真意
三国連合の肝であった挟み撃ちは東征軍師団長ヤガミアマギの活躍により頓挫し、総司令ガイロンの指揮の元に行われた猛攻に耐え切れず三国連合は敗北した。
東国随一の城塞都市、エンディには戦功者が集まっていた。エンディはヴァローナと比べると二倍の面積を持ちそれを囲む広大な城壁によって囲まれている。
エンディの中心にあるエンディ城城内の大広間には二人の戦功者が跪いていた。
一人は今回一番の功績者といわれているヤガミアマギである。三国連合の三万もの大軍を一人で殲滅し、三国連合の大将軍、ロイド・ヘルシャードを討ち取った功績はあまりにも大きく人々に驚かれ、恐れられた。
アマギの隣で跪く茶色の髪の大柄な男はエンディ城主であり、東征軍総司令ガイロンである。その鍛えあげられた肉体は軍服の上でも想像出来た。
ここで誰もが疑問を持っただろう。なぜ城の主が大広間で城主が座るべき空席の椅子の前で跪いているのか。
答えは簡単だ。神聖ラシア二ア帝国三代目皇帝、ジルフォード・リ・ラシア二アが座るからである。
重音が大広間に響き渡る。
扉の開閉音とともに背後から足音が聞こえてくる
足音が通りすぎやがて止まる。
「面を上げよ」
重々しい声でガイロンたちは顔をあげる。
「なっ」
ガイロンは思わず声をだす。
目の前にいたのは白い服に金色の首飾りと銅色に輝く腕輪。皇族特有の青髪に目が細く威圧感がある男は椅子に置かれた水晶によって映し出された皇帝ジルフォードだった。
「どうしたガイロン?」
「いえ、失礼ながら魔道具を通して謁見するとは思わず驚いてしまいました」
「そうか。我も身体は一つしかない。許せ」
「いえ、陛下の御前で醜態をお見せしてしまい申し訳ございません」
ガイロンは深く頭を下げ謝罪をする。
「よい。気にするな」
「はっ、お許しいただきありがとうございます」
「ガイロン・スタンリー ヤガミアマギ。此度は大義であった」
「「はっ」」
「特にヤガミ。お前の活躍には目覚ましいものがある。裏切り者の……」
「ビルド・ライドックでございます」
椅子の隣に控えていた、眼鏡を掛けた男”クレール=アルヴァ―ン„が忘れられた男の名前を皇帝に伝える。
「そいつの領地を全て、そして爵位を与える」
「ありがとうございます」
アマギは頭を下げて感謝の意を示す。
「陛下。無礼かと思いますが一つお願いしたい儀がございます」
「なんだ? 申せ」
「一か月ほど自由な時間をいただきたい」
「ほぉ、なぜだ」
ジルフォードは興味深そうにアマギに聞く。
「長年探していたものが見つかりましてそのものを手に入れに行こうかと」
「なるほど」
ジルフォードとアマギの視線が重なる。
「ふっ、いいだろう。その探し物やらを手に入れてこい」
「ありがとうございます」
「だが、新しい領地の管理をある程度済ませてからな」
「はっ」
「そして、ガイロン」
「はっ」
「励めよ」
ジルフォードは短くガイロンに激励するとジルフォードの姿が消える。
ガイロンは立ち上がると跪くアマギをにらめつける。
「大将軍を討ったからといって調子乗るなよ」
「総司令殿は早く三国連合を攻略出来るように頑張って下さいね」
アマギは立ち上がりながら煽る。
「ちぃ」
ガイロンは舌打ちすると機嫌悪そうに大広間を後にした。
大広間に拍手が鳴り響く。
「ガイロン様にもあのように強気な態度をとられるとは流石ですね」
「近衛隊長にお褒めの言葉をいただけるとは光栄だな」
アマギは拍手をしながら近づいてくる元副監獄長、クレール=アルヴァ―ンに嫌みたらしく笑いかける。
「彼には感謝していますよ。彼がいなければこんなに早く近衛隊長に任命されることはなかったでしょう」
「それでなんのようだ? 私にその”彼„への感謝をただいいにきたわけではないだろう」
「流石ですね、話がはやい。実は二点確かめたいことがありましてね」
クレールは眼鏡をクッイとあげると鋭い目つきでアマギを見る。
「一つはあなたの正体です」
「正体? 私はヤガミアマギ以外の何者でもない」
「私が近衛隊長になってから空いた時間を使ってあなたの経歴を調べさせて頂きました。あなたは帝都の南にある小さな村から帝都にやってきて冒険者となり帝都を襲った邪龍を倒して今の地位まで登り詰めました」
「あぁ、その通りだ」
「だが、あなたには謎があります」
「謎?」
「ええ。それはあなたの出自です」
アマギは黙ってクレールの話に耳を傾ける。
「あなたの出自について情報は一切ありません。農民の出というのはただ世間が騒いでいるだけでどこにも根拠はありませんし、唯一確実な情報があるとすれば”ヤガミ„という名字のみしかし、その名字はあなた以外いなかった。そう、”彼„が現れるまでは」
黙っていたアマギの眉が少し動く。彼女のわずかな変化に手ごたえを感じながらクレールは続ける。
「”彼„ヤガミハルトはあなたとの共通点が多くある。ヤガミという名字はもちろん血のような赤黒い髪色に人智を超えた力。そしてお互い出自が不明な点」
「赤黒い髪か」
アマギはクレールが気づかないほど小さく笑みを浮かべた。
「だが、彼はあなたと違う点がある。それは彼が発見された場所が特定されているんですよ」
「ほぉ」
「彼が見つかったのはアルディエル牢獄を囲む”死の樹海„でした。しかも”死の樹海„で唯一我らが侵入出来る祠の中でした。私はその状況を踏まえてもう一度あなたのことを調べなおすため、あなたの名前が初めてでてきた村に調査をしました」
クレールは再び眼鏡をクッイとあげると話の核心に迫る。
「そこには”死の樹海„と同じ祠がありました。そして、あなたがヤガミハルトを探していると聞いたとき私の中の疑惑は確信に変わりました。あなたの正体は」
クレールは唾を飲み込むと口を開く。
「”神„ですね」
「神だと? 」
「はい。短時間でロイド大将軍の率いる三万を一人で殲滅させるなんて人智を超えています。ちなみにこのハルトくんは神であるあなたに使える”使徒„だと考えています」
沈黙が続く。クレールは再び唾を飲み込みアマギの返答を待つ。
「あははは、私が神でハルトが私の使徒か。面白いことを言ってくれるな。あいつが聞いたら呆れ返るだろうな」
辺りにアマギの笑い声が木霊する。その様子にクレールは唖然とする。
「え、ではあなたは神では」
「神ではない」
「では、あなた方は一体……?」
「おい、クレール」
「はい?」
「お前がいう神とは帝国が信仰する神のことか?」
「はい」
クレールが答えるとアマギの表情が変わる。
「そんなやつと一緒にされると困るな」
―― 殺気。クレールは見えないいくつもの槍に突き刺される錯覚に陥り座り込んでしまう。
「楽しかったぞ。じゃあな」
座り込んだクレールを置いて大広間の出入り口までいき扉を開く。
「そして、クレール私たちのことを下手に詮索すると死ぬぞ。気をつけるだな」
アマギはクレールに忠告すると大広間の扉は閉まる。
「彼女たち一体何者なんだ」
疑問とともにクレールは大広間に取り残された。




