真偽
ゴブリンを討伐した一行は夕日に照らされながらドール村に向かっていた。
そんな中歩きながらオーフェンは物思いにふけていた。
最近何かとイライラしていた彼からしたら珍しい。
オーフェンはキッドに担がれている遥人に目を向ける。未だに彼には遥人の行動が理解出来なかった。彼なら自分の身を《てい》してまで他人を助けることはしない。自分を嫌っている人間ならなおさらだ。
嫌われている人間とわかりあう? それになんの意味があるのか。そんな時間があるならどんな低ランクのクエストを受けた方がましだ。
それでも遥人にとっては自分と関わる”理由„があったのだろうか。オーフェンは自分と関わってハルトが得をするのかを考える。普段深く考えることが少ないオーフェンは唸りながら普段動かさない頭を懸命に動かしていた。
時間は過ぎ村が見えてきた。
先頭を歩くキッドは突然足を止める。
後ろに続く全員も足を止めた。
「もうすぐ村につく。だがまだ気を緩めるなよ。クエストの移動ほどなにが起きるかわからない。特にリアムたち三人は注意しろよ」
キッドの注意喚起にリアムたちは三人は返事をする。
だが、三人の返事はゴブリンと戦う前と比べると力ない。
キッドは少し眉をひそめたがそれ以上何も言わず再び歩き始めた。
他の4人も歩き出すが、オーフェンは遥人のことを考えるあまり一瞬歩き出すのが遅れてしまった。
オーフェンの両端にいたリアムとミアの姿がオーフェンの目に入る。
「あ」
頭に一筋の光が走る。光はオーフェンの脳内にある点と点を結び一つの結論に辿り着いた
「そうか」
オーフェンはどこか寂しそうに呟くと乾いた笑いを残し、歩き出した。
◇
キッドたちは村に着くと未だに意識を失っている遥人をヴァローナへ向かう馬車の中に寝かせると、前回同様村人の案内で村長のもとへ向かった。
「それでは、今回のゴブリン討伐の報告します」
来賓室に通されたキッドはソファーに座ると同時に報告を始める。
「どうぞお願いします」
「ゴブリンは西の森の洞窟を住み家にしており、情報通り五十匹のゴブリンを発見しました。一人負傷者を出しましたが全てのゴブリンを駆逐しました。洞窟や森の周辺にゴブリンの姿は確認されませんでした。もう村がゴブリンを襲うことはないでしょう」
「冒険者の皆様、本当にありがとうございました。これで我々村人も安心して生活出来ます」
「それはよかったです。では俺たちはこれで……」
「お待ちください」
退出しようとソファーから立ち上がるキッドたちを村長が呼び止める。
「どうかしましたか?」
「いえ、日も暮れますし今夜は私の家に泊まっていってください」
「いや、しかし……」
「遠慮なさらずに。私の家は一人暮らしにはもったいないほどの広さがあります。それに負傷された方がおられるのでしょ? 一夜休んだほうがよろしいのでは?」
村長の提案にキッドは困惑し、4人の顔を見る。
「いいじゃない、別に急ぐこともないんだし村長さんの言う通りハルトくんの体調をある程度戻してから帰ったほうがいいじゃない?」
「俺もヴィレッタも意見に賛成だ。ハルトが心配だ」
「三人はどうだ?」
「僕も賛成です」
「私も賛成です」
リアムとミアは即答するが、オーフェンだけは少し間を開けてから答えた。
「俺はどっちでもいいです。みんなに任せます」
「どっちでもいいって……ハルトくんが心配じゃないの?」
ミアはオーフェンの他人事のような発言に苦言をていした。しかし、いつもより彼女の声は小さく弱弱しい。
「自己中野郎のことなんてどうだっていいんだよ」
オーフェンは粗ぶった声でミアをにらむ。想像もしなかったオーフェンの反応にミアの表情は固まってしまった。
「えーっと、どうされますか……?」
村長は気まずい空気の中困った様子でキッドに話しかけた。
「そ、そうですね。ではお言葉に甘えて今夜は泊めさせていただきます」
「わかりました。お部屋の方にご案内いたします」
「じゃあ、僕はハルトを馬車から連れてきますね」
「ああ、頼むぞ」
リアムはキッドたちと一旦別れて村長の家を出た。
日が沈んだ村はヴァローナの夜より暗い。理由は街灯が一つもないからだ。
リアムが以前ドール村に立ち寄ったときには何本か街灯が設置されているはずだが……
「街灯がないのはわかってはいたけど、夜になると物凄く違和感を覚えるな」
リアムは右手に電撃を纏わせ辺りを照らしながら遥人のいる馬車へと向かう。
「寂しい村だな。外には誰一人もいないや」
深刻な高齢化が進んでいる上にゴブリンに襲われ犠牲者が出た村の現状にリアムは虚しさを覚えた。
だが、この悲惨な現実は他人事ではない。リアムは今日のクエストでも仲間を失うところだった。
パーティーのリーダーなのに戦場把握を怠り、オーフェンの頭上にいる敵を認識出来ずハルトを負傷させてしまった。奇跡的に助かったが普通なら死んでいただろう。
リアムは左手で頬を叩く。
「でも、いつまでもくよくよしてちゃだめだ。切り替え切り替え。後でキッドさんに相談しよう」
しばらく歩くとリアムは村の異常性に気づく。
村長の家からここまで歩いてきて村長の家以外の家には一軒も灯りがともっていないのだ。
リアムは嫌な予感がよぎり馬車が止めてある村の入り口へと走って向かう。
村の入り口に近づくと生臭いが漂ってきた。
「この匂いは……」
馬車に近づくと血だまりの中に御者とゴブリンが倒れていた。
リアムは右手の電撃を止め御者に近づき彼の手首に触れる。
「脈がない。死んでる」
御者の肩から腹部にかけて深い切り傷があった。倒れているゴブリンの持つ剣で切られたのだろう。
ゴブリンの死因を調べるため倒れているゴブリンに近づくと胸にナイフが刺さっていた。御者の遺体をもう一度調べてみると彼の腰にあるナイフシースにナイフがない。
状況から考えると突然現れたゴブリンに斬られ死ぬ間際に最後の力を振り絞り自分のナイフでゴブリンの胸を突き刺し道連れにしたということになる。
リアムはどこか違和感を覚えたが今はそれどころではない。ゴブリンが一匹だとは限らない。もし、ゴブリンが他にいるなら遥人に危険が迫っている。
リアムは静かに剣を抜くと息を殺し、素早く馬車の内部へ侵入した。
「なっ!?」
リアムが侵入した瞬間、暗闇から剣が襲いかかる。
突然の斬撃を咄嗟に剣で防ぐがその重い斬撃に耐え切れず外に飛ばされてしまう。
空中で態勢を立て直し、地面に着地する。
「何者だ」
リアムは剣を構え威嚇する。
「ヤガミハルトの仲間か」
「質問に答えろ」
雲に隠れた月が大地を照らす。
月光がリアムを襲った人物の正体をあらわにさせる。馬車の中には藍色の髪に長く尖った耳。全身白い服を着た青年が立っていた。
青年は馬車から冷たい目でリアムを見下ろす。
「俺はルノク。お前の敵だ」




