身の程
先に動いたのはローガンだった。
魔力を纏い強化された拳が遥人の顔面に迫る。
遥人はすんでのところで避け素早くローガンの懐に入り込んで腹部を殴りつけた。
ローガンは土壁で身を守ると腰から双剣を抜き上段から斬りかかる。
遥人も魔剣『ネガシオン』を抜き、いなし、斬り返す。
「くっ」
ローガンは剣撃を受け止めるが勢いを殺しきれず後退してしまう。
その隙を見逃さず遥人は前進する。しかし、ローガンは簡単に追撃を許さず無数の巨礫を創り出すと遥人に向け放つ。
ローガンの姿を覆い隠しながら接近する颯の弾丸達に狼狽えることなく剣を振るう。
疾風のごとく鋭く繊細に振るわれた剣は迫りくる巨礫を切り刻み傷つかせる術を失わせた。
遥人は頬に触れた小石を気にする事なく突き進みその鋭い斬撃をローガンに浴びせる。ローガンは双剣で防ぎ片足で足踏みした。それと同調するように遥人の左右に石の壁が現れ、急速に迫ってきた。
遥人は驚きながらも飛び上がり後退する。
「やるね~パワーもスピードもおじさん以上だよ。これはおじさんもびっくりびっくり」
「Aランカーにそうおしゃっていただけると嬉しいです」
ローガンの賞賛に遥人は少し笑みを浮かべる。
「凄い……」
二人の激しい攻防を見守るミアは簡素の感想を漏らす。
辛うじて意識を失くさなかった観戦者たちも眼前の演舞を息を呑んで見ていた。
ミアは遥人が強いことはオーフェンとの戦いで理解していたが、余力を残してままリアムを倒し、会場に受験者のほとんどを魔力とプレッシャーだけで無力化させた男と互角に戦っている。この事実には驚きを隠せなかった。
「じゃあ、これはどうかな」
ローガンのセリフを合図に遥人の目の前にゴーレムが立ち塞がる。
彼より巨体で一つ一つの岩のパーツは不揃いだが大きく逆に威圧感を醸し出していた。
しかもその数十体。リアムのときより倍の数だった。
「リアムも突破出来なかったゴーレムたちをどう倒す?」
巨体のゴーレムたちでロ-ガンの姿は見えないがその声には余裕があった。
遥人は小さく微笑むと魔剣『ネガシオン』を握る力を強めて、走り出す。
「簡単ですよ」
先頭のゴーレムは自らの領域に遥人が入ると大きな拳を勢いよく振り下ろす。
が、その拳は振り下ろされることはなかった。
「再生がすぐに出来ないほど斬りさけば問題ない」
斬り刻まれたゴーレムたちは小さく音を立て崩れ落ちる。
遥人は間髪入れず次々にゴーレムに襲いかかる。
巨体で鈍重なゴーレムたちは遥人の動きについていくことが出来ず、土塊へと成り下がっていく。
「おじさんも参戦」
背後からローガンが斬りかかってくるが素早く振り向きネガシオンで斬撃を防ぐと斬り込んできた双剣の勢いを使ってローガンの背後に回り斬りかかる。
だが、ローガンは後退し、距離をとると両腕と双剣に魔力を集中させ強化させると遥人に向けて投げつける。
「っっ……!」
遥人は飛んでくる双剣をネガシオンで払いのけようとしたが最大限に強化された双剣の勢いは凄まじく斬るどころか逆に押し返されていた。
「隙あり」
「ぐはッッ!!」
遥人は双剣に気が取られている隙をついて態勢を整えたローガンに脇腹を蹴りつけられ吹き飛ばされる。
「終わりだ少年」
吹き飛ばされる遥人に向かって残った六体のゴーレムたちが一斉に襲いかかる。
「まだだ!」
遥人が叫びに呼応するかのようにローガンの魔力を吸った魔剣『ネガシオン』が青い光を放つ。
「うおおお!!」
遥人は怒号しながらネガシオンを力強く振る。
放たれた青い閃光は轟音を立てながらゴーレムたちを飲み込んだ。
閃光が消えたその闘技場にゴーレムたちの姿はない。
彼らが存在したであろう場所は大理石が抉れ、草地が顔を出していた。
「なるほど……最近魔剣『ネガシオン』が買われたと聞いたが、まさかきみの元にあったとは」
「この剣を知っているのですか?」
「あぁ、この街で魔剣が売られていることはほとんどないからね。おじさんも魔力を吸収、放出する魔剣が売られていると聞いて急いで買いにいったがきみに先を越されていたようだね」
遥人はただ高価な武器というだけでネガシオンを買ったが、想像していたローガンの話から魔剣は希少なものらしい。よく考えると遥人はこの世界のことをほとんど知らない。試験が終わったらこの世界のことを調べる必要があるかもしれない。
「そういえば聞いてなかったけど君ランクは?」
ローガンは思い出したように遥人に訊く。
「ランクはないです。まだ冒険者じゃないので」
「「「えっっ――――!!!?」」」
その場に驚きの声が湧き上がる。
辺境の地で行われる昇進試験でAランカーと張り合っている受験者がいるということでも信じがたいことだ。その異常者が冒険者どころかただの少年であるという事実は人々の驚きを塗り替えるのも当然だ。
「そういや今回冒険者志望の実技試験も兼ねているって話もしてたな。すっかり忘れてたよ……なんか君色々凄いね」
流石のローガンもこの展開は初めてなのか少し困惑した表情を浮かべる。
「あはは……」
この世界を知らない遥人も観戦者やローガンの反応から自分の異常性を理解し苦笑いしか出来なかった。
しかし能力を使わず戦った経験がほとんどなかった遥人にとって能力無しでAランカーと渡り合えてことに安心感を抱いていた。
Aランカーとは遥人が考えていたより特異の存在らしい。この分ならあの忌々しい能力を使わずに生活できるかもしれない。
「とんだ新人見つけちゃったねこれは……」
ローガンはため息をつくと呟く。
「じゃあ、そんな期待の新人に手加減するのは悪いからおじさんがんばっちゃおうかな」
ローガンを守るように再度十体のゴーレムが現れる。
体格は変化がないだが紫色の岩肌が不気味さを醸し出す。
遥人はゴーレムの異様な雰囲気に自然と身体に力が入る。
「じゃあ、いくよ」
ゴーレムたちが走り出す。
遥人は瞬時に一体のゴーレムに近づき、剣を走らせる。
ネガシオンは空を切る。
遥人の攻撃をゴーレムは難なく避けたのだ。
彼はは顔色一つ変えずに頭上から振り下ろされる拳に向かってネガシオンで斬りかかる。
ぶつかり合う拳と剣は互いの力が拮抗し、火花を散らす。
「魔力強化でスピードだけじゃなく耐久力も強化されているのか。ならこれはどうだ」
ネガシオンでゴーレムから魔力を少し吸収すると瞬時に魔力を放出する。
青い光を纏ったネガシオンによって拮抗していた力関係が崩れ、ゴーレムは拳から真っ二つに斬れる。
遥人は間入れずに容赦なくゴーレムを切り刻む。
が……
「回復力もか……」
切り刻まれたゴーレムは驚異的なスピードで形を取り戻していく。
再生された紫色の岩肌は健在で寧ろ以前より不気味さが増したようにも見えた。
「ぐはっっ!」
横腹の痛みと共に吹き飛ばされる。
遥人は咄嗟にネガシオンを地面に突き刺し、衝撃を殺した。
「なに!?」
前に意識を移すと目の前にさっきのゴーレムの拳があった。
咄嗟に横に飛び込み避け距離を取ると、休みなく降り注ぐゴーレムの追撃の中をネガシオンの元まで走る。
ギリギリでゴーレムの拳を避けつつネガシオンの元まで辿り着くと、そのままネガシオンを抜き魔力を放出させ、流れるように斬り抜けた。
続いて接近してきたゴーレム二体を一刀両断する。
両断されたゴーレムは動きが少し止まるが瞬く間に再生すると遥人は距離をとって魔力を纏う。
「っ!?」
身に纏った魔力は空気中に溶けるようにかき消えた。
その隙を突くように遥人に向かって大きな紫色の岩石が襲いかかってくる。
遥人は動揺を見せずネガシオンで難なく斬る。
「なっ……?」
二つに割れた岩石のから遥人の視界を覆う拳が迫っていた。
「うおぉぉっっ!」
遥人はネガシオンを迫りくる拳に突き立てる。
魔力に包まれた剣身は強固な岩の拳を削り取りながら前進する。
ゴーレムはネガシオンの進行に反抗する事なくその身体を散らした。
「本当によくやるよ。魔剣を持っているとはいえ、強化されたゴーレムたちとも対等に渡り合うとはね」
遥人は声の方を見るとローガンが後ろにゴーレムたちを従えていた。
微動だに動かないゴーレムたちからは先程の勇猛さは感じられない。
それどころか一切の動きを見せない彼らは精密に作れた人形のように見えた。
「でも、決定打には欠けている。 このままじゃおじさんに勝つことは愚か、触れることも出来ないよ?」
ローガンの気怠そうな口調と裏腹に目は笑っていなかった。
実際遥人の状況は悪い。そのパワーとスピードはゴーレムたちを上回っているが、驚異的回復力を持つゴーレムたちの防御網を破ることは出来ない。最終手段として残していた魔力を纏うことも理由は解らないが不可能なこの状況は最悪だ。
遥人の頭に赤髪の自分がちらつく。しかし、すぐに拒否する。
「まだ諦めない。ただやれることするだけです」
遥人はネガシオンの残っている魔力を全て放出する。
ネガシオンを包む魔力は音を立てて膨れ上がった。
「じゃあ、やれることってやつを見せてもらおうかな」
ゴーレムたちは再び体格では想像出来ない動きで近づいてくる。
息を吐くと遥人も走り出す。
―― 脳内に電気が走る。それは脳内を一瞬で駆け巡ると誰かの声が聞こえた。
「こちら冒険者ギルドヴァローナ支部です。東門にゴブリンの集団が出現しました。市民の方は外出を控えてください。冒険者の方は至急東門に向かってください」
それだけいうと声は聞こえなくなった。
ローガンにも聞こえていたのかゴーレムの動きは止まり、ローガン本人も神妙な顔持ちをしていた。
「今のは冒険者ギルドからの緊急放送だ。魔道具を使って市民や冒険者脳に直接流しているんだ」
ローガンは戸惑っている遥人に気づいたのか今起きたことを説明してくれた。
「なるほど。しかし、市民にまでなんて用心しすぎではないのですか?」
遥人はこの世界のことは知らないが、ゴブリンといえばRPGゲームなどで序盤出てくる弱小モンスターだ。
そんな弱小モンスターにそこまでの脅威があるとは考えられなかった。仮にこの世界が明晰夢ならばなおさらだ。
「おじさんもそう思うよ。 いくら100もいようとも対処は難しくはないはずだ」
ローガンは指を顎に添えて考える素振りを見せる。
遥人の予想通りこの世界でのゴブリンも強くはないらしい。
「まぁ、ここで考えても何も変わらない。 行ってみればわかる」
ローガンはあくびをしながら両手を上に伸ばすと周囲を見回す。
「ここにいる冒険者は戦えそうにもないな」
闘技台の周りにいる冒険者たちは多くがローガンの魔力と気に当てられ辛うじて意識はあるものの立っているので精一杯といった様子だった。
「きみはどうする? 一緒に来るかい?」
ローガンは鋭い目つきで遥人を見下ろす。
「もちろん」
遥人は笑いながら答える。
傷だらけの遥人の目には闘志がまだ消えてはいなかった。
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