表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

黒い亡霊

ロザリア

ここはミリアの館が隠されている森から東に進んだ所に位置する中級都市

交易所として著しく栄えたこの街は富を求め様々な人間が集う場でもあった

露店が立ち並ぶ大通りを行き交う人の群れ

全身を鋼の鎧に包んだ兵団が、魔導書を持つ魔導士が、巨大な一角獣に果物を運ばせる行書人が

絶えず行き交うその様は流石といったところか

昼夜を問わず賑やかな喧騒が響くこの街道を進む者が2人

「・・・」

「・・・この街では私の言う通りにしてください」

一人はボロ布を羽織った大男

その横を歩くのは真っ白なワンピースを着た右腕の無い少女

2人は殆ど言葉を交わすことなく人の波を掻き分け、歩き続ける

「ったく・・・」

俺はアルを尻目に深いため息をついた



ミリアの提案は実に簡単なものだった

冒険者として活動し、名をあげること

冒険者というのはいわゆる総称であり、仕事内容としては傭兵のそれだったり、ハンターのそれだったり

金額次第で仕事に糸目はつけない、何でも屋みたいなものだ

極めて優秀な冒険者は帝国に騎士としてスカウトされる

俺達の狙いはこれだった

一国対一人

正面から勝負を挑んでも帝国という怪物には触れることさえできないだろう

冒険者として有名になる事

それが帝国に近づく、復讐の為の小さな一歩だった

そして俺が館を出る前、姿を現したのはアールグレイだった

不気味な魔導士の真意はわからないが、俺のサポート兼監視役だそうだ

魔法の使えない俺に代わって移動魔法やミリアとの連絡を取り合ってくれる

ポニーテールを揺らしながら歩くその様は何処にでもいる15歳ぐらいの少女であり、異形の腕を隠し持つキメラには見えない

しかし実際は無口で心の内を読めない少女キメラ

一人で好きにやるつもりだったが思わぬ障害が出来てしまった



「それにしても凄いな・・・。まるで戦争なんか無かったような賑わいっぷりだ」

俺は何処までも続く露店を見渡し、感嘆の声を洩らした

まるで別世界だった

俺が何年もの間体験していた戦場は本当にこの世界に存在しているのだろか?

そんな疑問が浮かび上がってくるほど、ここは戦争から遠い気がしたのだ

「あなたのいた戦地はここより遥か北です。戦時中、この辺りでは帝国軍の武器が生産され運ばれました。戦争経済がこの街を潤わしたんです。」

アルは淡々と説明する

大通りから外れ、裏道を何本も進むと辺りの雰囲気が変わり始めた

人々の喧騒は無くなり、熱した鉄を叩く子気味良い音が狭い路地を反響し始める

食料を売る露店は無くなり、代わりに店前には剣や盾、鎧、様々な装備が置かれてた

多彩な鉄に彩られた道をしばらく進むと、アルが足を止めた

「ここです」

目の前に現れた古めかしい店は他の店とは明らか異なる雰囲気を醸し出していた

商品であるはずの武器や防具は地面に乱雑に置かれ、まるで売る気が無いように見える

ろくな照明もない暗い店内を進むと一人の男の姿があった

熱した溶岩を前に半裸で腕を組んで座り、何かを考えている様だった

「バオリおじさーんっ」

「なっ!?」

アルはまるで少女のように元気な声を張り上げ、髭面の男に手を振った。いや、実際少女なのだが・・・

「おっ、シェスタじゃねーか!元気にしてたか?」

「うんっ!」

バオリはアルの声に振り返り、立ち上がる

引き締まった上半身が溶岩の光に照らされ、筋肉の隆起が露わになった

「そいつは?」

「この人はローランドさん、お父さんの仕事仲間なんだ。今日はロランさんの装備を新調するように言われてきたの!」

「・・・」

言葉が出ない。人はここまで自分を偽ることができるものなのか・・・

俺はアルの豹変ぶりにただ驚くしかなかった

いや、もしかしたらこっちが本性なのか?

本当は純粋無垢でいたいけな少女なのかもしれない

どうでもよい憶測が俺の頭の中を駆け巡った

「・・・ねっ!」

アルは語尾を強め、バオリに見えないよう俺の太ももをつねり上げた

「いでっ!そ、そうだな」

この握力は間違いなく並の人間ではない

何故かホッとする

「いい身体だ。ちょっと待ってろ、ピッタリなのがあるぜ」

バオリはそう言うと奥の倉庫から一式の防具を取り出した



バオリの持ってきた防具は非常に簡素だった

派手な装飾のない、鉄と鋼によって組織された漆黒の防具

胸当てに篭手、肩当て、上半身を最低限守るための鉄の塊

しかし、鈍い鉄の匂いと心地よい重さが戦場慣れした俺の体に安息を与えた

下半身も同じように動くことを重視した必要最低限の造りだった

「若いくせに様になってるじゃねぇか」

バオリは鏡に映った俺を満足そうに眺めた

この体になってから初めて防具を着るが、不思議と違和感はなかった

防具の質がいいからだろうか?

「さて、問題は武器だな」

バオリは武器を選ぶため再び倉庫に戻っていった

店の中をぐるりと見渡す

あちらこちらに様々な種類の武器が置かれ、机や椅子が鉄の塊の中に埋もれている

アルはその武器の山からダガーを引き抜き、もの欲しそうに眺めていた

そして

俺は乱雑に置かれた武具の中

一つだけ丁寧に壁に立てかけられた それ を見つけた

それは俺の身の丈と同様の大きさで

太く長い持ち手の先には不気味な光沢を放つ鉄の塊があった

禍々しいほどの威圧感を放つアックス

それは見る者に竜の尾を想像させ

処刑人が持つ断頭斧よりも段違いに大きく、分厚く、鋭かった

「それは俺の最高傑作だ」

いつの間にか戻っていたバオリが自信満々にそう言い放った

「最も モノ を殺すのに適した武器。それだけを突き詰めて作ったんだが・・・持てる人間がいなくてな。こいつが暴れ回るとこを拝んでみたいもんだぜ」

「そうか」

俺は持ち手を掴み、壁から斧を引きはがした

冷たく、重く

体中の体温を吸い取られそうだ

この斧は生きている

積もった埃が斧から離れ、より一層禍々しく刃を光らせた

「なら俺があんたの願いを叶えてやる」

「お、お前片手で・・・」

鏡には先ほどまでいたボロを纏った大男の姿は無く

映っていたのは恐ろしいほどに禍々しい威圧を放つ漆黒の戦士だった

「お前、ホントに人間か!?」

「・・・さぁな」



装備を整えた俺たちは再び大通りに戻り、この街で一番大きな建物の前に着いた

壁には勇ましいほどの装飾が施されており

高らかに掲げられた看板には ギルド の文字が彫り込まれていた

冒険者を名乗るには冒険者をまとめるギルド協会に登録する必要がある

一歩一歩階段を踏みしめる

身に着けた鎧が、竜の尾が心臓と共に弾んだ

全ては今日

ここから始まるのだ

沈みゆく夕日に背を向け

不敵に笑う黒い戦士はやがて建物の中へと消えていった



後半少し変更しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ