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オリジンワールド  作者: HIGEKI
冒険者入門
11/50

遭逢

 


 実技試験は二日後の正午から行われることになった。

 試験を受けるのは遥人だけではない。

 昇進試験も兼ねており、ヴァローナを拠点としない冒険者も多く参加するらしい。


 日が沈み街灯の光が夜道を照らす。

 そんな中、試験を受けるために名前、年齢を登録したあと、遥人はエルフの受付嬢に紹介された試験の参加者専用の宿泊施設へと向かっていた。


「ほお……思ったのと全然違うな」


 遥人は冒険者たちが使うと聞いて小汚い宿を想像していたが、予想を裏切りレンガ造りの豪華な宿だった。


 宿の中に入ると受付で冒険者たちが列を作っていた。

 三人の受付嬢はその大人数の対応に追われていた。


「多いな……こんなに参加者がいるのか」


 利用者の多さに驚きながらも列に並ぶ。

 数十分待たされたが、無事チェックインを済ませると部屋に向かう。


「305号室は……ここか」


 勢いよく扉を開けて部屋に入ると所構わずベットへ飛び込む。


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 久々のふかふかベットは遥人の睡魔を誘い遥人は拒むことなく深い眠りについた




 ◇




 遥人は背中に包み込むような温もりを感じ、目を開ける。


「そっか。あのまま寝ちゃったのか……」


 ゆっくりと身体を起こして窓を見る。

 そこからは陽光が注がれていた。

 遥人は思わず笑みをこぼす。


「平和だ。すごい落ち着く……ここでミルクティーを飲んでくつろいだらもっといいんだけど」


 遥人の一日はミルクティーから始まっていた。

 決して作るのは上手くはなかったが、落ち着いた気分になることが出来る。

 朝からミルクティーを飲む習慣が一日の起爆剤になっていたのは事実だった。


 もちろんそんなものを作ることは今出来ない。

 この世界に紅茶の茶葉があるとは限らないし、存在したとしても貴族などが飲む高級品として扱われている可能性が高く手に入れるのは難しいだろう。


「はぁ……今日からミルクティー飲めなくなるのか。明晰夢ならいつでも飲めるのに……」


 遥人は目をつぶり頭の中でミルクティーを思い浮かべ念じる。

 もちろん目を開けてもなにも変化がない。


「なんだかな……ここはどこなんだよ」


 予想していた光景にため息をつきながら仰向けに寝そべる。


「まあいいや。朝ごはんでも食べに行くか」


 重い身体を起こし、ベットから立ち上がる。

 宿には無料で朝食が付く良心的サービスがあった。本来無料ならありがたくいただこうと思う。

 しかし、この世界の食べ物を見たことも食べたこともない遥人は食べられるのか不安があった。

 遥人は重い足取りで二階の食事スペースに向かう。配膳台の前には食べ物がズラリと並んでいた。


「現実の世界と見た目は一緒だな……これならいけるかもしれない」


 遥人は適当にパンとハムのような肉を何個か取ると不安そうに肉をパンに挟み込みゆっくりとパンを持つ。

 唾を飲み込み一呼吸置いて覚悟を決める。


「いただきます」


 勢いよくかぶりつく。

 険しかった遥人の顔色がみるみる変わる。

 口の中に広がったのは遥人が知っている味だった。


「う、うまいぞこれ!」


 旨みを認識した途端、食欲という名の願望に遥人は支配されていた。

 パンを食べ終わると、強引に立ち上がり食べ物を取りに走り出す。

 次々と持ってくる食材を無我夢中で食べ続ける。

 今の遥人には食べることしか考えられなかった。

 彼の身に色々なことが起こりすぎて本人も気づいていなかったが、それほど身体は食事を欲していたのだ。


「朝からたくさん食べるね。でも野菜もちゃんと食べなきゃダメだよ」


 遥人はその声に反応して顔を上げる。


「やあ、ハルト。僕の名前はリアム=アルフォンス。相席いいかな?」


 そこには、金髪の美少年がいた。小さな顔に綺麗な青色の瞳を持ち、長身で細くスタイル抜群の体型。まさにイケメンの代名詞といえるような風貌を持っていた。


「だ、大丈夫ですよ」


 遥人はその高スペックに圧倒され一瞬言葉が出なかった。


「ありがとう。ため口で大丈夫だよ。同い年だからさ」


 にっこりと笑うリアムに一瞬釘付けになる。遥人が女だったらハートを打ち抜かれていただろう。


「それにしても、朝から凄い量食べるんだね。僕なんかパンだけで充分だよ」


 リアムはそう感心するとパンを口にする。

 彼のパンはハムと野菜がバランスよく挟まれており、ハムを無造作に挟み込んでいる遥人とは対照的だった。


「恥ずかしいところ見せちゃたね。色々あって二日間食べてなくてさ……」


「二日間も!? それはあれだけ食べちゃうよね……なんか野菜食べなきゃとか余計なこといってごめん。自分が好きなものを食べてくれ」


 リアムは申し訳なさそうに謝罪した。

 遥人はリアムの優しさに驚愕する。これだけのことで謝ってくる男は遥人のまわりにはいなかった。


「あっ、そういえばなんで俺の名前を知ってるんだ? まだ自己紹介してないのに」


「実はきみのことが気になってね。きみの受付を担当した人に名前と年齢を聞いたのさ」


 リアムは「ごめんね」と手を合わせて遥人に謝る。


 あの尻軽女め、暴言を咄嗟に口に出しそうなった遥人は、エルフも人間と変わらないという事実に最悪な形で思い知らされた。

 イケメンは正義それはどこの世界も変わらないらしい。


「でも、俺のどこが気になったんだ?」


「うーん、上手くいえないんだけどなんか他の人と違う何かを感じたんだよね。それに……」


「それに?」


「おもしろいしさ。ギルドの前でのことなんかおもしろかったよ」


「ギルドの前って……まさかお前!?」


「あの嬉しそうな顔から一転していきなり謝るとことか最高だったよ」


「くそぉっっ! もう俺にそのことを思い出させるなっっ!」


「あははは」


 リアムは黒歴史を思い出して顔を赤くして恥ずかしがる遥人の様子を可笑しそうに笑う。


「改めてよろしくね、ハルト」


「あぁ、よろしくな」


 遥人は拳をリアムの方に向ける。


「ハルトこれは?」


「お互いの拳をぶつけ合うのが俺の故郷での挨拶みたいなものなんだ」


「そうなんだ。なんかいいねそれ」


 二人の男は互いに拳をぶつけ合う。

 そこにあったのは一点の曇りもない笑顔だった。


「そういえばなんかハルト臭いよ」


「あっ、シャワー浴びるの忘れてた」


また遅くなってしまいました。

申し訳ございません

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