245 買物
「暑っちい……」
外はカンカン照りで、日陰でも2秒で熱中症になるんじゃねえかってくらい暑かった。恐らく気温40度弱はある。炙られる食材になった気分だ。
ヘトヘトになりながらやっとの思いで店に到着。後ろのレルアさんは思ったより元気そうで、安堵が半分、俺だけヘバってて恥ずかしいってのが半分。
昼のピークも過ぎて、客も少ない……かと思いきや、店内は混み気味だった。レジにも数人並んでるし。まあいいか。
デカデカと貼られたおすすめメニューなんかを眺めながら、順番が来るのを待つ。体の火照りも少し落ち着いてきた。
「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」
「えーっと、ダブル&ダブルのギガMAX、ポテトLで。あ、ドリンクもLで、アイスティで」
期間限定の肉4枚&チーズ4枚入りバーガー。今の空腹感ならいける気がする。
「お連れ様の方は?」
「あー……どうします?」
やべえ、そういや聞いてなかったな。ギガMAXに意識を持ってかれすぎた。
メニューの前でオロオロするレルアさん。そもそもファストフードの注文形式に慣れてないのか?
「俺が頼んじゃっていいですか?」
「すみません、お願いします」
謝るのはどっちかっていうと俺の方なんだが。
「じゃあベーシックのセットください。セットはポテト、ドリンクは……アイスティで」
ドリンクくらい聞こうかと思ったが、後ろの客からの殺意を感じ取ったので諦める。
会計は合わせて3,000円弱。万札で払うのもなんだったので、テキトーに一番手前のカードで払う。
レルアさんもその学生証で払おうとしてたみたいだが(デビッド機能付きらしい)、俺が勝手に決めて連れてきて頼んだわけだからな。俺が払うのが道理だ。つーかカード機能あるっつったって身の回りのものなんもないわけだし。ここで彼女に払わせるのは鬼だろ。
「ごゆっくりどうぞ」
謝罪やら感謝やらで忙しくなってるレルアさんを連れて、空いてる席を探す。奥の窓際の客が丁度出るみたいだな。少し暑いかもしれないが、仕方がない。
「うーん、そこにしましょう」
俺のギガMAXは名前に劣らず中々の重量で、少ししか持ってないのにもう腕が疲れてきたとこだった。
椅子に腰を下ろし、流れるようにストローをアイスティに刺す。完璧。
「いっただきまーすと」
まずは無心で噛りついてみる。当然一口に入り切らない。あんまり無理すると顎が外れかねん。とはいえ引っ込みも付かないので無理やり潰して押し込む。口いっぱいに広がる肉汁とチーズの香り。うまい。贅沢だ。
と、そこでレルアさんがバーガーに口を付けてないのに気付いた。アイスティを持って、何か言いたげに俺の方を見ている。ストローの刺し方……とかじゃなさそうだが。
「どうしました?」
「その……乾杯はしないのでしょうか?」
おっと予想の斜め上だ。乾杯ね。乾杯ときたか。
「普通の飯のときにはしないんですよ。ってか、レルアさんの国にもあったんですね」
万国共通なのかもしれない。盃を交わした仲ってやつだよな。
「いえ、私が育った場所の文化ではなく……しかし、誰か大切な人に教わったような……」
なんだよ彼氏か? 妬けるねえ。まあこんだけ可愛けりゃ、彼氏の1人や2人や3人や4人いてもおかしくねえわな。
それより、今彼氏に出くわしたら俺がぶっ殺されんの確定だぜ。日本にいないのを祈るね。
俺がセットを何とか全部腹の中に収めきった頃(ポテトをLにしたのを後悔した)、レルアさんはまだ半分食べたかどうかってところだった。
どうやらハンバーガー自体食べ慣れてないらしく、普通サイズのと格闘する姿は見てて微笑ましいというか。
腹も膨れて眠くなってきた。少し残ったアイスティをチビチビやりつつ、スマホを開く。時刻は15時半過ぎ。客はまばらになってきたが、そろそろ学生が増え始める頃か。
何となくホーム画面を眺めていると、離れた位置に配置された通帳アプリが目に入った。……いくら残ってんのか気になるな。毎日出前頼んでたなら多少は潤ってるんだろうが、一応正確な額は把握しておきたい。
一生懸命バーガーを頬張るレルアさんに急がなくていい旨を伝えつつ、朧気な記憶を辿ってログイン。さあ、気になる残高は?
「…………?」
……おい。なんかやたら桁数が多い気がするんだが。バグってんのか。
「いち、じゅう……」
数えるまでもなくやっぱり多い。うーん。妙だぞ。リロード、再ログイン。数字は変わらない。
「…………マジでか」
どういうバグだよ、とか思いつつ、それでもほんの少しだけ期待しつつ、下にスクロールして入出金履歴を探す。
最初に見えたのは、やたらと多い数字の0と、トウセンキンの6文字。振り込まれてる額は、3億。
――鼻からアイスティが出かけた。体が震えてきた。や、やばいぞこれは。
「アヤトさん、顔色が優れないようですが……」
「あ、ああ、大丈夫です。それより、そろそろ帰りましょうか。店もまた混み始めるので」
レルアさんも丁度食べ終わったらしい。少しゆっくりさせてあげたい気持ちもあるが、なんかこう、いざ知ってしまうと不安と恐怖がある。
……待てよ。レルアさんの服だけは買っておきたいと思ってたんだ。最低2日分。
まさかこのままコラボシャツ着せて生活させるわけにはいくまい。ネットで買うのも考えたが、届くまでに時間かかるだろうし、第一合うサイズが分からん。すぐ近くに某ファッションチェーンもあるし、寄ってく以外の選択肢はあるまいて。
「帰る前に、ちょっと服屋に寄りましょう。あのローブだけだと色々不便だと思うんで」
変に挙動不審になってるような自覚がありながらも、何とか服屋へ。こんな状態でレディース売り場行ったらいよいよ変質者扱いだぜ。だがレルアさん1人で行かせるのも……なんか違うし、心配っていうか。
「こっちです。多分」
周りからジロジロ見られてる気がする。まあマジで不釣り合い感が半端ないっつーか。オーラが違う。レルアさんには、ただそこにいるだけで人の目を惹き付ける何かがある。例え着てるのがゲームのコラボTでもな。
つーか今思ったがこの構図、完全にカップルだしデートじゃねえか。洒落っ気の欠片もない中学生みたいな内容だが、それでも意識し始めると止まらないもんで。ボサボサの髪くらい何とかしてくりゃ良かった。
「えぇっと、この辺ですね」
大手なだけあって無限に服がある。メンズならまだしも、レディースはなんも分からん。テキトーにマネキンが着てるのを選んでもらって(本人もサイズは分からなかったらしい)、そのまま試着室へ。
で、数分後。
「ど、どうでしょうか……?」
どうってもう。最高ですよ。
「似合ってますよ。サイズもいい感じだし」
全部着てもらったが、どれ着ても似合うから困る。俺にファッションセンス的な何かがあるとも思えないが、これに関してはモデルが強すぎる。
レルアさんもレルアさんで、いまいちどれがいいとか分からないみたいだ。じゃあ全部買いましょう。OK。高級ブランドでもないし、例えそうだとしても今の俺はちょっと……いやかなり金持ちだ。
「その……」
おっと待った。会計はまだ早い。ブラウスだのスカートだのより大事なものを忘れてるぜ。下着だ。これは絶対に買っておかねばならない。
とは言っても下着売場は流石に恥ずかしいので、これは一人で選んでもらうことに決定。購入予定の服をカゴに入れて持ち、レルアさんを見送る。
そうだ、靴も必要だな。今日は俺が持ってた運動靴を履いてもらってるが、サイズが合ってるとは思えない。
選んだ服にはサンダルが合いそうだが、汎用性が高いのは靴か……いやまあこれも両方買えばいいな。ちょっと歩けば靴屋もあったはずだ。
となると鞄とかも欲しくなってくる。まあ今日はいいか。明日は大学に行ってみる予定だし、そのとき見よう。
思考がナチュラルに貢ぎまくり君になってるわけだが、そうすることに嬉しさを感じてるんだよな。初めての経験だ。
忘れてるが何か恩でもあるのか。頭頂部からつま先まで全てが好みではあるし、単純にそれだけか。
「も、戻りました」
……よくよく考えたら、これから使ってく予定の下着を俺が見るのってヤバくないか?
だが会計のときに否が応でも目に入る……仕方ない、これはレルアさん自身に払ってもらうか。
「あー、えっと、じゃあその、下着はそっちで買っちゃってもらえますか。俺が見るのもまずいと思うんで」
「アヤトさんなら……いえ、そうではなく。服も私が支払います。私が身につけるものですので」
「いやあそこは割り勘です割り勘。ハハハ」
テキトーなことを言いながらスマートに会計を済ませる。暗証番号求められてちょっと焦ったのは内緒だ。覚えてて良かった。
「それとすみませんレルアさん、もう少し歩けますか」
あと靴屋だけ。もう日が傾き始めてるな。晩飯は出前にしよう。まだ腹は減っちゃいないが、今晩は豪勢に寿司とか食いたい気分だ。




