5 時空魔術
「あー、よく寝た」
ベッドから起き上がり、伸びをする。ふと近くに掛けてある時計を見ると、まだ寝た時間から数秒と経っていなかった。
「ん、どういうことだ?」
十二時間、二十四時間寝たようなだるさは無い。ぐっすり眠った気がするが、これは迷宮王の特権か何かか? 便利だな。
さて、ヘルプをじっくり読むとするか――
「おっ?」
画面上部、スキル獲得なるモノが表示されていた。押せと言わんばかりに光っている。反射的にタップ。
『職業:迷宮王は追加で一つ好きなスキルを選べます』
太っ腹。運営大好き。神大好き。
ただ、いざ選べと言われても迷宮関連のスキルは全部獲得済みになってるからなぁ。
個人的に欲しいスキルでいいだろ。魔法使いたい。一覧表示。
「これなんか良さそうだな」
『時空魔術:時間と空間を操る。極めれば指定範囲の時間の停止や空間の拡張も可能になる』
チート臭がするでござる。厨二心もくすぐられる。即決。
『スキル:時空魔術を獲得しました』
どんな事ができるようになったんだろ。一覧とか表示できる?
……画面に使用可能魔術一覧が表示された。
時間の方は一定時間の加速と減速まで使えるらしい。空間の方は転移までか。試しに迷宮内の時間でも加速させてみよう。
詠唱わからん。とりまテキトーにやってみるか。
「時間魔術を発動。対象は迷宮内。効果は加速……っ!?」
ガクッと力が抜けるのを感じた。膝から地面に崩れ落ちる。
『魔力切れ:使用した魔術が自分の魔力量の80%を超えた際に起こる現象。対象者は脱力感に襲われる。魔力が完全に回復するまでは魔術の使用は不可』
ご丁寧に解説が画面に表示された。
まぁいきなり使える限り一番上の魔術を使ったわけだし仕方ない。迷宮内ってのもなかなかに広範囲だったしな。
……魔力は寝たら回復するとかあったりは?
『魔力回復:時間経過かレベルアップで回復する。睡眠時は必要時間が短縮される。最大値はレベルアップ、魔力消費により上昇する』
聞いといてアレだが、寝ても一瞬で起きるから意味なさそうだな。
参った、魔力も尽きたし本格的にやることがない――と考えていた矢先だった。
『レベルアップ。アヤトのレベルが1→57に上がりました。使い魔:レルアのレベルが1→57に上がりました。スキルポイントを獲得。獲得可能なスキルが無い為、自動で割り振ります。レベル50に達したため、ジョブスキル:迷宮拡張・地上を獲得しました。称号:邪竜を狩る者を獲得しました』
脱力感がスーッと消えていく。
レベルアップ? なんでまた急に。DPも増えてるし何があった。
俺は何もやってないから――レルアか。邪竜を狩る者、とかいう物騒な称号から見ると外で邪竜でも狩ったのか? 邪竜ってのもまた厨二心をくすぐる響きだ。今度迷宮に竜配置しよう。
それより、迷宮拡張・地上だったか? 地上にまで迷宮拡張とはなんぞや。
『迷宮拡張・地上:ユニークジョブ、迷宮王のジョブスキル。迷宮を地上にまで拡大する』
迷宮を地上に……? よく分からん。取り敢えず地上まで転移するか。時空魔術に転移魔術があったな。呪文は――
「転移」
『迷宮内からの直接転移は禁止されています』
いやいやレルア転移してただろ。天使だからか?
『認知外の転移履歴を確認。エラー。転移妨害を強化します。DPを消費し転移無効結界の発動を確認』
いや、いいよそんなことしなくて……レルア帰って来れなくなっちまったじゃねーか。
『自動セキュリティを解除しますか?』
それもなんか怖い。やっぱ保留。他の方法を考えよう。
で、そうすると俺が外に出るにはどうすればいいわけ?
『転移門の設置をお勧めします。時空魔術レベル6で使用可能です』
ほう、今のレベルは8だから使えるな。んじゃ早速。
「転移門設置。転移先は地上」
テキトー詠唱のテキトー指定でも、ちゃんと青く光る魔法陣が設置された。これ大丈夫なのか? 恐る恐る足を乗せると、
「うっわ眩し」
見渡す限りの草原が、広がっていた。