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オリジンワールド  作者: HIGEKI
ドール村
39/50

幻想

 


 ―― オーフェンが食堂に来る数時間前


 カレーを完食した三人は食堂で一つの議題で盛り上がっていた。


「俺は、オーフェンの”驚異的な治癒„ってやつを押すな」


「単純なやつだなガジルは。”身体強化„の上位互換みたいなやつだろ」


「いや、それはいくらなんでもチートすぎるわよ。私もガジルと同じ意見かな。まぁ、それでも十分チートだけどね」


 議題とは、”遥人の能力はなにか„だ。部屋に帰ってもやることがないため、始まった一種の暇つぶしである。


「じゃあ、ローガンさんとの戦いをどう説明するんだよ。魔力を纏った状態のローガンさんと生身で戦ってリードしてたらしいし、ローガンさんの代名詞のゴーレムを使ってやっと互角だったんだぞ」


「まあ、キッドのいうことは間違ってないが、俺たちはその場にいなかったからな……」


 ガジルがいうように彼らはローガンと遥人の戦いを観ていない。噂でしか二人の戦いの様子を知らないのだ。噂のほとんど事実が誇張されている場合が多い。噂話の信用性はどうしても欠けてしまう。


 三人は試験を受けていなかった。そのときはクエストのためヴァローナを出ていたのだ。

 今回の試験結果は個人の力で決まる。彼らは自分たちがまだBランカーの域に達していないのを理解していた。パーティーとしてなら他のBランカーのパーティーに遅れを取らない自信はあっても個人では到底及ばない。しかも試験監督はローガンだ。普通の試験監督以上に厳しい彼ではBランカーに昇格する可能性はゼロに等しい。


「はい。私やっぱり意見変えるわ」


 ヴィレッタは手をあげる。


「私はハルトくんの能力は実はなし。魔力も纏えない。でも、身体能力と回復力が異常な少年っていう説で」


「なんだそれ。めちゃくちゃじゃないか色んな意味で」


 キッドはヴィレッタの斜め上の発言に苦笑いを浮かべた。


「それぐらいの方が面白いじゃない。でも、私たちが見たハルトくんと噂話を照らし合わせると能力、魔力に関してはありえなくない話だと思うけどね。実際、彼は能力を公言してないし、魔力を纏う姿を見た人はいないから」


「じゃあ、全員の意見が揃ったところでハルトに聞いて間違えたやつ罰ゲームな」


「それ私負け確定じゃない! やっぱり、ガジルと同じ奴に戻すわ」


 キッドの急な罰ゲーム発言にヴィレッタは焦りながら意見の変更を宣言した。


「もう遅い。もう意見は変えられません」


「ずるいわよ! 罰ゲームがあるならあるっていってくれなきゃ。ガジルもそう思うでしょ?」


「いや、俺は最初からキッドが罰ゲームをいってくることはわかっていた。気づけなかったヴィレッタが悪い」


 ガジルはドヤ顔でヴィレッタを一蹴した。


「くうっっ いつも空気のくせに生意気な」


 ついにヴィレッタにもいじられガジルは肩を落とす。



 ―― 扉が開かれる。


「皆さん、お待たせいたしました。”メインディシュ„のお時間です」


 三人は扉の方を見ると、ニコニコ笑みを浮かべる村長がいた。


「メインディシュ? どこにあるんですか?」



 キッドのいう通り村長の周りにはカレーを乗せていた配膳台どころか、料理もない。


「ありますよ。()()()()()


 パァン


 村長が手を叩く。


 ―― 刹那、景色が変わる。


 部屋に灯っていた光は消え、薄暗くなった。

 薄汚れた壁に破れた窓ガラス。天井に開いた大きな穴からはいくつもの(つた)が絡み合い垂れ下がっていた。


 楽しく議論を交わしていた食堂は、寂しく不気味な廃墟へと変貌してしまった。


「クククッッ」


 不気味に()()()()()()()()()


「何者だ!?」 


 キッドは席を立つと腰につけた鞘から剣を抜き男に向ける。


 黒髪に白の軍服を着た男は口を開いた。


「私はゴブリン王の長子。ゾイだ」


 尖った耳をもつ男は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「ゴブリン王だと? 向こうのトップは王様か」


 キッドは冷や汗をかく。五年も冒険者をやっていれば少しぐらい相対する相手の実力がわかる。目の前の男は()()()()()()()()()()()。正解な実力はわからないが、Bランカー以上の実力はありそうだ。

 そんな敵のトップはさらに強いだろう。キッドが考えていたよりゴブリン問題は深刻なものかもしれない。


「そうだ。偉大な王の長子。それが私、ゾイだ」


「やつがヴァローナを襲ったゴブリン?」


「いや、違う。襲撃したやつは”ルノク„。別人だ」


 風で弓と矢を作りゾイに向けたヴィレッタの質問にキッドが答える。


「ルノク? あいつそう名乗ったのか。やはりあいつは信用ならんな」


 ゾイは、不機嫌そうに眉を顰める。


「ふん、仲間を信用出来ないんじゃ俺たちに勝てないぞ」


 キッドはゾイを煽る。相手を怒られせ動きを単調にさせるために。


「あいつは仲間ではない。しかも()()()()()()()()()()()()()()。紛い者は信用出来ん」


 キッドは魔力を纏う。


「二人とも最初から全力でいくぞ。こいつは強い」


 キッドの指示でヴィレッタと気づいたら身体を硬化させていたガジルは魔力を纏った。 



 ―― ゾイは不気味に笑みを浮かべる。



「なっ……!」


 三人の身体に急激な重さが襲った。

 重力が数倍になったかのような重みにその場で耐えることしか出来ない。


 剣を握るキッドの手は震え、顔を歪ませる。


「クククッッ愚かな人間共だ。勝負を焦ったな」


「なにをした……?」


 キッドは苦しさで歪めた顔でゾイを睨みつけた。


「きみたちが食べたカレーにちょっと薬を入れただけだ。魔力を纏うことをトリガーとして身体に負荷がかかるようにする薬をね」


 ゾイは口角を悪魔のように上げる。 


「いくぞ」


 ゾイは地面を蹴る。


 ゾイは身体を震わせるヴィレッタの目の前に現れる。

 彼女の腰に差した短刀を奪い胸に刃を向けた。

 短刀は吸い込まれるようにヴィレッタの心臓を貫く。


「グボッ」


 ヴィレッタは惨い音を立てながら吐血する。

 ゾイは容赦なく短刀を強引に振り上げ、彼女の胸と肩を切り裂く。

 ゾイは血で汚れた短刀を汚物のように床へ捨てた。


「貴様っ!」


 となりでヴィレッタが絶命するのを見たガジルは怒声をあげながら拳を振るう。


「遅い遅い」


 勢いがない拳は届くことなくガジルはゾイに蹴り飛ばされる。

 壁に激突したガジルの前までいくと剣を抜き斬りつける。


 ガジルの頭から一直線に引かれた剣筋が見える。

 剣筋を沿うようにガジルの半身は崩れ落ちる。


「くそおおおおっっ!!!!!」


 仲間を目の前で惨殺されていくことを黙って見ることしか出来なかったキッドは叫び声を上げる。

 自分の無力さを呪うように。残酷な現実を嘆くように。


 ゾイはキッドの首を締め上げる。


「いいねいいね。その顔が見たかったんだよ。悲しみ、怒り、恨みで苦しむその顔をね」


 ゾイの掴む力がどんどん強くなっていくにつれキッドの顔は歪んでいく。


「素晴らしい顔だ。この顔を彼らに見せてあげよう」


 ゾイはさらに強く締め、手を放す。


 ―― 刹那、斬撃がキッドの首を襲う。


 当たりが血に染まる。何かが落ちる音と共に。


「素晴らしい作品が出来た。さてさてどうやって飾りつけようか」


 狂鬼(ゾイ)は地面に落ちた”作品„を拾うと顔を歪めた。


 

サイコパスキャラ爆誕

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