぞれがお辞儀する。覚えねば。
と、画面が切り替わる。
【地上:ゴースト4/4】
ゼーヴェ
リリア
レイ
ノナ
なーるほど都合の良い機能だ全く。あ、そういえば。
「前世の記憶とかって?」
「生前はシレンシア騎士団遊撃隊の隊長でした。最期は部下に裏切られ、家に火を放たれて一家全滅、という呆気のないものでしたが……」
「お、う。なんかすまん……」
いえいえ、と言ってゼーヴェは首を振る。きっと魔力が一般人並みでも相当の実力なんだろう。
「よし、じゃあ君らはしばらくここで普通の人間っぽい生活を送ってくれ。飯は迷宮の魔力で十分だとは思うが、出来たらそのうち畑や家畜なんかも追加しておく。外部から客が来たら丁重にお迎えしてほしい。敵意があるようなら――」
俺に伝える手段がないな。どうする?
「我々だけで対処しかねるようであれば、念話を飛ばすということでよろしいでしょうか?」
「ん、念話って?」
まさかまさかの?
(マスター、聞こえますか?)
こいつ直接脳内に!?
(ああ、聞こえる。これが念話か)
キターーー!! 一回やってみたかったんだよこれ。頭ん中に声が響くってのは思ってた以上に面白いな。
「そうだな、これでいこう。あとは奥の部屋の転移門だけは何が何でも守ってくれ。守りきれないようであれば破壊していい」
一応結界は張ってあるが念の為だ。こう見えても……というか迷宮に籠もってる時点で察せると思うが、臆病者なんでね。
あ、そうだ。
「一つ言い忘れてたが、恐らく近いうちにこう――真っ白い羽が生えてて――髪は腰までのプラチナブロンド――綺麗な碧眼で――めっちゃ可愛い――とにかく可愛い――なんつーか凄く天使なレルアってやつが来ると思うから、その時は転移門を使わせてやってくれ」
「承知いたしました」
よし、とりあえずこれでいいだろう。俺はまた迷宮に引きこもってるか。
「そんじゃまた」
俺は転移門を踏み、転移した。