復讐
オーフェンは思考が目の前の現実に追いつかない。
なぜ、さっき説教してくれたキッドが、憧れの先輩がなぜ机の上に置いてあるのかわからなかった。
さっきまで生きていたのに。なぜ……
オーフェンの思考にはひとつ疑問が生まれ止まっていた。時が止まったように。
しばらく立ち尽くしていたオーフェンはやっと思考が現実に追いつくと、一歩後ろに下がってしまう。
「え」
後ろに引いたことにより彼の視点が上に自然と上がりさらなる悲劇を目撃してしまう。
視線の先には、左胸から肩まで血を流し腹部を剣で刺され磔にされたヴィレッタがいた。
絶句。言葉を失った彼は力なくその場に座り込む。なにがあったのか理解が出来ない。
次々と見せられる悲劇で放心状態になったオーフェンに追い打ちを書けるように異臭が漂ってくる。
オーフェンは恐る恐る異臭の方へと顔を向けた。
「ううぇ」
狂気的な状態に彼は思わず吐き出してしまう。
綺麗に半分に裂かれたガジルが大きく目をあけながらV字で壁に張り付いていた。
「そんなに私の”作品を„見て喜んでくれるなんて。苦労して飾りつけた甲斐があったよ」
嗚咽が収まると声の主へとオーフェンは顔を向ける。
「そ、村長……?」
いつのまにかニコニコ笑みを浮かべる村長が机の上に座っていた。
おかしい。食堂にオーフェンが入ったときはいなかったはずだ。
いくら狂気的でショッキングな状況であっても、机の上に誰かが座っていたらオーフェンでも流石に気づく。
「なにか状況がよく理解出来ていないようだね」
パァン
村長は両手を叩く。
食堂は急に薄暗くなり、廃墟と化した。
―― ただの廃墟ではない。壁や床、天井に生々しい血がベッタリとついているのだ。
まさに”地獄„といってもおかしくない狂気的空間へと変貌してしまった。
「お、お前は……?」
オーフェンは村長から姿を変えたゾイに気づき短刀を抜く。
「私はゴブリン王の長子、ゾイ。ゴブリンだよ。オーフェンくん」
「どういうことだよ」
「まだわからないのか。なら教えてやろう。クエストを受注したときにはすでにこの村は私たちの手に落ちていたのだ」
「えっ……?」
「そう最初からクエストを受けた人間共を殺す算段だったのだ。お前らは騙されていたんだよ」
ゾイは歪んだ笑みを浮かべる。人間を見下すように。
「そうか」
オーフェンは下を向いた。
「お前がキッドさんたちをやったんだな?」
オーフェンは静かにしっかりとした口調で確認した。
ゾイは笑って答える。
「そう私が彼らを殺した。きみたちに喜んでもらうためにね」
魔力を纏ったオーフェンは短刀を逆手に持つとゾイに飛びかかる。
ゾイは剣を抜きオーフェンの斬撃を止める。
オーフェンは左足を振り開店すると、右足でゾイの首元を蹴りつける。
ゾイはオーフェンの動きをいち早く察知し右肘でガードすると剣を振り上げる。
オーフェンはすぐに態勢を戻すと後退し、ゾイの斬撃を避けた。
オーフェンは魔力を纏わせ短刀を投げつける。
ゾイは剣を振りはじく。
「がはっ!」
ゾイが短剣を弾いた瞬間に彼の腹部をオーフェンに蹴りつけられる。
吹き飛ばされたゾイは壁に激突し、壁にヒビが入った。オーフェンの蹴りがいかに威力があるかが垣間見える。
ゾイの隙をオーフェンは見過ごさない。壁に激突すると同時にで接近すると予備用の短剣を腰から取り出し魔力を纏わせて対角線に斬りつけ蹴り飛ばす。
壁は破壊されゾイは外へと投げだされる。
オーフェンはゾイの真上に瞬間移動すると短刀の刃を向ける。
重力で吸い込まれるように刃がゾイの胸に向かっていく。
「ぐっっ!」
ゾイは重力で増した貫通力を少しでも落とすため両腕をクロスし自分の心臓を守る。
「うおおおっっ!!!」
オーフェンは短刀を力の限り押し込む。そしてーー
―― 地面に土煙が広がった。
土煙の中から一つの影が飛び出してくる。
「ちっ」
オーフェンは舌打ちをした。彼は悔しそうに唇を噛む。
「これは……」
オーフェンは周辺の変わりように目を細めた。
土煙で全て把握出来ないが、見える民家は全て焼け落ちていた。残るの黒くなった一部の骨組みのみである。
「くそがぁっっ!」
怒声とともに土煙が周辺に散る。
中から怒りで眉間に皺を寄せ、黒い魔力を纏わせたゾイが立っていた。
「人間ごときがこの私にここまで傷を負わせるなんて。許さん……許さんぞ」
ゾイは両腕と胸、腹部から大量に血を流していた。
「俺たちを騙してキッドさんたちを殺した罪はもっと重いぞ」
オーフェンは低い声で傷だらけのゾイを睨みつける。
「本当はじりじりと痛めつけてやろうかと思っていたが、バラバラにして殺してやる」
ゾイの纏う魔力が大きくなる。腹部の対角線に斬られた傷と両腕と胸の傷から黒いエネルギーが湧き出し傷口を覆う。
黒いエネルギーは役目を終えるとゾイの身体に吸収された。
「これは、ヤガミのときと……」
似ている。オーフェンが見た遥人の異常な回復をしたときと同じだ。色と血ではないことから全く同じとはいえないが回復する過程が全く同じだった
「人間いくぞ」
ゾイは動き出す。
「なっ?」
オーフェンは驚きを隠せない。さっきまで目の前にいたゾイが消えたのだ。
「っっ!」
殺気を感じ、目を向ける。
―― 剣の刃が目の前まで迫っていた。
オーフェンは避けきれないと察し前を視ると瞬間移動し寸でのところで避ける。
「なるほど。それがお前の能力か。だから短刀を投げたときには一瞬で私の懐に入れたのか」
「気を抜きすぎだぜ」
オーフェンは瞬間移動でゾイの左側に移動し喉元を狙い斬りかかる。
「なっ!」
ゾイは簡単に剣で止めいなすと、返すよう剣を振り下ろす。
「くっ」
オーフェンはまた寸でのところで瞬間移動で避ける。
「くそっ……」
オーフェンは顔をあげる。
「またか!」
さっきいた場所にゾイの姿が見えない。
「後ろか!」
オーフェンは瞬間移動で前へ移動する。
「えっ?」
―― オーフェンの目の前に影が出来ていた。
オーフェンは右を視ると瞬間移動で避ける。
「読まれただと……? なぜだ。だが」
オーフェンは瞬間移動でゾイに一瞬で近づき左上を見るとゾイの右上に瞬間移動した。
「なにっ!?」
ゾイは待ち構えたかのようにオーフェンに向けて剣を振り下ろしていた。
「ぐはっ」
オーフェンは短刀で防ぐがゾイの剣圧に負け、短刀ごと吹き飛ばされてしまった。
吹き飛ばされたオーフェンは立ち上がり落としてしまった短刀を拾った。
「チェックメイトだ」
目の前にはすでに剣を振り下ろしているゾイがいた。
もう、瞬間移動でも間に合わない。
―― 焼き払われた夜のドール村に肉を切り裂く音が鳴り響いた。




