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オリジンワールド  作者: HIGEKI
ドール村
41/50

格差

 


「ぐはっっ」


 苦痛に悶える男の声が三日月の夜に響き渡る。


 オーフェンは目を開けると驚きで目を大きく開けた。


「お、お前は……」


 オーフェンの目の前には彼が”最も嫉妬した男„。()()()()が立っていた。


「ヤガミもう大丈夫なのか?」


「あぁ、見ての通りぴんぴんさ。だけど間に合ってよかった」


 遥人の前にはさっきオーフェンを斬り殺そうとしていたゾイが身体から血を流しながら倒れていた。彼の身体の切り傷は深く、濃い血が地面をどんどん浸食していく。


「くそっっ!」


 ゾイは遥人のネガシオンに魔力を吸われ、消えていた黒い魔力を再び纏うと立ち上がって距離を取る。

 遥人が与えた傷も少しずつ癒えていった。


「ルノクより治癒力は遅いな。あいつならもっと速く回復していたよ」


「私の前でそいつの名を出すなっっ!」


 ゾイは目を血ばらせながら遥人に斬りかかる。



 ―― 剣は弾かれ、ゾイの身体から血が噴き出す。


「実力もルノクに及ばずか」


 遥人は呟くとゾイ蹴り飛ばす。


 吹き飛んでいくゾイは焼け落ちた民家の骨組みを次々と破壊し、地面に力なく倒れた。

 ゾイは口から血を流しながら近づいてくる遥人の()を見て歯ぎしりを鳴らす。


「その目だ。いつもやつが私を見る目は……」


 重なって見えたのだ。やつ(ルノク)と。


 ゾイは立ち上がると剣の柄を強く握る。

 ()()()()()()()()()()()()()()


「うん……?」


 遥人は目の前で起きている事象に目を細めた。


「くらえっっ!」


 ゾイは大きく剣を振り黒いエネルギーを放った。


 禍々しい黒い衝撃波は遥人に容赦なく襲いかかる。


 遥人はいつも通り剣を振り黒い衝撃波を消滅させる。


「っ?」



 ―― ネガシオンで吸収出来ない。


 ネガシオンは魔力を吸収してその魔力を持ち主の魔力に変換したり、斬撃として放つ魔剣である。

 ゾイの魔力が黒いことから、彼が放った衝撃波は魔力だと遥人は考えていた。

 本来なら衝撃波とネガシオンが接触した時点で吸収されるはずである。


 しかし、衝撃波は一切吸収されることなく。()()()()()()

 ゾイの能力が”衝撃波„かも知れないが、ルノク、ゾイが持つ黒いエネルギーとの関連性があるように遥人は思えた。


「今の衝撃波はなんだ」


「教えるわけがないだろっ!」


 ゾイは問答無用といわんばかりに、次々と正体不明の黒い衝撃波を放つ。


「なら力づくで聞き出すだけだ」


 遥人は走り出す。

 向かい打つ黒い衝撃波を次々と消滅させていく。


「ぐほっ」


 いつのまにか間合いを詰められてしまったゾイは腹部を遥人に殴られる。


 遥人はゾイの首を掴み地面に叩きつけた。


「もう一度聞く。その黒い衝撃波はなんだ」


 遥人は静かにはっきりと質問する。


「人間。勝負はまだ着いていない」


「今の状況でよくいえるな」


「私をなめるなよ! 人間風情が!」


「なっ?」


 遥人に首を締められていたゾイが消えた。


「ヤガミ! 恐らくそいつの能力は”幻術„だ!」


「なるほど。ありがとなオーフェン」


 遥人は精神を研ぎ澄ます。やはり、ゾイの気配は感じられない。

 完全にゾイの幻術にかかっているようだ。


 遥人の周りに数十匹のゾイが現れる。


「この数の中から私を見つけるのは不可能だろう」


「どうかな」


「なに?」


 遥人の強気な言葉にゾイは声を少し震わせる。

 あるわけがない。ゾイは自分を落ち着かせる。

 向かっても、向かっても打ち破ってくる遥人に彼はどこか恐怖を抱えているのだ。


「くるなら一斉にこいよ」


「なめるなっ!」


 数十匹のゾイは遥人に一斉に斬りかかる。


 ―― 斬撃によって遥人の身体から血が(ほとばし)る。



 遥人は一匹のゾイを見ると剣を振り上げ、降ろす。


「ぐはっっ!」


 幻影たちは消え、ゾイは血を勢いよく飛び散らせ倒れる。


「さあ、答えてもらおうか」


 遥人はゾイの首に刃を向ける。


「まだだ!」


 ゾイは叫ぶと再び消えた。


「はぁー」


 遥人は深いため息をつくと剣を構える。


「見えない攻撃なら反撃出来まい!」


 遥人は目をつぶり集中する。少しの変化を逃さないために。


 背中を斬られ遥人は振り向き斬る。


 右肩を斬られれば右を斬り、左足を斬られれば左下を。


 血だらけのゾイが遂に姿を現す。よろよろと数歩歩くとそのまま倒れ込んでしまった。


「やりすぎたか」


「ヤガミ、大丈夫かよ」


 オーフェンは傷だらけの遥人の元へ駆け寄る。


「ああ、大丈夫だ。ほら」


 ゾイの幻術で受けた深い切り傷はいつのまにか塞がっていた。


「ごめん、今まで能力をいってなくて。これは俺の能力の一部分でしかない。詳しくはまたみんなが集まってから話すよ」


「わかった」


 ネガシオンを鞘にしまう。


「ところでみんなは?」


「それは……」


 オーフェンはあまりの悲惨さで口ごもってしまう。

 どう伝えればいいのか彼にはわからなかった。


「しねっっ!」


 遥人は後ろを振り返る。

 傷がまだ癒えていないゾイが剣を振り上げていた。


 ハルトは抜刀するとゾイの剣を弾く。返すようにネガシオンを振り下ろす。



 キーン


 ハルトのネガシオンを受け止められる。


「久しぶりだな」


「あぁ」


 互いは距離を取る。


「助太刀かルノク?」


 遥人の斬撃を防いだ深い藍色の髪を持つ青年、ルノクは相変わらずの無表情な顔をしていた。


「貴様はっ!」


 オーフェンは短刀を鞘から抜こうと鞘に手をかける。


「落ち着け。あまりいいたくないけど今のきみじゃ無理だ」


「くっ……」


 オーフェンは悔しいそうに鞘から手を放す。

 ゾイにも手足も出なかった事実がオーフェンの手を止めさせた。


「いや、戦いを終わらせにきた」


「なにをいう! お前も参戦した今こそ攻勢のチャンスをだろ」


「兄さん。これは王からの命令です。ここは引きましょう」


「くそっ……」


 ルノクはゾイを諫めると遥人たちに背を向けた。


「待てよ」


 遥人は撤退しようとするルノクたちを引き留めた。


「なんだ?」


 ルノクたちは振り返る。


「こっちが優勢の中見逃してやるんだ。一つぐらい質問に答えてもらってもいいよな」


「なにいってるんだ。答えるわけ……」


 遥人の提案を否定しようとしたゾイの口をルノクが塞ぐ。


「いいだろ」


「話がわかるやつでよかった。じゃあ、単刀直入で聞く。お前らが使う”黒いエネルギー„はなんだ?」


 ルノクは少し笑みを浮かべると口を開く。


「名を”パラネ„俺たちゴブリンを進化させた物質だ。そして、俺たちパラネを宿した存在を”パラネスト„という」


「どうやってパラネを手に入れた?」


 遥人は険しい表情で質問する。

 ローガンをはじめとする冒険者たちが語るゴブリンと、彼ら二人との格差がありすぎる。

 強大な力を与える”パネラ„をゴブリンの本来の実力と知能では手に入れることは難しいと遥人は考えていた。


「答えるのは一つだけだ」


 ルノクは再び背を向ける。


「ヤガミハルト。次こそお前を殺す」


 ルノクは遥人たちの前から一瞬で消えた。


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