挑戦者
リアムはゆっくりと闘技台に上る。
そこにはAランカーの鍛え上げられた腕を組み佇む強者が一人。
放たれるプレッシャーは凄まじく、戦った経験があるリアムでさえ冷や汗を浮かべてしまう。
だが、リアムは負けない。
応援してくれる仲間がいるのはもちろん、友の前で盛大にかっこつけてきたのだ。
戦う前から気負けすることなどできるはずもない。
「ローガンさんお久しぶりです」
「おぉ、リアムか。随分たくましくなったな」
「ありがとうございます。ですがまだまだです。」
「謙遜するとこは相変わらずだな。もう少し誇ったほうが可愛げがあるぞ」
リアムは少し驚く。
名前ぐらいは知っているとは思っていたが過去の様子まで覚えているとは想像していなかった。
「さて……たくましくなったのは外見だけじゃないことを見せてもらおうか」
ローガンから柔らかな表情が消えた瞬間、空気が凍る。
騒がしかった観客席には静寂が広がり視線は闘技台に注がれた。
リアムの口からため息が漏れる。
目の前に立つ人物との対峙するのはこれで二回目、実力は知っていた。
なのに手の震えが止まらない。
表情を変えただけでここまでの圧力だすローガンに畏敬の念を、それ以上に弱い自分に呆れ果てた。
―― でも……ッ!
リアムはうっすらと笑みをこぼすと腰から剣を抜き構える。
「受験番号078番。Cランカーリアム=アルフォンソ。いきます……ッ!」
リアムは瞬時に魔力を纏うとローガンに斬撃を加える。
決してその攻撃は易しいものではない。
が、ローガンは涼し気に次々と襲いかかる剣撃を難なく双剣で防ぐ。
「魔力を纏えるとは成長したね。おじさん嬉しいよ。けどね……」
ローガンは迫りくる剣を払いのけ素早くリアムの懐に入ると自らの右手剣を上へ投げる。
「まだ力不足」
「ぐはぁっっ!」
ローガンの振るう拳がリアムの腹部に直撃する。
その強烈な一撃でリアムは勢いよく吹き飛ばされた。
意識が飛びそうになるのをこらえ、地面に剣を突き刺して勢い止める。
「ほぉ……まともにくらっても意識を保っているとは。やるねぇ~」
投げ上げた剣を華麗に掴み取るりながら感心したように呟く。
リアムは口から滴る血を拭きながら立ち上がるが、ダメージは小さくはないようでその身体はふらついていた。
「予想はしていたけど実際にここまで実力差を見せられるとヘコむな……けど、ここで負ける訳にはいかない。約束したから」
「中身もしっかりたくましくなったみたいだね。おじさん嬉しいよ」
リアムの突然髪が逆立ち、周りからなにかが弾ける音が断続的に鳴り響く。
「電気……?」
「ローガンさんと同じ自然系の『電気を操る能力』だよ」
「かっこいいなその能力! 漫画で強いキャラが持ってるやつだ」
「まんが……?」
「地元にある本の一種みたいなやつだよ」
「ふーん。聞いたことないな……」
「俺の地元じゃ人気の娯楽でさ。あっ、動くみたいだよ」
遥人はミアの追及を上手く交わすともう一度闘技台に目線をそそぐ。
「さあ……来なさい」
リアムは手のひらをローガンに向けると弾丸ほどの電撃を放つ。
それは豪雨のようにローガンに襲いかかった。
ローガンは双剣を振り自身の身を守る。
だが、ローガンの表情には余裕はない。
その斬撃はさっきの攻防より鋭さを増していたが雷弾を切り裂くことは出来ず、弾き飛ばすことで精一杯だった。
四方に飛び散る雷弾は地面にぶつかり、徐々に土煙が上がる。
気づけば土煙はローガンを覆い、リアムの姿を隠していた。
それでも雷弾の強襲は終わらない。
「あんまりよくないね……この状況」
土煙で相手の様子がわからないのに加えて、雷弾で身動きが取れないこの状況は誰が見ても最悪としかいいようがない。
―― 刹那、ローガンは殺気を感じた。
横に顔を向けると電気を纏ったリアムが斬りかかろうとしていた。
ローガンは驚きの表情を浮かべるが、不意に笑みをこぼした。
魔力を纏うと、右手の剣では雷弾を処理し、左手の剣でリアムの攻撃を受け止める。
剣と剣のぶつかり合いによって生まれた衝撃で土煙が晴れる。
「魔力と電気を纏った斬撃を片手剣で受け止めるとは。流石ですね」
「おじさんに魔力を纏わせた君もすごいよ」
二人はお互いに賞賛を贈る。
彼等の眼は純粋な戦士そのものだった。
「ですが、想定内です」
リアムがニヤリと笑みを浮かべると、ローガンの身体が電光に包まれる。
「くっっ……」
ローガンは顔を歪める。
その様子に観客たちは歓声を上げた。
圧倒的な力で受験者たちを寄せ付けなかったあのAランカーが今日初めて痛みを顔に出したのである。
「リアムいけー!」
「リアムくん頑張れー!」
遥人とミアも周りの観客に負けじと声を張り上げ声援を贈る。
「まだ甘いぜ、ぼっちゃん!!」
ローガンはさらに膨大の魔力を纏うと力づくで電撃をはじく。
「わかっていますよ。本命はこれですッ!」
リアムは雷弾を放ったときと同じようにローガンに手のひらを向ける。
しかし、掌をに溜まる電気は比にならなかった。
「これは能力強化か!?」
ローガンは避けようとするが先程の電撃で身体が動かない。
「あの電撃もこのための布石か……!」
「はい」
リアムはうっすらと笑うと放つ。
発さられたその光は轟音を立てながら地面をえぐり、ローガンを包み込む。
攻撃による土煙がステージを覆い尽くした。
全ての観客が固唾を飲んで見守る。
これまで通りローガンが立っているのか。
はたまたローガンに手傷を与えたルーキーだけが立っているのかを。
突然なにかが崩れ落ちる音が聞こえる。
謎の音に観客に動揺が走った。
その観客を焦らすようにゆっくりと煙が晴れていく。
遂に晴れてステージの全貌が見える。
そこには荒い息遣いをしたリアムに相対する砂ぼこりで汚れたローガンが立っていた。
「まさかおじさん特製の土壁を完全に破壊するとは……本当に凄い。自慢してもいいよ」
ローガンは拍手をしながらリアムを賞賛する。
「だけど楽しい時間も終わりだよ。まだ試験はあるからね」
ローガンが話終わると、地面から3mほどの土塊が5つほど現れる。
それは形を変え人型になると変化が終わる。
遥人はそれに見覚えがあった。
「ゴーレム……」
「いけ」
ローガンが短く命令するとリアムに向かっていく。
リアムはゴーレムの図体に似合わないそのスピードに驚きながらも、迫りくる大きな拳を避ける。
リアムは魔力と電気を身体に纏い剣を構えると瞬時に攻めに転じた。
次々と襲いかかるゴーレムの拳を避け、確実に切り付ける。
しかし、ゴーレムはそんな攻撃をもろともせず殴りかかってくきた。
リアムは不審に思い、切り付けた部分を見る。
そこにあるはずの傷口は塞がっていた。
「これじゃキリがないな」
リアムは戦略を切り替えると真っ直ぐローガンを目指す。
だが、ゴーレムたちはそれを許してくれずリアムの前に立ちはだかった。
リアムに向けて五体のゴーレムたちは一斉に殴りかかるが諸共せずをジャンプをして瞬時に避ける。
「おじさんのこと忘れちゃ困るよ?」
―― リアムの時が止まる。
「しまっ……!!」
背後に突如現れたローガンの予想外な攻撃に反応できず拳が腹部の方へ吸い込まれる。
「昇進おめでとう、リアム」
そう耳元で呟かれたリアムはそこで意識を失った。
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