229 勇者
「い、いや、待てよ誠」
「そうだよ! 腕と足って、酷すぎるよ!」
「はは、何言ってるの。敵に情けをかける必要なんてない。僕がやっておくから、二人は休んでてよ」
うげげ、何言ってるのはこっちの台詞だ。解析するだけなんじゃないのかよ。
「痛、あ! 痛いです……ぅ……」
「思ったより硬いな。龍牙、その剣貸してくれる?」
マジで切るつもりかよ。拷問か何か? そういうの禁止!
「い、嫌だ。どうしたんだ。普通じゃないぞ、誠!」
「僕は普通だよ。それより早く貸してよ……これじゃ、中々、切れない」
ぐっ、ぐっ、と足で刃を押し込もうとするマコトとエフィの悲鳴。ドン引きだよ。
(エフィ、自殺コマンドを使ってくれ)
(まだ、ですぅ……今、準備中ですぅ……)
準備? 準備なんて必要ないはずだ。押すだけ簡単2秒であの世……には行かないが。不具合か? 発動条件とかも特になかったはずだ。
だが何かやり取りしようにも、それっきりエフィからの返事は途切れた。
「ちょ、ちょっと。やめてよマコト! その子も多分天使だし、見てるボクらも心が痛いよ……そうだ、ルインちゃん! ルインちゃんも何とか――」
ここでシエルとリョーガが顔を見合わせる。少しの沈黙の後、再びシエルが口を開く。
「あの、さ。今一緒にいる子、本当はルインちゃんじゃないよね?」
「俺は前シエルから聞いてたけど、今確信した。なんかおかしいと思ってたんだよ。前にもシルキーさんを置いてくとか言ってたよな。その偽ルインに操られてるんじゃないのか?」
偽ルイン? じゃあやっぱり天使は一人だったってことか? でも勇者だよな? あれ?
「はあ。話が通じないな。シルキーを連れてきたのは単純に僕のミスだ。地下69階でも自分の身しか守らなかったの、二人も見てたよね。僕が術の能力を過信しすぎていた。やっぱり最初から殺しておくべきだったかな」
「っ、話が通じないのはお前の方だ、誠!」
「最後まで聞いてよ。ルインは確かに別人だけど、力を借りてるだけだ。何の役にも立たなかった前のルインよりよっぽどいい」
淡々と続けるマコト。えーと理解が追いつかないぜ。
「ルインちゃんはどこ!?」
「安心してよ、別に殺してはいない。僕は苦手だったけど、シエルが大事に思ってたみたいだし」
「偽ルインと契約して、何が目的なんだ」
「勿論魔王を殺すことだよ。それは君たちと同じだ。ただ――ここでルインが偽者だと気付かれるのは筋書きにない。少し予定を早めるかな」
マコトは、今度はその短剣を二人の方に向ける。何が何やらだが仲間割れってことなのか? ここまで来て?
「何のつもりだ」
「勇者は僕だけでいい。ようやく理解できたんだ。僕が主役になるためには、龍牙を殺さなくちゃならないってね」
「……笑えないぞ、誠」
「冗談を言ってるつもりはない。君を殺せば創造も手に入るし、正に一石二鳥だよね」
変わらない調子で続けるマコト。いやいや、冗談だろ? 第一戦ったら負けるだろ。
「シルキーさん達の話も、嘘か」
「そうだね。このまま帰すつもりもないし、創造が手に入れば用もない。龍牙を殺したあとに殺して行くよ」
「そんなの、許すと思ってんのか!」
「龍牙に許してもらおうとは思ってないよ。死人の赦しを得ても意味がないしね」
自分らの命の話してんのに黙って真顔で突っ立ってる辺り、まあ姉妹も何かの術にかかってるとかなんだろう。
「でもシエル、君だけは助けてあげてもいい。龍牙なんて捨てて僕のものになる気はないかな」
「ない! ボクはリョーガの天使だ」
「そうか。残念だよ」
マコトが懐から瓶を取り出し、地面に叩き付けて割った。液体の色を見るにマナポーションか。
「今のお前は悪だ、誠。俺は負けるわけにはいかない。勇者として!」
「勇者は僕だ。まあ、龍牙は勇敢に戦って死んだってことにしておいてあげるよ。道中でね」
「――創造・雷裂・連展複式!」
リョーガが手のひらを突き出し、唱える……が、何も起こらない。そもそも素因の震える感じがなかった。
「あはは、気付いてなかったのか。長々と話をした甲斐があったよ。龍牙の創造はもう半分以上僕のものだ!」
「何だと……!?」
「完成、ですぅ」
そこで突然黄金に発光し始めるエフィ。一行も驚いた感じだし、エフィ自身の術か。
「何をするつもりか知らないけど、邪魔だけはしないでよ。君を殺すと更に時間がかかる」
「リフィスト様ぁ!」
「耳障りな――創造・封言」
「ぬ、うおお!?」
同時に黄金に光り始めたのは隣のリフィスト。何なんだよお前ら。状況が状況じゃなけりゃ爆笑もんだぞ。
(マスターさん、今しかないみたい。貸しを返してもらうわ)
(何だよラビ? まさかお前も?)
(ええ。あの男は私の手で仕留めたいの)
(待てよ、お前は死んだら終わりなんだろ。この前の話は覚えてるよな?)
(それでも行かなきゃならないのよ。万が一のときは、リフェアをお願いね)
念話が切れる。万が一なんてそうそうないだろうし、不安に思う必要もない気はするんだが……少し嫌な予感がする。解呪してもらった左腕も痛いし。
「おお、エフィ! こんなになって――治癒」
「……下級か。それが分体か使い魔かは知らないけど、君のことは大体分かってる」
「は、分かったところでどうなる! エフィの受けた痛みを倍にして返してやるわ!」
「下級ごときが、僕に敵うとでも?」
詠唱もなしに、片手剣を作り出すマコト。リフィストも白く光る槍を作り出し、構える。
「――創造・加速」
「来るぞ!」
「見えとるわ!」
斬撃を屈んで躱し、飛び上がるようにしてマコトの腹部を貫いた――が、
「残念、それは幻影だ」
貫かれた場所を中心に歪んで消えた。本体はリフィストに背後に回って、剣を振り下す寸前。一番近いシエルが受けようと剣を伸ばすが、間に合わない。
「――土よ!」
――間一髪。地面の土が浮かび、小さな壁となって斬撃を阻んだ。
「ラビ! 助かったぞ!」
「ええ、間に合って良かったわ」
「こう次々入って来られると面倒だな。まあ、それは後回しでいいか」
剣を引き抜いて、土を払う。さっきまでと別人みたいだな。俺よりよっぽど剣の扱いが上手いように見える。
「ええと……二人は俺らの味方してくれるってことでいいんすよね?」
「少なくとも今は、そうであるな」
「共闘といきましょう、勇者さん」




