16 vsシレンシア騎士団遊撃隊②
ゼーヴェ視点です。
「先輩、撤退しましょう……被害は甚大ですが、ここで全滅するよりはマシなはずです!」
木陰からフィルの声が聞こえる。次は奴を殺すか。アイウズとあの屑は最後でいい。
「お前は、隊長に解呪をかけた上で逃げきれるか?」
「でも……でも!」
「あのゴーストは途中でレイスに変化した。レイスはBランク相当の魔物だ。そのままじゃ確実に逃げられない」
だが、とアイウズは続ける。
「上手くいけばそこそこの時間拘束しておくことはできる。その隙に逃げることなら可能だろう」
確かに拘束されれば追うことはできない。拘束されるほど甘くはないが。
今後のことを考えても、ここで殺しておくに越したことはない。
「じゃあ、先輩。拘束は任せましたよ。――聖浄!」
既に聖浄は恐れるに足らない。片手で打ち消せる。
が、向こうもそれには気付いていたようだ。本命が飛んできた。
魔術では無効化されると踏んでか、勇敢にも片手剣での斬り込み。
「らあああああああっ!!」
「――聖盾」
不意を突かれはしたが、慌てず焦らず聖盾を合わせてやれば衝撃は受け流せる。
「ふっ」
愛剣で腰のあたりを斬りつける、が、あまり手応えがない。寸前で後ろに跳んだか。咄嗟にしては悪くない判断だ。日頃の訓練の賜物だな。
まあ、跳んだということはつまり――魔術の恰好の的ということだが。
「――闇鎖」
一本目、二本目は剣で払いのけられる。三本目は身体を捻って躱そうとした。甘いな。
「――追尾!?」
その通り。仮にも中級魔術、本数も少ない分追尾性能は一級品だ。
フィルは、身体にまとわりつく鎖を引き剥がそうと奮闘している。解呪なら一瞬だというのに。最期まで緊張感の足らない奴だ。お前は昔からそうだった。そういうところが命取りになると、何度も教えたはずだが。
「かかった! ――繋檻」
止めを刺そうとした瞬間、体が地面に縫い付けられるのを感じた。まさか、まさか。
……あれは演技、囮であったとでもいうのか。
「やりましたね先輩!」
成長を喜びたいところだが、今はただ面倒なだけだ。あと一歩のところで。
属性は込められていないし、すぐに解呪できそうなのが救いか。
「――解呪。よし、逃げましょう隊長!」
一時的に動きを止めただけで逃げられると思うとは、私も舐められたものだな。
「――解呪。氷塊よ、砕け、裂け、汝が内に彼の者らを封じ込めよ。――氷獄」
逃げる背中に大量の氷片が襲いかかる。例え略式だろうと、精霊と個別契約している私の魔術だ。無詠唱とは威力が段違いであるし、一般人ならこれだけで殺せるだろう。
「あ゛――」
「フィル! くそっ、隊長、足止めをお願いできますか!?」
「言われずとも。先に行け、すぐに追い付く」
「すみません、ご武運を!」
アイウズはフィルを抱えて走り去る。最悪の事態だ、追うにしても時間がかかる。
この場で治療させて大規模魔術で押し潰そうと思っていたが、奴らも馬鹿ではなかった。私は確かに強くなったが、奴らが弱くなったわけではない。
「さて、しばらく眠っていてもらうぞ」
「笑止。眠るのは貴様だ、それも永遠にな。――氷弾」
氷弾は躱される前提の攻撃。もとより魔術でどうこうなる相手だとは思っていない。
「死ね!」
「驕ったなレイス。死ぬのは貴様だ!」
斬り込みは流される。奴が風の属性付与をしているせいで鍔迫り合いにすらならない。
にしても、予想した程度であそこまで調子に乗るか。風で何か細工でもしていたか?
十中八九、加護系統だな。愛剣に薄く奴の魔力が張り付いている。解呪は効かないと見ていい。
「受け取れ」
愛剣を奴に向けて投げる。予想通り、剣は奴に当たる直前に進路を変え、地面に突き刺さった。
「武器を捨てたか。それはいささか驕りが過ぎるというもの」
「捨てたと思うか? ――具現化。属性付与、闇」
今しがた捨てたものと寸分違わぬ愛剣の柄が私の掌に収まる。
「チッ、風の精霊よ――」
「私を前にして詠唱か。それこそ正に驕りではないのか?」
懐に入り込み、奴の身体に愛剣を突き立てる。
「がっ……なんの、零距離で完全詠唱の魔術を撃つためなら悪くはない! ――風刃!!」
風の刃が私を襲う。が、四肢が吹き飛ぶほどの威力ではない。傷は深いがその程度。
「何故だ、私の、全力だぞ」
「よもや私がレイスであることを失念している訳ではあるまい。――頭を垂れよ、黒の王のお通りだ。氷より冷たく闇より暗く。久遠の虚無に囚われ給え。顕現せよ、虚無を支配せし黒の王」
これも略式だが、長く使ってきたこともあり威力は十分。上級精霊から力を借りる為、奴のボロボロの身体などそのまま闇に呑まれて消える。
我が一家を殺した奴には死すら生温い。消滅がお似合いだ。
「――――!! ――――――」
断末魔の叫びすら上げることも許されず、奴はゆっくりと闇に消えていった。
さて、逃げた二人をどうするか。




