閑話 二人の義賊
ギード(盗賊)視点です。
「そっちに逃げたぞ、捕らえろ!」
「了解! ――土鎖」
「おっと危ねぇ。ギード!」
「へぇ只今! 風よ白く染まれ――白煙」
あっしらは盗賊。それも悪徳貴族専門の盗賊でさぁ。
で。今は見ての通り追われてやして。まぁこれも、うっかり従者を一人殺しちまったからなんでありやすが。
抵抗せずに素直に金を出しときゃ良かったんでありやすがね。いやぁ困った。あっしも殺すつもりはなかったんで。殺しはしない主義でありやすし、何より後味が悪い。
「魔影短剣」
「効かんな! ――土鎖」
効かなくて当然。攻撃はお頭任せで十分でありやすしね。
あっしの役割は――
「くそっ土鎖が邪魔され――おのれちょこまかと!!」
――あの厄介な鎖の妨害でありやす。
「ふんっ、衝撃波ォ!」
「ぐぁっ」
流石お頭。白煙で撒ききれなかった分もしっかり吹き飛ばしてくれやした。ま、運が良ければ死んじゃいないでありやしょう。
「うおおお! 相棒の仇いいいい!」
「ちっ……」
「――起動せよ!」
麻痺を込めた魔術結晶。いざってときのために高いのを買ってありやす。並大抵の耐性じゃあ話になりやせん。
従者は、剣を振り上げたままの体勢で鈍い音をたてて落下しやした。ちゃんと効いてるみたいでありやすね。
いや、それにしても怖い顔でありやすな。ま、仕えた主人が悪徳貴族だったのをて恨んでくだせえ。
……ご安心を、わざわざ止めは刺しやせんから。
「おいギード、今のは流石に肝が冷えたぜ」
「へぇすいやせん、白煙の外にいるとは思いやせんでした」
丁度最後の一個でありやした。街へ帰ったらまたいくつか買っておかなきゃなりやせんね。
「まぁいい、今日の目標は達成だ。麻痺がいつ切れるともわからねぇ、さっさとずらかるぞ」
「へぇ了解でありやす――帰還」
これまた便利な魔術で。詠唱なしでも、唱えるだけで無事いつもの路地裏に戻れるんでありやす――まあ魔力をほとんど持ってかれちまいやすが。
さて、早速酒盛り……の前にやることがありやして。教会兼孤児院への寄付なんでありやすがね。
元々貧民街暮らしだったあっしらは、かつてこの孤児院に拾われやして。このままぬくぬく暮らすよりかは、幾分刺激のある人生を――ってことで抜け出したんでありやすが、嫌な貴族の反感を買っちまって冒険者登録抹消。貧民街育ちに貴族の作法なんてわかりやせんし、依頼を受けたあっしらのミスでもありやがるんですが……ま、そんなこんなで盗賊やってるってわけでさぁ。
「おいギード。何呆けてんだ、早くしろ」
「へぇ只今!」
気付けば教会前。今日の飲み代分だけを残して、他は寄付。いつものことで。別に惜しくもありやせん。宵越しの銭は持たないんでありやす。
……いや、惜しくないって言や嘘になりやす。ただ、お頭の斧は出てくるときに拝借した高そうな代物でありやすし、もっと寄付してやっと釣り合いが取れるってとこでありやしょう。
きっと郊外にちょっとした一軒家を持てるくらいは稼いだと思いやすが、所詮は人から奪った金。そういうわけで、あっしもお頭も貧民街の穴蔵で生活してるわけでありやす。
毎日の飯と酒がありゃ生きていける。色々な規則に縛られない分、冒険者より楽しいかもしれやせんね。
ま、酒を飲むにも地下に潜って、値段がちょいとばかり高いのを飲まなきゃならんのでありやすが。
「……らっしゃい。あぁ、ローランにギードか。いつものでいいな?」
「ああ」
カウンターに置かれた酒を一気飲み。かーっ、身体に染み渡りやがります。
「お頭、明日はどうしやす?」
「そうだな、殺しをやっちまったせいで暫く貴族狩りはできそうにねぇし……北、このシレンシアの北に行くぞ。俺の勘がそこに宝があると言ってる」
「えぇ? 北にゃあ草原しかねぇでありやすよ。宝なんて本当にありやがりますか?」
「はん、じゃあ賭けるか?」
賭け。いつものでありやす。
負けた方は翌日の酒なし。ただ、勝った方は――二倍飲めるんで。
「乗りやした。今回は勝たせてもらいやすよ」
「言っとけ」
まったくお頭は。あんなただの草原に宝があるわけないじゃありやせんか。
ああ、楽しみでありやす。明日の酒もきっと、美味い。




