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【完結】転生ニートは迷宮王  作者: 三黒
第6章

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171 イデーロ

「えーと、エフィで良かったか? 戦うのは得意?」

「得意ですよぅ! エフィは見習い(エルデスタ)の中では一番の力持ちなんですぅ!」

 

 この細腕に細足だ。とてもそうは見えないが、これだけ自信たっぷりに言うならそうなんだろう。レルアもこんな感じの体型で訳分からんくらい強いし。

 

「……よし、じゃあ少し俺と力試しをしよう。腕相撲は知ってるか?」

「えと、知らないですぅ」

「まあルールは簡単だ、この机だと少し低いな……俺の部屋のやつにしよう」

 

 移動しがてらルールを説明する。と言っても肘を立てて手を握り合って、あとは互いに全力で倒し合うだけ。何も難しいことはない。

 

「よーしいくぜ。本気で来いよ!」

「本気! 本気でございますかぁ! それなら頑張っちゃいますよぅ!」

「カウント開始、3、2、1――」 

 

 0、と言った瞬間に轟音。俺の下半身は腕を軸にして宙に浮き、机は大破、そして激痛。


「っ! ……!?」

 

 あまりにも痛すぎる。痛すぎて声が出ねえ。右肩から先がすっ飛んだって言われても信じる。

 

「ひ――時遡(ヒール)!」

 

 恐らくただの骨折だ、治すのは難しくなかったが、マジで死ぬかと思った。アヤトと戦ってるときと違って心構えができてないんだ。

 

「ありゃりゃ、やりすぎちゃいましたぁ。ダメですよぅ、天使に軽々しく本気とか言っちゃぁ」


 これで見習いかよ。やべーよ。てか仮にも君の主の主だぞ俺は。いやそれに関しては不用意に本気出せっつった俺が悪いか……。

 

「ま、まあエフィの実力は分かった。んじゃ改めて聞くが、地下80階のボスをやってくれるか? 今みたいに全力でやってもいいし、テキトーにやられてもいい。探索者が来るまでは別に地下80階にいる必要もない。どうだ?」

「ええ勿論やりますやらせていただきますぅ! 本気、出してもいいんですよねぇ?」

「悪くはない……が……程々にしてくれると助かる」

 

 エフィは満面の笑みで、首を縦にブンブン振ってみせる。

 

「了解ですぅ! クビにならないように頑張りますぅ!」

「ああ、よろしく頼む」 

 

 謎の不安があるが、まあ大丈夫だろう。見習いとはいえ天使だし。そもそも地下80階まで一般探索者が来るのなんてまだ先の話だ。

 エフィはスキップしながら転移門(ゲート)を踏んで消えていった。急に静かになったな。

 さて……次は後回しにしてたシステム関連に手を付けていくか。待ちに待ったコマンドの実装だ。

 


 

 

 

 

 ――で、多分2週間くらい経った。今のところ特に何か異常が起こるってことはない。

 一応大罪の警戒はしてるが、もう不気味なくらい平和だ。エフィも問題とか起こしてないしな。最近はカインと模擬戦やったり、リフェアと遊んだりしてるらしい。

 

 むしろそうだな、俺の作業がなぜか進まなすぎるってのが問題だ。即死コマンドを作ろうとしたはいいものの、さっぱりやる気が出ない。

 即死コマンドってのは、文字通り使えば即死するコマンドだ。勿論自分に対してしか使えない。低階層でも、運が悪いと長い間苦しみ続けることになったりするからな。評判が悪い罠なんかも大量にあるが、そういうのを全部消しても面白くない。そこでこいつを考え付いたってわけだ。

 

 ちなみにこのコマンド、痛みもなく一瞬でリスポーンする代わりに、所持アイテムと所持エルの3割をロストする。最初はノーリスクで発動可能にしてたが、仮実装段階で悪用されたんだよな。例えば、長い毒霧の先の宝箱を簡単に開けられる、とか。

 

 そう、仮実装まではできたんだ。正直あと一歩だと思う。所持アイテムも所持エルも、システムで一括管理してるからそこの紐付けは問題ない。大掛かりってわけじゃないし、面倒でもないはずだ。

 絶対に必要な機能ではある。それは分かってる。それでもいざモニタに向かおうと思うと……なんだか無性にサボりたくなる。

 

「よう、お疲れさん!」 

「おーっす」

 

 コーラの差し入れに来たのはイデーロ。俺の作業が進まないときは、こうやって話を聞きに来てくれる。

 

「どうしたよ、あんま進んでないって顔だぜ」

「ああその通りだ。どうにも調子悪くてな」

 

 ここ数日はずっとこんな調子だ。迷宮造りに飽きたとは思いたくない……ってか、飽きるはずがない。

 

「気分転換に外の空気でも吸ってみるか? 南区に新しく入ったパン屋、結構美味いって評判だぜ」

「……そうだな、行くか!」  

「行こう行こう、今日は俺の奢りだ!」 

 

 久々の外出だ。前回は居住区の視察だったか。南区の飲食街はあまり来る機会がなかった。

 ルドゥード屋のおっさん用のスペースはずっと開けてある。病気でも怪我でも、早く良くなってくれるのを祈るばかりだ。専門店じゃないとこのルドゥードも一度食べたが、やっぱり味はかなり落ちた。

 

「おっと、結構並んでるか」

「大丈夫、実は俺ここの店主とも友達なんだ。裏から行って直接買ってくるぜ」

「マジか、顔が広いな」

 

 イデーロの顔の広さには驚かされる。前もどこだかの新商品を貰ってきたりした。スープカレーっぽい何かだったが、あれもなかなかに美味かったな。

 

「ほらよ、店一番人気を買ってきたぜ」 

「ありがとな、早速いただくとするか」

 

 渡された包みを開けると、甘い匂いが広がった。いただきます。

 一口目、しっとりした生地の中から、舌触り滑らかなクリームが溢れ出す。生クリームやカスタードとは少し違うな。あまりクドくなくていい感じだ。二口目、甘さの中にうっすらリンゴみたいな酸味を感じる。生地に細かくなった果物が練り込まれてるらしい。三口目、シナモンっぽい香りがする。さすが香辛料栽培が盛んなだけある。

 ……あっという間に一個食べ終わっちまった。もっと食べたい。

 

「なあ、もう一個買いに行かないか?」

「いいぜ、じゃあ次は二番人気にするか――」

 

 と、横の通りにアイラが見えた。どうせならあいつも誘うか。


「おーい――」  

「待て待て! サボりなんだし見つかるのはまずいだろ。アイラだって見回り中だし、邪魔するのもな」

「それも……そうか?」

 

 言われてみればそんな気もしてきた。皆に仕事振って俺だけサボってるってことだしな。

 

「……マスター?」

「やべ、おい逃げるぞ相棒!」 

「お、おう!」 

 

 ノリで逃げてきちまったが別に逃げることはないような。まあいいか。

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