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オリジンワールド  作者: HIGEKI
脱獄
8/50

策士

 


 アマギ一行は薄暗く古びた通路を走っていた。

 皆緊張感を持っている中、ルークは相変わらず不満を顔に浮かべていた。


「帝国唯一の監獄なんだからもっと綺麗に作れないもんかね……」


「今回の任務文句ばっかいうわね。そんなんじゃ女の子に嫌われるわよ」


 ルークは注意ばかりするエイミーに顔をしかめた。

 彼女に反撃するためアマギに話を振る。


「そんなことないよね? アマギ」


「私は気にしない」


「だって」


 ルークはやってやったりと言いたげに、にやけた顔をエイミーに向ける。


「いや、私も女の子なんですけど!」


 エイミーはルークに少し涙を溜めながら主張する。

 ルークは彼女の様子に困惑した。いつも通りにちょっとした冗談のつもりでやったのに泣かれてしまうことになるとは予想していなかったのだ。

 

「ルーク流石にそれは幼馴染だからってひどいと思うよ?」


 エイミーを気遣ったジョセフは注意する。

 ルークはことの深刻さを再認識しエイミーに急いで弁明をした。


「エイミー悪かった。本気でいったわけじゃねぇよ。女の子だと思ってる。その……なんだ、お前かわいいしな」


 ルークは恥ずかしそうに頭を掻く。

 エイミーの顔が急に赤くなり、俯いてしまった。


「か、かわいい……? ま、まぁ今回は許しておくわ」


「よかったね、エイミー」


 ジョセフはエイミーに近づき小声囁く。

 顔を赤くするエイミーにジョセフは笑みを浮かべた。


「女ってわからねー」


 平和なやり取りをしているうちに前方から光が差し込んでくる。

 出口だ。


「もう着くわ。全員戦闘態勢に入って」


「「「了解!」」」


 アマギの指示にそれぞれ武器を構える。

 そして、外界へと足を踏み入れた。


「なんだよ、これ……」


 ルークは眼前の景色に絶句する。


 彼女たちの目の前には死体で溢れ無残に崩れ落ちたアルディエル牢獄があった。


「酷い……まるで戦争があったみたい」


「僕、戦争に参加してなければ今頃気絶してたよ」


 エイミーとジョセフは惨たらしい景色に顔をこわばらせる。

 戦争を経験した彼らがおののくほど状況は異常だった。


「暴動でも起きたのか?」


「ここの囚人はほとんどがギャレックの傘下に入っている。仮にその他の囚人が暴動を起こしたとしても直ぐに鎮圧されるだろう。私が知っている情報なら今の監獄を攻略出来る囚人はここには存在しない」


「なら誰がこんなことを……」


「少年ですよ。しかもたった一人でね」


 エイミーの疑問に答えるように見知らぬ声がした。


 全員がその声のした方向へ身体を向ける。


「初めまして。私は元アルディエル牢獄副監獄長『クレール=アルヴァ―ン』と申します。以後お見知りおきを……」


 そこには礼儀正しく礼をするメガネを掛けた男。クレールがいた。




 ◇




「貴殿が帝国のスパイ?」


「はい。貴女は師団長のヤガミアマギ殿とお見受けしました。この度は申し訳ございませんでした。私が案内をするはずでしたのに緊急事態でお迎えに上がることが出来ませんでした」


「貴殿以外はどうした?」


「私以外監獄関係者、囚人共に少年の手で文字通り皆殺しされました」


「み、皆殺しだと……?」


 ルークはクレールの発言に驚きの声を上げる。

 エイミーとジョセフに至っては声すら出すことが出来なかった。

 それに比べ、アマギはいつも通り表情を変えずに更にクレールに質問する。


「じゃあなぜ貴殿は生きている?」


「彼と密約を交わしたのですよ。彼はとても私に友好的に接してくれました」


「その内容は?」


「彼の提示したことは脱獄した後、帝国は刺客を送らないこと。そして脱獄の際に手助けすることです。こちらの提示した内容は監獄長ギャレックと『槍鬼』のロックの殺害です」


「なるほど。どのような手助けを?」


「恥ずかしながら実はほとんど手助けすることはなかったのですよ」


 クレールは困ったように笑うと言葉を続ける。


「唯一出来たことといえば……ギャレックに全ての囚人を動員するようにけしかけたことぐらいですかね」


「あんた正気でいってるのか? それは殺しにかかってるじゃないか!?」


 終始沈黙を保っていたルークは声を張り上げ怒鳴りつける。

 クレールはルークの怒声に焦りの表情を浮かべ両手を振りながら弁解した。


「勘違いをなさらないでください これは私が好んでやったわけではありません」


「えっ? どういうことだよ?」


「これを指示したのは少年自身なのです」


「え」


 ルークたちの顔は青ざめる。

 普通脱獄する人間からすれば協力者には有利になることしか頼まない。

 だが、少年はどうだろうか協力者に自身が不利になることを頼んだというのだ。

 世間一般的な常識を持つ人間では理解できないのは当然だろう。


 しかし、そんな中アマギだけはさも当たり前のように平然としていた。


「アマギお前おかしいと思わないのか!?」


「本人が皆殺し出来る自信があるからそう指示したんだろう。現に成功してるしな」


「だとしても皆殺しする必要あるのかよ!」


「頭を叩けば統率を失い脱獄する者が続出するだろう。監獄を囲む樹海もギャレックに従っていた囚人たちからすれば障害になりえない。考えてみろ。大罪を犯した囚人たちが野に放たれたらどうなる? 帝国は内部から荒れ崩壊していくだろう」


 激昂していたルークだったが、アマギに言い負かされ反論することなく、俯いた。

 

「いきなり怒鳴ってごめん」


「別に気にしてない。それで、少年はどこにいるの? 会せてもらいたいんだが?」


「それは出来ません」


「なぜ?」


「彼はここにはいません。もう出ていきました」


「すれ違いか。仕方ない。では後処理を一緒やってもらえないだろうか」


「もちろんです」


 アマギとクレールが牢獄の中へ向かおうする中ルークが意を決したようにクレールの元へ走り出す。


「あ、あのすみません。先程は怒鳴り散らして申し訳なかったです。私はヤガミ師団所属の大隊長、ルーク=シュバルツであります。ご質問よろしいでしょうか? 」


「先程は仕方がありません。私でも立場が逆であれば同じ反応してしていました。それで質問とは?」


「その少年の名前をご存知でしょうか」


「はい、本人から聞きましたからね」


「名前を教えていただけないでしょうか」


 考える素振りをみせ、横目でアマギを見るとクレールは口を開く。


「彼の名は、『ハルト』。姓は……」


 クレールはもう一度横目でアマギを見る。

 そして……


「不明です」


 クレールは笑顔でそういった。


読んでいただきありがとうございます!

次回は主人公は出てきます(予定では)

感想、評価、ブクマ、誤字脱字報告等よろしくお願いします!

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