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オリジンワールド  作者: HIGEKI
冒険者入門
13/50

先駆者

 


 早朝にも関わらずヴァローナを囲むように広がる草原には大理石の闘技台がいつのまにか設置されており、それを囲むように数多の冒険者が集っていた。


「思った以上にたくさんいるな」


「周辺の街の冒険者も来てるからね」


「この中で俺と同じ登録料免除は何人いるだろ」


「多分ハルト一人だと思うよ? だって、冒険者でもないのにいきなりAランカーと戦うんだよ? 普通怖くてやらないじゃないかな」


「え?」


 リアムの発言に思わず驚く。

 オーフェンがいっていたことから少ないとは予想していたが、いないとは考えていなかった。


「本当にハルトは凄いよ……いきなりAランカーに挑もうとしてる所はもちろんだけど、この人数を見て気負けしないなんて。最初僕なんかこの場に着いた瞬間緊張して身体が震えてたよ」


「まあね。色々経験してるから」


 遥人は思わずアルディエル牢獄での囚人たちとの戦いが脳裏に浮かべてしまう。

 思い出したくなかった。

 思い出すだけで、人を殺めた罪悪感と当然のように殺戮し尽くした自分に恐怖してしまう。

 正気を取り戻したときに拒絶反応を起こさなかった自分に悪い想像してしまいそうになる。


「僕また変なこといった……?」


「いや、大丈夫だよ。気にしないでくれ」


 心配して声を掛けるリアムに遥人は笑顔で返すと試験に集中するように心の中で自分に言い聞かせ切り替える。


「リアムくん、ハルトくんおはよう」


 背後から聞こえる声に二人は振り向く。

 そこには手を振るミアがいた。


「おはよう、ミア。オーフェンの様子はどうだい?」


「身体は回復したんだけど、昨日のことがショックだったみたいで……今日は来ないって」


 リアムの質問にいいづらそうミアは答える。

 今世界での病院の医者は回復系の能力を持ち、大抵の傷などは簡単に治してしまうようで、オーフェンも一日でほぼ完治したらしい。


「流石に昨日はやりすぎたか……」


「ハルトくんは悪くないよ。あいつの自業自得。だから気にしなくて大丈夫」


 笑顔でフォローをしてくれるミアに思わず遥人は顔を赤くする。現実世界で異性との交流が少なかったことが仇となった。


「ハルトどうしたの? そんな顔赤くして」


「う、うるさいな。早く受付にいくぞ」


「そこまで急がなくても受付は逃げないよー」


 遥人は意地悪な笑みを浮かべるリアムの追及から逃れるために走って受付に向かう。

 リアムも依然とその表情を保ったまま後を追う。


「ハルトくんっておもしろいな。リアムくんが入れ込むのも分かるかも」


 二人の後ろ姿を眺めながらミアはうっすらと笑みをこぼした。




 ◇




 遥人たちは受付でコールを済ますと、順番を記載されたゼッケンを受け取る。


「遥人は125番か。僕は78番だから僕が先だね」


「お前の戦いを見てローガンさんの戦いを分析させてもらうよ」


「任せて! っていいたいところだけど期待に沿えるかわからないな……」


「そんなに強いのか?」


「うん。前回僕が戦ったときは身体能力だけでやられちゃたよ。正直今回は魔力を纏わせる所までいけたらいいところだと思う。それどころか今日は強い人はいないみたいだからハルトの番が来るまで能力は見れないかもね」


「それほどか……」


 遥人は出会ってから短い時間しか経ってないがリアムが戦いの前に敗北を簡単に口にする人間ではないことはわかっている。

 その彼がそう分析してしまうほど強大な力を持つ冒険者なのだろう。


「でも、辛うじて能力の情報だけならあるよ。彼の能力は自然系の『土を操る能力』」

 だ。残念ながらこれしか情報がないんだけどね」


「いや、充分だよ。ありがとな」


 突然鐘がなる。

 鐘の音を合図に周りの冒険者たちが動きだす。

 それに合わせに遥人たち三人もステージの周りに向かった。


 チリチリな髪が特徴的な上裸の大男が力強い足取りでステージに登る。

 腕を鍛え抜かれた肉体を持つ顎鬚を生やした男は、腕を組みながら佇む。

 その風貌からは歴戦の戦士であることがひしひしと感じられた。


「それでは今から試験を始める。では順番にステージに上がってくれ」


 ローガンが開始宣言をすると、一人の青年がステージに上る。


「受験番号001番。Bランカーのディラン=ダールトンです」


「最初からBランカーか。これはいきなりいい戦いが見られそうだな」


「それはどうかな」


 リアムはステージの二人に期待の眼差しを向ける遥人に意味ありげな笑みを浮かべる。


「Aランカーになるに相応しいか試させてもらうよ。来なさい」


「じゃあいきますよッ!」


 ディランがそう叫んだ瞬間足元の影が具現化しローガンに襲いかかる。


 ローガンは左右の腰から双剣を取り出すと迫りくる影を斬り刻む。


「ほぉー、“影を操る能力”とは珍しいね」


「ならこれはどうですか? 」


 ディランは自分の影をまた具現化させると影を複数に分け、大量の影の槍を創り出す。

 ローガンは影たちの総攻撃に顔色一つ変えずに切り裂く。


「さすがですね。ですが読んでいました……!」


 ディランは不敵に笑うとローガンの切り裂いた影が元の形に再生すると再び襲いかかった。

 ローガンも先程と同じように双剣で斬りかかる。


 しかし、突如異変が起こる。

 ローガンの足元の影が具現化するとロープ上に変化すると身体に巻き付き身体の自由を奪う。


「くっくっくっ……私の戦略勝ちのようですね」


 ディランは不気味な笑い声を上げながら拘束されたローガンに近づく。

 その態度は既に勝利が確定したような口ぶりだった。


「崇高な私の力を甘く見るからこんな無様な負け方をするのです。最初にこの私と戦うことになるとは……本当に不幸な方だ」


 ディランの態度どんどん傲慢なものに変わっていた。

 それはAランカーであるローガンを小馬鹿にするほどにもなっていた。


「……んだ」


「はぁい? 何ですか?」


 ディランはローガンの呟きが聞き取れず、馬鹿にするように聞く。

 その態度は完全にローガンを舐めていた。


「45点だ」


 その呟きを聞き取った瞬間ディランの頬に衝撃が走る。

 ディランはそのまま盛大に吹き飛ばされ、ステージを超え草原と投げ出される。


「いい能力を持ってるのにそれだけだ。おじさんがっかりだよ」


 ステージに立っていたのは影の呪縛から解き放たれた呆れ顔のローガンだった。




 ◇




 ローガンはそれ以降も魔力を纏う事なく勝ち続けた。

 その肉体は無傷。

 最初の戦いの後もBランカーと戦ったが全く寄せ付けなかった。


「ぐはっ」


 今また遥人たちの目の前でBランカーが倒された。

 相変わらずローガンの肉体には傷はない。

 そんな中、ローガンの口から次の番号が告げられる。


「次、78番」


 リアムは深呼吸をし、目を閉じる。


「よし!」


 リアムは覚悟を決めたように目を開くとステージへ歩き出す。


「リアムがんば」


「リアムくんがんばって!」


「うん、2人ともありがとう」


 遥人とミアの声援を浴びながら歩を進める。


「あっ、そうだ。ハルト」


 何かを思い出したようにリアムは立ち止まる。


「さっきは負けるのは仕方がないみたいにいったけど戦う前から投げ出すことは絶対にしない。勝ちにいくよ」


「あぁ。みせてやれよ。お前の実力を」


 遥人はエールを送る。

 振り向いたリアムの目に燃え盛る闘志の炎を信じて。


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