移行
「基本的にはっていわれてこうなることを想像する人いますか? 普通」
落ち着いた遥人は怪訝な顔でエルフの受付嬢を見る。
「私も例外が本当に出るとは思いませんでしたよ」
遥人は「ならなんでさっき偉そうにいったんだ」と心の内で突っ込む。
彼女は優秀みたいだが、リアムに遥人の個人情報を話したりと杜撰なところがあるようだ。
「ちなみに例外って僕を含めて何人いるんですか?」
「ヴァローナだとあなただけですが、帝国を全体を合わせるとあなたを含め二人です」
「二人?」
遥人の予想を越える少なさに驚きを覚える。同時に少しだけ受付嬢に謝りたくなった。流石に前例が全ギルド合わせても一人しかいないのに目の前で二人目が現れるとは考えづらいだろう。
うん……? 待てよ。
遥人は引っかかりを覚えて眉に皺を寄せる。
「受付のお姉さん」
「なんですか?」
「もしかしってこうなる可能性もあるかもって思ってました?」
「えっ? なぜそう思われるんですか?」
「少しぐらい可能性があるかもと思っていないと、『本当に出るとはおもいませんでした』なんて言い方しませんよ」
遥人はドヤ顔で自分の推理を語りながら受付嬢に視線を向ける。
「まぁ、少しはあるかもしれないと思いますよ。二人が同じ姓なんですから」
「えっ?」
遥人は予想もしない返答にポカンと口を開けてしまう。こんなファンタジーの世界でヤガミという名字など存在するわけがないと考えていたからだ。現に、周辺に日本人の名字を持つ者はいない。
「ということは遥人以外のもう一人は”彼女„ですか?」
「はい」
リアムの質問に受付嬢は即答した。
「まさかとは思っていたがお前”あの人„弟か?」
オーフェンは疑いの目で遥人に詰め寄っめよってくる
「まず”彼女„とか”あの人„とか誰だよ」
戸惑う遥人にリアムが答えを告げる。
「冒険者から初めて騎士になった女性。東征軍師団長”ヤガミアマギ„だよ」
「……誰?」
一瞬、静寂がその場に訪れる。
「いやいや、ここまで来て誤魔化すのはやめようぜ。お前の名前を聞いたやつは言葉にはしてないが絶対関係性を疑ってるからな。そのぐらいヤガミアマギは有名だし、お前たちの名字は珍しいんだよ」
「同じ名字で冒険書を受け付けない体質。僕は髪の色や体格差から関係性がないと考えていたけど、ここまで揃ったら言い逃れ出来ないよ?」
オーフェンだけではなく、いつのまにかリアムまで疑いの目で遥人を見ていた。
「本当に知らないし、そもそも俺一人っ子だから」
遥人は必死に弁明するが二人は聞く耳を持たない。
実際に遥人には”ヤガミアマギ„という名前に心当たりがなかった。
異様な状況に一番困惑しているのは遥人自身だった。
―― ゴツン
「「イタッ!」」
リアムとオーフェンの頭にミアのげんこつが落ちる。
「せっかくパーティーがまとまってきたときに仲間を疑ってどうするの? 特にリアムくんはチームワークが大事っていってたじゃん」
ミアの説教で目が覚めたのか、二人は落ち着きを取り戻した。
「また決めつけちまったな。ごめんハルト。今後気をつけるよ」
「チームワークとかいってた僕が仲間を疑ってしまった。リーダーとしてあるまじきことだ。本当にごめん」
「いいよ。逆の立場だったら俺も疑っていたかもしれない。俺もまだ自分の能力をいってないから疑っちゃうよな。またみんなで集まれるタイミングでちゃんと説明するから」
ミアのお陰で和解した三人。受付嬢とこれからの手続きをどうするか話をしようとしたところにある男が近づいてくる。
「よぉ、お前ら。元気にしてるか? ちなみにおじさんは元気だ」
相変わらず半裸の大男。ローガンが話しかけてきた。
「少し二階に来てくれるか? ちょっときみたちに重要な話がある」
ローガンの顔は今まで一番深刻な顔をしていた。
◇
遥人たちはローガンに導かれ冒険者ギルドの二階にある会議室に入った。
部屋の中央に置かれた長方形の机にいくつか並べられた椅子に先客たちは座っていた。
奥にはローガンのパーティーメンバーのニールとヴィアナが座る。
ヴィアナは普通に座っているのに対してニールは退屈そうに指遊びをしていた。
机の両脇には二つのグループが座っていた。
遥人たちから見て手前に座っているのは中華風の服を身に纏った二人の辮髪男と、緑髪の青年だ。
「なんか、真ん中の緑髪の人見たことある気がするんだけど」
「あぁ、試験で一番最初にローガンさんと戦ったディラン=ダールトンさんだよ。影を操ってた人」
「あぁ、あの45点のBランカーか」
リアムに教えてもらい遥人はローガンに45点といわれた青年を思い出した。
「誰が45点だっ!」
ディランは遥人の声が聞こえていたのか怒声をあげて立ち上がる。
「ほぉ、お前らは確かキッドたちを見殺しにしたやつじゃないか。ローガンさん、なんでこんなやつらを連れてきたんですか? キッドたち以上に使い物になりませんよ」
ディランは遥人たちを小馬鹿にするような視線を送る。
「おじさんは、きみより強いと思うけどね」
「っち」
ローガンに睨まれディランは舌打ちをしながら音を立てて椅子に座った。
「なんであんなに偉そうなんだ?」
遥人は今度は小さなでリアムに聞く。
「あの人はヴァローナの領主の息子だからだよ。でも実力は確かだ」
「じゃあ、奥にいるメガネの人は誰なんだ?」
奥には全身を黒いスーツで包んだ眼鏡をかけた黒髪の男が一人長い前髪をいじりながら座っていた。
「あの人はハロルド・ヴァーン。一人で活動している人で、ニールくんとヴァローナのNO.2を争う実力者だよ」
「ふーん……」
「じゃあ、そこの空いてる椅子に座ってくれるかな」
ローガンが指さす場所はディランの隣の椅子だった。
四人は仕方なく座るとローガンは奥の中央にある椅子に座る。
「まだ来ていない者たちもいるが始めていきたいと思う」
ローガンは一呼吸入れて再び話し始める。
「率直にいう。我らで『ゴブリン討伐部隊』を結成しようと考えている」
ゴブリンとの戦いが次の段階へ移行しようとしていた。




