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【完結】転生ニートは迷宮王  作者: 三黒
第8章

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246 東雲

「ふー、食った食った」

「ご馳走様でした」

 

 2人なのに松セットなんて頼んだから腹がパンパンだ。レルアさんもそこそこ食べてくれて助かった。

 思い返せば濃い1日だったな。昼過ぎに起きたってのに普段の倍は活動した気がする。

 そうそう、レルアさんは靴屋でも自分で支払おうとするもんだから苦労した。ここは俺の顔を立てると思ってとか何とか言って俺が払ったが。

 ついでに、諸々思い出すまでは俺が全部持ちってことにしておいた。真面目なレルアさんは使った金額をメモってるわけだが、当然俺に受け取る気はない。

 

「そうだ、風呂先にどうぞ」

 

 風呂、と口にしたときに何かを思い出せそうな感覚が一瞬あった。……が、煙みたいにすぐに消えた。これも気のせいとかそういう類のものかもしれない。

  

「レディー・ファーストってやつですよ」

 

 またも遠慮するレルアさんを風呂場に案内して、俺は片付けに入る。寿司は飯ルーティンに入ってたが松セットは初めてらしく、重ねる場所がなかった。ゴミ捨てもサボってたんだろうな。多分朝起きられねえんだ。軽く見た時間割でも、午前の講義ほとんど入ってなかったし。

 

 風呂の扉が開く音がした。この音を遠くから聞くのも新鮮だ。そうだ、バスタオルも入口に置いとかねえと。

 タオルやら歯ブラシやらは何個か入ってるのを買ってたみたいで、新品があった。突発的な同棲にも対応できる備蓄。……同棲っていうとなんか重大に聞こえてくるな。多分ホームステイ的なアレなんだろうが。如何せん昨晩以前の記憶がボヤっとしてる。

 

 記憶喪失ってことで病院やら警察やらに行くのも考えたが、なんか書類書いたりするのが面倒なのでやめた。特に不便もしてないしな。

 どうやら俺は宝くじに当たってたらしいし、何かの事件に巻き込まれたのかとも思った。が、それも今のところ大丈夫そうだ。レルアさんについては謎が多いにしろ、まあ留学生ならそんなもんかなと思ったりもする。問題は正真正銘学生証しか持ってなかったことだな。彼女が望むなら病院でも何でも連れてくつもりではある。

 まぁ、貴重品は一応金庫(仮)に入れておいた。念の為な。疑うようなことはしたくねーし。

 

 シャワーの音が聞こえてくる。どことなくのんびりした空気が流れていて気分がいい。驚くことにダンツクを立ち上げる気にならず(1日ログイン逃したら急に萎えるアレみたいなもんだ)、かと言ってすることもないのでスマホを眺める。

 ……またメッセージに通知が来ていた。多分両親だな。

 2人は海外を旅行中らしく、こうして定期的に写真を送ってきている。色んなとこに行ってるようで、寒そうだったり暑そうだったり色々だ。楽しそうで何より。

 

 さーて、世界旅行気分のお裾分けも貰ったところで、寝る前の準備でも終わらせちまうか。これ系は今のうちにやっとかないと後で絶対面倒になるからな。俺は詳しいんだ。

 まず寝間着。買い忘れたが流石にレルアさんの分はなかったので、一旦高校の頃のジャージを着てもらうことにした。つってもメインで使ってたやつじゃない。ほとんど新品みたいなもんだし許してくれ。

 んでベッドはシーツだけ変える。枕はまあ……観賞用ミニ抱き枕にタオルを被せてなんとか。何もないと流石に寝づらいだろうしな。

 俺はその辺で寝ようと思う。昨日は椅子で寝落ちてたが、それよりかはマシなはずだ。普段使ってる枕がありゃ十分だろ。ベッドをもう1つ置くほどのスペースは無いので、明日明後日辺りに敷き布団でも買いに行くか。

 

 つーか既に眠くなってきてる。飯の後ってのもあるが、やけに体が疲れてんのを感じる。ったく、ちょっと歩いただけでこれかよ。もう少し動けると思ってたんだけどな。

 ラッキーなことに丁度手元に枕がある。仕方ない、レルアさんが上がってくるまで少し……寝るか……。

 

 

 

 

 

  

「……はっ」

 

 外が明るくなり始めている。

 これは何時間か寝たやつだな。体がちょっと痛い。変な姿勢だったかな。

 時計を見ると朝5時。なるほどこの空にも納得だ。

 で、俺の隣にレルアさんが寝ていると。何でだよ。床だぜここは。ベッド使ってくださいよ。まさか臭かった? 一応ファ〇リーズはしておいたが。……平気、なはずだ。まあ言い忘れてた俺が悪い。

 さーて、これは運んでいいものなのかどうか。どうなんだ。アウトか? 脳内会議開始――終了。

 そのくらいならセーフだろ派が僅差で勝利。変なとこ触らなければ大丈夫だ。 

 

「よいしょ……っと」 

 

 気合い入れて持ち上げたが、かなり軽く感じた。女の子って皆こんなもんなのか。

 そっとベッドの上に下ろして、俺はとりあえず風呂に向かう。こんなベタベタしてちゃ二度寝もしてらんないからな。

 

 サッとシャワーを浴び終わって、朝日に目を細めつつキッチンへ。

 朝は紅茶に限るね。わざわざ淹れずとも山ほど午前ティーがあるわけだが、早起きして茶の1杯も淹れないなんて損だぜ。

 今日も暑くなりそうだな、なんて思いながら優雅なひとときを過ごす。茶菓子はない。

 大学は午後からで余裕がある、且つ嬉しいことにモチベが戻ってきたので、再びダンツクを起動。イマイチ買った記憶のない高そうなヘッドホンを装着して、まずは深層罠周りの調整から。



 

*  

 

 

  

 ……数十分後。俺は早くもログアウトしようか迷っていた。

 なんか味気ないっていうか、没入感が足りないっていうか。ワクワクする感じがないんだよな。俺はいつの間にそんな贅沢になっちまったんだ?

 思ったほど順位が下がってなくて嬉しかったし、履歴からトレンドを把握して調整してく感じもいつも通りだ。ただ、何かが絶対的に違う。

 

 一旦エディットモードを抜けて探索者を待ってみる。実際に見てみたらあの興奮が戻ってくるかもしれない。

 と、背後でレルアさんが起きた気配がした。やべ、キーボード叩く音がうるさすぎたか。

 

「あれ……私……?」 

「あ、おはようございます。レルアさんは朝食どうしますか?」 

 

 運んだことに言及されないうちに話題を投げておく。

 

「いえ、昨晩沢山頂いたので……」

 

 やっぱそうだよな。良かった。俺が朝食わない派だからパンの1枚すらない。あるのはまとめ買いしたらしいスナック菓子だけ。  

 

「じゃあ紅茶だけでも。さっき淹れたんです、いかがですか?」 

「良い香りですね。頂きます」 

 

 さっきって言うほどでもないし、格好付けてるがパック紅茶だ。レルアさんが紅茶の本場出身じゃないことを祈るね。

 

 紅茶を啜りつつ、改めて覚えてることなんかについて話し合う。だが特に思い出せたこともなく、逆になぜか忘れてない記憶みたいな話題で盛り上がった。何でもないラノベの1シーンとか、自己紹介だけして以来かかわりのない知り合いの名前とか。

 レルアさんは結構特殊な環境で育ってきたらしく、知識に偏りがあった。日本のことも、どうでもいいことにやたら詳しいと思ったら有名な観光名所を知らなかったり。

 元々住んでた場所とかはどうしても思い出せないらしく、何となく上の方だったってことくらい。超高層ビルとかだったのかもしれない。それでも違和感がない。仕草が一々上品なんだよな。

 

 なんだかんだで家を出る時間になり、大学に行きゃ何か分かるかもってことで出発。スマホで調べたが3、4年のキャンパスは微妙に遠いらしい。電車で1時間弱ってとこか。

 ファミレスで少し早めの昼食を済ませた後、マップを片手に大学に向かう。ただの通学なのに、隣にレルアさんがいるだけで一大イベントに思えてくる。どんなとこなんだろう。俺らを知ってる奴はいるんだろうか。

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