237 使い魔
「うーん、治らないな」
マコトは黒焦げのシエルに治癒やら解呪やらを試していたが、一向に治る気配はなかった。
「……――創造・治癒」
今度はエリッツの方に術をかけ始めたが、こちらも上手くいかない。ただの治癒で何とかなるわけないだろ。
「はあ、やっぱりか。仕方ない。一度殺そう」
え?
「――創造・聖焔」
シエルとエリッツに火が放たれた……突然すぎて理解するのに時間がかかった。マジで?
二人が完全に消えてなくなる間に、マコトは奥の端末でマナポーションを購入、数本一気飲みした。
「よし――疑似蘇生」
ああ、そういうことか。中々ぶっ飛んでやがる。……俺が言うのも変な話か。
「次はエリッツさん――疑似蘇生」
今度は汗ひとつかかずに両方の蘇生をやってのけた。だがいかに勇者といえどもポーションがぶ飲みはしてられないだろうし、今後しばらくは攻略速度も落ちる……よな?
「はっ! あ、あれ、マコト? ボク何してたんだっけ……?」
「敵の攻撃に巻き込まれて気絶してたんだよ、もう全部終わったから大丈夫。エリッツさんの怪我も治したし、もうすぐ復活するはずだ」
自分で殺しといてよく言う。嘘つきの大会があれば上位が狙えるぜ。
それはそうと、俺の方でも何かできないもんか。このままここにいても多分あんまり意味がない。モニタは持ち運べるしな。
シルヴァのとこにでも顔出してみるか。一応俺もアルデムの魔術講座は皆勤賞、雑用係くらいにはなれる。と思う。
正直、何かしてないと落ち着かないんだよな。ただ座って見てられる状況じゃない。
一応邪竜剣は持っていこう。紅蓮刀の方も持っていっとくか。何が起こるか分からないし、武器は多いほどいい。
「よう、シルヴァ」
部屋の中は謎の薬品の匂いがした。今までに嗅いだことのないやつだ。……マスクとかしなくても大丈夫だよな?
「マスター! 少し待っててください、今――」
「ああいや、作業は続けてくれていい。何か手伝えることはないかと思ってな。ないならないで構わないんだが」
「手伝ってくださるんですか? ありがたい限りです!」
おお、どうやら仕事がありそうだぞ。
「ラティス先輩から状況は聞いています。一刻も早くこれを完成させなきゃと思っていて」
大仰な魔道具の中心に据えられていたのは、一枚のメダル。ちょうど500円玉くらいの大きさで、銀色に煌めいている。どこかで似たのを見たような。どこだったかな。
「よい、しょ!」
シルヴァが運んできたのは、同じように銀色に光る球体。サイズはボウリング球くらいか。
魔道具に隣接した台座に下ろされると、電源が入ったような――正確には違うんだろうが――感じで、少し浮いた。
「マスター、魔力操作は得意ですか?」
「まあ、そこそこだ」
「なら大丈夫だと思います。素因に対してするのとは少し勝手が違うんですが、この波が線に重なって安定するまで魔力を流してみてください!」
言われるまま、試しに魔力を流してみる。……中々難しいぞ。
「その調子です!」
本当にその調子なのか? 少し流す量を変えるだけでブレまくる。こういう繊細なのはラビが得意……
……だった。
まだ確定してるわけじゃないが、''憤怒''のことを考えると多分消滅したんだろう。リフェアは知ってるんだろうか。なんて伝えればいいんだよ。
「マ、マスター!」
「うお、悪い」
ちょっと流す量が多すぎた。集中しないとダメなやつだこれ。
ただコツは掴めてきてる。合わせるべき線は動かないからな。重ねるだけなら数分もあれば足りるだろうし、安定させるのはそこからゆっくりやればいい。
「いい感じですよ! 僕は向こうで別の作業を進めておくので、何かあれば呼んでください!」
「ああ」
シルヴァは巨大なモニタに向き直ると、難しい顔で大量に表示されたグラフを眺める。手元のレバーで何かを調整してるらしい。俺がやってるのとも関係してるのかね。
っとと、こっちはこっちで集中しないとな。……だが、これだけやるってのも暇だ。
そうだ、あいつらの様子を確認しとくか。大体予想は付くが、詳細な進み具合を知っておいても損はないはずだ。
「いっくよ!」
「まーくん、そっち!」
「――創造・水雷刃!」
地下96階。一行はボス級魔物をバシバシなぎ倒してるときた。
……まあ、想定通りではある。むしろ、魔物の配置変更権まで奪われなかっただけマシな方だ。新規配置はできないが、これなら魔力も時間も使わせられる。誤差みたいなもんでも案外そういうのが後々響いてきたりするもんだぜ。そうだろ。
つーか、凶悪罠が全部撤去されてるのは非常に残念だ。もう容赦なしの全力殺意を込めてあったんだが。
「あれ……結界が破られたみたいだ。いや、違うか。これは……」
なんだって? ここにきて敵が増えるってのか?
つーかもしかしなくても、その辺のアナウンス全部向こうに届くようになってるだろ。超困る。
「随分な変わり様だね」
「ええ、結界はあんなに複雑でしたのに」
「グァハハハハ! いつだかの借りを返しにきたぞ、マスターとやら!」
イヴェルにセシリア、そしてロロトス!
「ただいま、マスター。遅くなってごめん」
(アイラ!)
……なんだか、上手く念話を送れてる感じがしない。遂にその辺もマコトに乗っ取られたか。
(聞こえるか、アイラ?)
(聞こ……る……ど…………傍受の……能性……)
ノイズが酷い。色々聞きたいこともあるんだが、それより、
(イヴェル、聞こえてたら返事してくれ。アイラから聞いてるかもしれないが――)
(……マスター。一時的に念話のパスを回復させた。ただ魔力消費が激しいから手短に)
アイラの声が脳内に響く。
(助かる、イヴェルたちに一つ了承してほしいことがあってな)
(もう聞いたさ。配下になれば死なないんだろう? ならば躊躇うことはない。頼んだぞ、マスター!)
(死せずして死を体験するなど、そうできることではない! むしろこの機会に感謝せねばなぁ?)
(まだ負けると決まったわけでもありませんわ。ですが念の為、お願いしますね)
(ああ、分かった。じゃあ――よろしく頼む)
やっぱりアイラが説明してくれてたか。まあとにかく、このタイミングの助っ人はかなり助かる。
この階層に合流できるのが一番だったが、転移門での移動もままならない中での話だ。贅沢は言ってられない。
それに、丁度あいつらと同じ階層――地下96階に出てる。生かさない理由がない。
『イヴェルが使い魔になりました。ロロトスが使い魔になりました』
『セシリアが使い魔になりました』
波が安定し次第レルアも呼びに行っておこう。シルヴァの秘密兵器が完成するまで、何とか持ちこたえる。




