来訪
一台の馬車が初夏の日差しに照らされながら人気のない草原を走っていた。
馬車は黒をベースとしたデザインに金の龍を象った装飾がなされており、荘厳さがひしひしと伝わってくる。
「はぁ……」
「ルークさっきから何回ため息ついてるのよ」
「仕方がないだろ? なんで馬なんだよ。地龍なら一時間でつくのに」
「国の行事で出かける時には馬を使うっていう決まりがあるんだから少しは我慢しなさいよ」
金髪の少女が眉間に皺を寄せ前の椅子に座る少年へと注意を促した。
彼女に注意された水色髪の少年、ルークは機嫌悪そうに目を細める。
「まあまあ、僕たち三人は初めて乗るんだからエイミーも許してあげなよ」
ル-クの隣に座るオレンジ色の髪のした少年はすかさずフォローをいれた。
「ほんとジョセフはルークに甘いんだから。アマギはルークの態度どう思う?」
「さあな」
「そしてあんたも相変わらず不愛想ね……」
窓から外の景色は眺める赤髪の美少女は興味なさげに返答した。
彼女の様子にエイミーは苦笑いするが、少女は気にする素振りを見せず景色を眺めていた。
「お前には味方はいないようだな」
勝ち誇ったように笑うルークにエイミーは顔をしかめる周りを見回す。彼女は観念したのか両手を挙げた。
「はいはい分かりましたよ。私が悪かったです」
「分かったならよろしい」
「ふふふ」
「ジョセフどうした?」
ルークは、突然笑ったジョセフに少し驚いた表情をしながら尋ねた。
ジョセフは懐かしそうに天井をみる。
「いや、なんか出会った頃を思い出しちゃってさ。今はみんな忙しくて集まることが無くなっちゃったけど、あの頃はこんな感じだったよね」
「そうだな…… あの頃は楽しかったな。下っ端だったからきつかったけど」
「あの頃のルークは今以上に無鉄砲だったわよね。敵軍の指揮官を見つけた途端に私の制止も聞かず飛び出して行った時は焦ったわよ」
「その節は申し訳なかった。俺はあの時アマギに助けられなかったら死んでたよ。アマギありがとな」
「昔のことだ。気にするな」
各々思い出に浸り懐かしみ合う。
彼らは同じころに騎士となり戦場で出会った。
配属も同じで当時知り合いもいなかった彼らは共に行動するようになり、気づけば戦場でいくつもの武功を挙げ、いつしか勇名を轟かし出世していった。
ルークは大隊長に。
エイミー、 ジョセフは中隊長に就任した。
三人は邪龍を単体で討伐した功で師団長に就任していたアマギの下に配属されることになり今に至る。
だが、同じ配属とはいえ戦乱の真っ只中に友人として会う時間はなかった。
こうして全員が一緒に会話したのは半年ぶりとなる。
「じゃあそろそろ今回の任務の確認をしていいか?」
「大丈夫だ」
アマギの言葉にル-クは答えた。他の二人も頷いて了承する。
「今回はアルディエル牢獄の囚人と監獄の管理チェックを行うために視察をする。表向きにはな。本当の任務は囚人たちを傘下に収め、反逆を企てている『ギャレック=ヨースティン』の捕縛又は殺害。そして、今まさに傘下に取り込もうとしている少年の保護。この二つ。尚、少年の年齢は18歳。身長は約160cm。髪は黒髪。少年の保護は絶対。見つけ次第私に連絡しろ。以上だが質問は?」
アマギの問いかけにエイミーが手を挙げる。
「私からいい?」
「なんだ?」
「少年の情報は結構具体的だけど情報源はどこから?」
「牢獄に潜り込ませているスパイからの情報だ」
「なるほど。分かったわ。ありがとう」
アマギは三人顔を見回す。
「それ以外に質問はないか」
「アマギ様。只今アルディエルの樹海に到着しました」
外から馬車を操縦していた御者の声が聞こえてくる。
「分かった。出るぞ」
馬車から降りると、アマギたちの眼前には天を貫いたと錯覚していると錯覚してしまうほど伸びた木々がそびえたっていた。
「ほぉ……圧巻だな」
ルークが驚くのも仕方がない。
高さだけではなく、幹の太さも桁違いで二メートル以上はあった。ご神体として祀られていると言われても違和感がない。
帝国が建国されるより遥か昔から存在している樹海だけはある。
「苦労だった。少し時間はかかるが待っていろ」
「御意」
アマギは感謝の言葉と指示を伝えると、樹海の前で待っているはずの案内役を探す。
だが、周りを見回しても案内役は見当たらない。
「おかしい。ここで合流する手筈だったのだが……」
アマギが考え込むように指を唇に当てる。
少しのずれが作戦を狂わせ失敗へと繋がってしまうのだ。
彼が現れないのはなにか問題が生じたのか、それとも……
――突然遠くから爆発音が聞こえてきた。
「今から至急牢獄に向かう」
「待てアマギ! この樹海は生命を吸うんだろ? そんな所を強引に抜けるなんて無茶だ!」
「誰も普通に抜けようとはいってない。専用通路を通る。もう場所は把握している」
焦って声を荒げるルークをもろともせず、冷静にアマギは答える。
アマギは大きく息を吐くと部下の三人の方を向いた。
「今からアルディエル牢獄へと侵入する」
アマギは拳を左胸に当て誓う。
「反逆者に裁きを」
◇
ギャレックは一人獄長室の椅子に座り何かを待っていた。
「来たか」
ギャレックは自身に近づく”待ち人„の存在に気づいていた。
刹那、周りの世界が赤黒く変化していく。
同時に正面のドアが開き”待ち人„が姿を見せた。
「ようこそ私の部屋へ。歓迎するよ」
ギャレックは笑顔で”待ち人„を迎える。
「気持ち悪い笑い方だな。反吐が出る」
待ち人、”ヤガミハルト„が笑ってそこに立っていた。
読んでいただきありがとうございます! 今回は地の文が少ないのは心配だな......
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