50 聖騎士
「――にゃ?」
「どうした、ユネ」
「あの甲冑、なんか変じゃないかにゃ?」
オイオイいきなりそこに目を付けるか。大当たりだよ。ってかそれがわかるってことは、やっぱ聖騎士――めちゃくちゃ強いな?
「確かに、どこか禍々しい雰囲気だねえ……」
「影の住処だ。何が置いてあってもおかしくはない」
「後ろに隠された箱も気になるにゃ。ま、触っちゃダメとは書いてないし――」
「おい、待て」
猫耳少女が甲冑に触れる。カチ、という小さな音。次いで紫に光る甲冑の目。
まだテスト段階だ、聖騎士を相手にそう長く戦えるとも思えないが……。
「にゃあ! 戦る気かにゃ? Ⅲの騎士である、このぼくと!」
「待てと言っている! 影と出会う前に消耗など……」
「まぁま、いいじゃないかあ。好きにやらせてあげたって、彼女なら怪我一つ負わないよう」
「しかし、影がいつ奇襲をかけてくるともわからないんだぞ。それに、この任務は現在我々にとって最優先のものだ」
そういやこれ一応リフェアとラビに連絡入れといた方がいいかな。レイスじゃなくて影の方が目的なんだし。
「ルファスは頭が固すぎるんだにゃー。Ⅰの騎士なら、もっと柔軟に動くべきだにゃ」
「お前が軽すぎるんだ……っ、余所見をするな! ――聖浄」
ユネは、聖浄によって軌道の逸れた剣を軽いステップで躱す。踊ってるみたいな避け方だ。
「ルファスは心配性だにゃー。あんなのぼくならいくらでも躱せるにゃ」
「それでも駄目だ! そもそも、躱す必要がある攻撃をしてくるような相手に喧嘩を売るんじゃない。全く……俺も加勢する!」
「あ、だーんちょ。僕ちょっと向こう見てくるねえ」
「おいハルティア、勝手な行動は……くそっ、行くのが早すぎる! とにかくまずはこいつだ――土鎖!」
土鎖って魔術、ズルいよなぁとつくづく思う。一旦拘束したらたこ殴りにできるし、普通に攻撃として使っても強い。
甲冑――正式名称はゴースト甲冑型らしいが呼びにくいな。黒騎士でいいか。
黒騎士は聖浄を体中に食らって息も絶え絶えだ。ここの転移門からだとどこに飛ぶんだったかな……。
「あれえ? ゴースト? ねえ君ゴーストでしょ?」
ゴーストが復活し始めたらしい。だが聖騎士の相手には――
「君もさあ、精霊に愛された僕の魔術、受けてみたいよねえ? 遠慮しなくていいんだよう、ほら――」
ハルティアを中心に、素因の大爆発が起こった。……が、それは魔術による爆発ではなく、魔術発動の前段階に過ぎなかった。
「――大嵐」
まず窓が割れた――一瞬で。
次に柱が折れた。扉も外れて宙を舞ってる。大理石の床もひび割れまみれだ。
一階は大災害に襲われていた。もう大災害としか言いようがない。絶対屋内禁止の魔術だろ。
言うまでもないが、ゴーストは復活するそばから死んでいった。散々にしてくれやがって、クソ。
「アハハハハあ! 無詠唱でもこんなに威力出るんだねえ。僕の予想通り、ここは素因が濃いみたいだ……だんちょー?」
「――急に――高位魔術――を使う――な!」
嵐の影響で味方にまで被害がいってやがる。蟻を殺すために核を使うような真似をするから。
「ごめんねえ、思った以上に弱かったからさあ。影の隷じゃないのかもねえ」
「まったく、少しはぼくらのことも考えてほしいにゃー。甲冑が土鎖壊してきてたらちょっと危なかったにゃ」
「それより見ろ、箱から何やら短剣が出てきた」
黒騎士が守ってたやつか。追加効果で何かの属性強化が付いたが、武器自体に属性はなかったとかだった気がする。
まぁ魔術メインの奴が懐に忍ばせる分には十分だろ。でもあのハルティアとかいう頭大嵐野郎には持たせるなよ。
「短剣ならぼくが貰っとくにゃー」
「待て、これは俺が預かる。教皇様に提出しなければならないし、安全かどうかもわからない」
「箱ってえ? 僕気になるなあ、貸してよう」
大嵐野郎――ハルティアがルファスから短剣をひったくった。
「ああ、これは僕が持ってた方が良さそうだねえ。とっても僕向きの武器だあ……」
「にゃ!? 短剣はぼくの武器にゃー、ハルティアは杖だけ握ってろにゃ!」
「アハハ、渡さないよう。ほら、先に行っちゃうよう?」
ハルティアは短剣を腰元に提げると、そのまま転移門に飛び込む。
「あ、待つにゃー!」
「馬鹿、また勝手に……」
追って飛び込んだユネに苦い顔をするルファス。少し考えた後、自身も転移門に飛びんだ。
ああ、思い出した。この転移門もまだテスト段階なんだよ。転移先はいきなりギガントゴーレムだ。ヤバい。
円形のコロッセオ地味た広間に、岩が寄り集まってできたかのような怪物。まぁいかにもボスって感じだな。
「へえ、いい的になりそうな魔物じゃないかあ」
「今度こそ影の隷かもしれないな。こんな魔物野生で見かけない」
「にしても随分妙なとこに飛ばされたにゃー。影さんはどこにいるにゃ?」
「――来るぞ!」
ギガントはその巨体で殴りかかるのかと思いきや、突然聖騎士のいる地面に尖った岩を生み出す。
「ぼくが注意を引くにゃー」
「僕はいつも通り吹き飛ばせばいいわけだねえ。風の精霊よ――」
こんな上層のボスで聖騎士を倒せるとは思えない。
レルアはまだ本調子じゃない。ゼーヴェと三騎将を出すにも勝てる気がしない。カインまだ復活してないしな。
(リフェア)
(何?)
(ラビの調子は?)
(まだ全然ダメ。天使さんと戦ったときに魔力のほとんどを消費しちゃったみたい)
(そうか……)
一応地下21階以降には砂漠が広がっている。だが遺跡チックにすることに時間をかけすぎて、罠もほぼないし魔物も少ない。
いざとなれば俺が出るしかないか。時空魔術は珍しいらしいし、不意を衝けば三人とも地上に送り返すこともできるかもしれない。
「風刃が通らないのは困るねえ」
「……ぼくが右足を重点的に叩いてる理由、わかってるにゃ?」
「も、勿論だよう。ユネを巻き込んじゃうから撃ってなかっただけさあ」
今のうちに地下21階に移動しよう。聖騎士が来る前に強制送還を設置する。
失敗したらそのときだ。
「ぼくを巻き込む、にゃー? 『精霊に愛された』が聞いて呆れるにゃー」
「う、うるさいなあ。風の精霊よ、我が願いを聞き届けたまえ。彼の者を貫け――風槍」
ゴガッ、という鈍い音と共にギガントの右足が砕け散る。もう少しもってくれ。
転移門を踏む。行先は地下21階――
――眩しい。そして暑い。ひとまず転移は成功だ。
想像した通り地下20階側の階段に出れた。んーとここに……
「――強制送還」
深い青の雫が、伸ばした手の先から滴り落ちる。
それは砂漠の砂に吸い込まれず、徐々にその――青く光る地面を広げていった。
初めて使ったけどこんな感じなんだな。これが広がりきると罠として機能する、と。
「――ここは砂漠にゃ? っていうか……人?」
「あれえ、おかしいねえ。ここは影の住処だよう。君も、『影の隷』なのかなあ?」
早すぎる。右足を破壊したあと何があったって言うんだ。特殊能力で精神でも焼き払ったのか?
お願い、寄らないで聖騎士! 強制送還はあと少しで完成する。ここを乗り切れば、聖騎士を地上に返せるんだから!
次回、俺 死――んでたまるか。確実に強制送還を踏ませるために遅延を撃つか? いいや、リスクがでかすぎる。
だが今更一般人のフリもできない。一般人が迷宮の地下21階なんぞにいるはずもない。
「答えよ少年、貴様は……何者だ?」
どうする。どうすればいい。




