1 ダンジョンツクール
ニートの日ということで書いてみました。
「オッケイ罠、ナイス壁ぇ!」
のこのこ罠部屋に入ってきた勇者は、せり出す岩壁に挟まって身動きが取れなくなる。そして数秒後にはゴーレムに潰されていた。
いやー、平日の昼間というだけあって、中々手ごわい相手だったな。が、力押しだけで突破できる迷宮なんて三流三流。俺の作る迷宮はそう簡単には突破できないのさ。
ん? 何故こんな平日の昼間に? 暗い自室に引きこもって? ダンジョンツクールなんて廃人御用達ゲーをやってるかって? ……ニートだからです。
だが俺には金がある。気まぐれに買った宝くじで三億当たるなんて信じられなかったが、そのお陰で何も気にせず悠々自適なニート生活を送れてるってわけ。
そして世間でクソゲーだなんだと騒がれたこのゲームは、時間がないとまともにプレイできない。つっても連携してる別ゲーからの探索者サイドは大量にいるんだ。公式以外の迷宮――ツクール産の迷宮はもう数える程しかないし、俺のは割と人気だったりする。ちなみに、サービス開始から今まで完全攻略者はいない。
さて、と。次の探索者が来るまでの間にトイレにでも行っとくか。
ペットボトルを使ったりするやつも多いらしいが、あんな不衛生なのは嫌だからな。俺は衛生面には気を使うヒキニートなんだ。
席を立ち、部屋の外に出る。
……そこには真っ白な空間が無限に広がっていた。
「ううん!?」
漂白剤でも使ったのかってレベルの白さ。神殿風の柱は何本も立ってるがそれだけ……。
何を言ってるか分からねーと思うが俺にも分からん。
ウチの廊下はフローリングだ。何がどうなったらこんな大理石みたいな床になる? いや、そもそも広さがおかしい。
とりあえず状況整理のために自室に戻ろう……として気付く。
「ドアがない」
そう、ドアがなかった。
たった今開けたはずのドアが。
ドアがあったはずの俺の背後には、同じような柱が続く――やはり神殿のような景色が広がるばかり。
「どういうこったよ……」
思わずへたり込むと、手をついた地面はひんやりと冷たかった。丁度大理石くらいの手触りか。
別に徹夜はしてないし、寝落ちで夢ってケースは無いだろう。仮に夢だとしても妙にリアルすぎる。
落ち着け、落ち着いて助けを呼ぼう。
「だ、誰か……いませんかー」
考えれば、こんな無限に広がるような空間に人がいるとも思えない。俺の声はだだっ広い空間に吸い込まれて消えた。
「くっそー、そろそろマッチング終わるころじゃないか?」
半ば現実逃避じみた独り言も寂しく響くだけ。夢なら早く覚めろ。
割と真面目に、早く戻ってダンジョンツクールの続きをしたい。折角レートが上り調子だったんだ――
「あ、いたいた! あんたがアヤトでしょ?」
「は?」
「え? アヤトじゃないの?」
「いや、一応アヤトですけど……」
急になんだこいつ。てかどっから湧いた?
いかにも俺は水嶋彩人、21歳独身彼女募集中だ。嫁は山ほど画面の中に。
それより、名を聞くときはまず自分からだろ。マッマに教わらなかったのか?
「あー、私の事なんてどうでもいいの。あんたが最後なんだから早く付いてきて!」
いやどうでもよくねーだろ。お前が良くても俺が良くない。
まぁ最悪どーでもいいとして、だ。
「それより部屋に帰してほしいんだけど……」
「はぁ?」
あんたバカァ? とでも言いそうな表情。
てかよく見たら白い羽生えてる。コスプレ? いやまさか人……じゃ、ない? のか?
だが可愛い。可愛いから全部許す! 可愛いは正義!
「何ニヤついてんの気持ち悪い。ったく、あんたは世界を救う自覚があるわけ?」
「いや、俺の夢はスーパーヒーローじゃない。ノーマルニートだ。そして夢は叶いました宝くじありがとう」
「その宝くじ? も、神があんたの寿命を削って当ててくれたのよ。きっと今までの生活は割かしラッキー続きだったんじゃないかしら? だからこれからはその神の為に尽くすの」
は?
「日本語でおーけー。あとマッチング終わってるの確定だから部屋に帰してくれない?」
「何言ってんの? あんたはもう二度とあの部屋に帰ることは無いんじゃないかしら」
冗談はやめてくれ。
それは死ぬ。パソもスマホもフィギュアも抱き枕も性癖全開の薄い本も、全部あの部屋に置いてあるんだぞ。
「そっか、じゃあ俺帰るわ。じゃあな!」
「あ、じゃあね……ってどこに行こうとしてんのよあんたは!」
自室ですけど。
「帰れないでしょ、ってあーこのままじゃ埒が明かない! ちょっと強引だけど我慢して!」
「いや何を――」
青い光と共に浮遊感に包まれる。気が付くと目の前にやけに神々しいおっさんがいた。
「よく来た勇者よ!」
「帰してください」