裏切りの代償
薄暗い部屋に椅子が一つ。
その椅子には小柄な男が縛り付けられていた。
それ以外は何もない。
四方はコンクリートで固められ、
ネズミはおろか風さえも通さなかった。
男は突然現れた眩い光に目を覚ました。
正面には黒い男が、壁に寄りかかりながらほくそえんでいた。
「待ってたぜ提督・・・いや、今は伯爵か。」
「だ、誰だ貴様は!?」
「言ったところでわかりはしねぇよ。顔を変えたんでね」
男は手足を動かすが、肉に食い込んだ鎖はどうすることもできない。
「今から質問に答えてもらう。」
暫くすると、床に血だまりが出来上がった。
提督の顔は青く腫れあがり、もはや誰だか区別もつかない。
流石に口が堅く、どんな質問をしても帰ってくる答えは同じだった。
「なぜオークを殺したッ!」
提督の首を締めあげる。
「・・・何のことだか私にはわからん。」
「ウソをつくなッ!!」
提督の体が椅子ごと宙に浮き、壁に叩きつけられた。
怯える提督を再び起こし、手で口をこじ開ける。
「あの日、終戦の日だ。第三兵団の指揮をしていた貴様は兵士たちを城に待機させた。だが、やってきたのは黒い鎧に赤い直垂を着けた帝国の軍隊だった。答えろ!あの部隊は何者なんだ!」
「し、知らないっ」
俺はナイフを提督の太ももに振り下ろす。
悲鳴が部屋中に響き渡る。
執拗に、何度も振り下ろす。
気絶しては回復魔法をかけ、意識を強制的に戻させた。
「お前があの部隊を指導したのかッ!」
指の爪をはがし、その上から竹差しを突き立てた。
それは普段守られているはずの柔らかい肉に埋まり、
体中に想像を絶する痛みを走らせる。
数百回叫び、数十回気絶した後、
「俺は知らなかったんだ!!」
「何!?」
「城を攻め終わった後、部隊の実権は突然帝国から来た兵士が全て取り上げたんだ!」
「それがあの部隊か?」
「そ、そうだ。あいつらは戦争を陰から牛耳っていた!俺達は奴らに言われたとおりにしていただけなんだッ!信じてくれ!!」
「奴らの名前はなんだ?奴らは今どこにいる?」
「わ、わからない」
俺は拳を振り上げた。
血に濡れた拳が提督の顔にめり込み、後ろの壁へと激突した。
再び拳を振り上げる。
「鷹の目だ!奴らは自分たちの部隊をホークアイと言っていた!!」
「鷹の目?」
「戦後にどうなったかはわからないっ!でも奴らは常に強い戦士を探していた!と、クオーリヤ闘技場にいるかもしれないっ!本当にこれだけしか知らないんだ!」
「闘技場か・・・」
「なぜ奴らの情報を集める・・・?なぜオークに固執する?」
「部下の顔を忘れるなよ。お前にとっては都合のいい捨て駒に過ぎなかっただろうがな。」
俺はナイフを抜き、自分の顔に当てた。
左目から頬に掛けてゆっくりと刃を降ろす。
血が伝い、傷が露わになった。
昔、オークの俺が持っていた傷。
「その傷は・・・グレンっ!?」
「へぇ、意外にわかるもんだな。」
「ありえない・・・グレンはオークだ!!それに死んだはず・・・」
提督はただ口を開閉した。
死んだはずのオークが人間になって目の前に現れたのだから無理はない。
「な、なぜ・・・」
「帝国を潰すために戻ってきたんだよ・・・地獄からな」
俺は呆然とする提督の顔を掴み、宙へ持ち上げた。
歪な音が部屋に響き始める。
「助けてくれ!!」
パァン
提督の頭が破裂し、椅子と胴体が地面へと落ちた。
「あっけないもんだな・・・人間なんて・・・」
鉄の扉を開けると、そこにはミリアの姿があった。
「なかなかいい部屋だっただろう?屋敷に作っといて正解だったな。」
「ああ、助かった。」
俺は血まみれの手を拭った。
「クオーリヤに行く。そこの闘技場に奴らはいるはずだ。」