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オリジンワールド  作者: HIGEKI
ドール村
38/50

泡沫

 


 キッドはオーフェンにお灸を据え彼の部屋を出ると自分の部屋へ戻るために廊下を歩いていた。


 ここからオーフェンが変わっていくのかキッド自身もわからない。変わるきっかけは与えた。ここから変わるか変わらないかはオーフェン次第。ここからキッドが出来ることはない。ただ変わってくれることを願うばかりだ。


 これで今日の日記を締めることが出来る。また記録更新だ。


「キッド殿」


 後ろから呼ばれたキッドは振り向く。

 そこには村長がいた。


「どうしました?」


「夕飯の準備が出来たので三階の食堂まで来てください」


「ありがとうございます。それではみんなにも伝えてきます」


「いや、結構です」


「なぜですか」


「ほとんど方にはお声がけして後はオーフェン殿だけなので」


「わかりました。ではお願いします」


 村長は「それでは」とお辞儀をするとキッドの横を通り抜けていった。


「すいません、村長」


 キッドはオーフェンの部屋へ向かう村長を呼び止める。


「どうかしましたか」


「もし、オーフェンが食事にいけないようだったら彼をそっとしておいてやってくれませんか」


「わかりました。そのようにしましょう」


「ありがとうございます」


 村長は再びお辞儀をするとオーフェンの部屋へ向かっていった。


「俺も向かうとするか」


 キッドも廊下の先にある階段に向けて歩いていく。

 階段を登ると右手の扉の「食堂」と書かれたプレートがあった。


 キッド改めてこの家に違和感を覚えつつ、扉を開ける。

 彼の正面には長方形の机が置いてあり、見事に七人分の椅子が用意されていた。

 村長のお・も・て・な・し おもてなしには驚くばかりである。


「お、キッド。随分オーフェンを絞ったみたいだね」


 キッドより早くついていたヴィレッタがにやにやしながらこちらを見てきた。

 ちなみにガジルも座っている。


「聞こえてたのか。まぁ、ぼちぼちな。どこまで響いたかわからないけど」


 キッドは扉を閉めガジルの前の椅子に座った。

 決してかわいそうだからとかじゃない。 


「散々自分勝手にやってたからね。この前のゴブリン襲撃だって冒険者っていういつ死んでもおかしくない職業柄とゴブリンの想像を越えた進化があったからオーフェンに責任問題は来なかったけど、騎士だったら大変なことになってたわよ」


「その事実に今気づいたんだ。これから大変な道のりになるなあいつも」


「でも、今の段階で気づけてよかったじゃない。キッドがいわなかったらパーティー自体どうなってたか」


「ハルトは別にしろリアムとミアは冒険者になる前からの付き合いだし仲間意識が強い。オーフェンの自己中心的な行動に巻き込まれて三人死んじまうなんてこともあったかもな」


「少なくともあんたが説教したことで少しは反省したでしょう」


「だといいんだがな」


 キッドは頬杖をつく。彼の顔は時間が経つにつれ暗くなっていく。少しやりすぎたかもしれない。もっと正しい導き方があったかもしれないと不安な気持ちが積み重なっていく。昔の自分が自己中心的人間っだからこそより彼を不安にさせていく。自己中心的人間は特に他人否定されると弱い。誰かに認めてもらいたい自己承認欲求が人より強いからだ。


 キッドはわかっていた。最初は優しく(さと)すつもりで彼の部屋に入ったのだが、彼の行き過ぎた嫉妬心から出来た妄想につい感情的になってしまった。この家の違和感なぞもはやどうでもよくなるほどキッドは落ち込んでいた。


「大丈夫かい?」


 明らかに落ち込んでいくキッドにヴィレッタは心配そうに駆け寄ってきた。


「大丈夫。といいたいところだが段々不安になってきている」


「キッドはやれることはやったよ。あとはあの子次第だよ」


「言いたいことを言ったらそのままぽいっでいいのか。無責任じゃないのか」


 パチン


 乾いた音が食堂が響き渡る。

 キッドの左頬がほんのり赤く染まっていた。


「男のくせにくよくよすんじゃないよ! 終わったこと嘆くだったら今できることを考えて行動しなさい! あと、オーフェンも冒険者だ。もう子供じゃない。自分の尻は自分で拭けなきゃッこの世界で生きていけない。今私たちが出来ることはあの子を信じることだ。これ以上は変に手を出さずに見守る。それも”先輩„の役目でしょ」


 ヴィレッタの怒声でその場が静かになる。


「っっははははは」


 キッドはいきなり笑い出す。


「そうだよな。それも”先輩„としての役目だよな。オーフェンと昔の自分を重ねて感情的になって見えなくなってた。ヴィレッタありがとな」


 そこにいたのはいつもの明るいキッドだった。


「ふん、世話がかかるリーダーだね。全く」


「これでまた次にいけるなキッド」


「ああ! これからもよろしくな。というかガジル。久しぶりに話したなお前」


 元気なリーダーキッドと、姉貴肌のヴィレッタ。そしてやっと話したガジル。

 再び足並みが揃った彼らのパーティーは復活した。


「そういえば、後輩たちはどうした? あとハルトはちゃんと連れてこれたのか?」


 復活したキッドから一気に疑問が溢れ出てきた。


「俺たちがきたときは他に誰もいなかった。ハルトについては知らない」


 やっと話し始めたガジルがキッドの全ての疑問を答えてくれた。


「ハルトについてはリアムが部屋に運んだって村長さんがいってたわ」


 やはり、話しなれないガジルでは疑問をちゃんと答えられないらしい。

 ガジルの足りない情報をヴィレッタが補ってくれた。



 ―― 扉が開く。 


「皆さんお待たせいたしました。私自家製のカレーでございます。どうぞご賞味ください」


 村長が配膳台を押して食堂に入ってきた。配膳台のうえには湯気を立てた美味しそうなカレーが()()置かれていた。


「村長。カレーが足りませんが……」


 キッドは人数分ないカレーに当たり前のように指摘をする。


「それぞれ事情があって今食べることが出来ないようなので今いらしゃるお三方の分しかお持ちしませんでした」


「事情? ハルトとオーフェンはわかるがあとの二人は?」


「リアム殿はハルト殿を連れてきたことを私に伝えたあと修業にいかれました。その際”自分は遅くなっるので他のが人が集まったら自分のことを気にせず食事を出してくれ。„といわれました。ミア殿は部屋まで行ってノックをしたのですが反応がなかったのでマスターキーで入りましたら、ぐっすり寝ておられたので起こすのが忍びなく起こしませんでした」


「そうですか。ミアはともかく、リアムは俺に伝えず勝手に行動するなんて許せんな。帰ってきたら説教だ」


「今度はちゃんと説教出来るといいわね」


「くぅっっ」


 キッドはヴィレッタに何もいえず、唸るしかなかった。


「でも、私も部屋で寝てないで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「終わったこと嘆くだったら今できることを考えて行動しなさい」


 キッドは裏返った声でヴィレッタの真似をしながら煽り返す。


「くぅっっムカつく」


「そういうことなので皆さん、私の自家製カレーをお食べください」


 村長は笑顔で三人の前にカレーと銀製のスプーンをそれぞれ置いた。


「今やることは食べることだ。その先は食べてから考えればいいんだ」


「おっ、たまにはガジルもいいこというじゃないか。じゃあ、食べようぜ」


「そうね」


 三人は手を合わせる。


「「「いただきます」」」


 三人は一斉に挨拶を述べるとカレーに口をつけた。





 ◇




 オーフェンはベットの上で一人考えていた。

 キッドに怒鳴られた直後はなにもかも考えられないほどオーフェンは放心状態だった。

 村長がなにかいわれたが内容を理解しようという考えすら抱かず「僕は寝ます」というだけの人形と化していた。 


 時間がどれくらい経ったかオーフェンにはわからなかったが思考が戻り不思議な感覚に陥った。たしかに傷ついていたが、今まで自分の中にあった()()()()()()()()()()()()()()()()


 恐らく彼自身どこか気づいていたのかもしれない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 自分だけの利益を優先させ、結果人を傷つけてもその事実を否定するためにわざと自己中な言動や行動をして自分自身に言い聞かせてきたかもしれない。

 そうやって現実逃避し、溜まった現実がモヤモヤとして自分の心を縛りつけていたのかも……いや、自分の心を縛りつけてきたのだ。


 オーフェンは少しずつ着実に自分と向き合い始める。

 なぜ自分が遥人にイラついていたのか? なぜ遥人に嫉妬していたのか? そもそも、なぜ自分だけの利益を優先させたのか?


 自分と向き合い始めてどれくらい経ったのかオーフェンはわからない。

 急にオーフェンはベットから降りるとドアを開ける。

 ドアを閉め、鍵を閉めた。


 ―― オーフェンは走り出す。


 まだ食事をしているかは彼にはわからない。

 ただ謝りたかった。ただ純粋に。

 もちろんそれで許されるとは思わない。

 でも今、彼が出来ること、始めていくことは謝ることだ。

 オーフェンは真っ直ぐ続く廊下を走る。食堂を目指して。

 階段に着く。振る腕をさらに懸命に振る。 

 階段を上ると右手の扉の「食堂」と書かれたプレートを見つける。


 オーフェンは改めて自分の気持ちを再確認しつつ、扉を開ける。





「えっ」


 彼の目の前には……”地獄„が広がっていた長方形の机には苦しそうな顔をしたキッドが置いてあった。


 

書いてる中で物凄く心が痛みました

ごめん。ありがとう。いいキャラクターだった。

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